#08 容疑者たち




 今日は土曜日で、毎週の習慣の朝のジョギングを中止し、自室で私物の確認や、この1週間のことを思い返していた。


 現状は、容疑者=今週俺の部屋に来た人物&俺が不在でも部屋に入れた人物、と考えられ、4人の人物がそれに該当した。


 どの人物も俺との関係で言えば、近い存在で、『疑いたくないけど疑わざるを得ない』という状況が俺を悩ましくさせている。





 今日のミキとのデートは11時半に出れば約束の12時に充分間に合い、まだ時間があるので、容疑者たちの人物像をもう1度整理してみた。




 一人目の容疑者。


『佐々木ミキ』は俺の恋人で、A県A市内出身。現在も市内の実家に暮らす俺と同い歳の今年二十歳。

 中学からバレーボールに打ち込み、高校は私立の女子高に進学し、部活ではバレー部のキャプテンを務めていた。

 大学は高校と同じ系列の私立のD女子大に進学したが、バレーボールは続けずに今はサークル等にも入っていない。


 性格的には、体育会系女子らしくサッパリしてて面倒見が良く、責任感と正義感が強く、初対面から話しやすい印象があった。

 俺が初めての彼氏で、付き合い始めた最初の頃は人前では滅多にデレデレ甘えたりはしなかったが、今では慣れてきたのか甘える様になったし、泊まりに来た時など他人の目が完全に無くなると、一緒にお風呂に入ったりするし、エッチにも積極的な方で、俺に対してべったりのラブラブだ。


 そして、俺の部屋の合鍵を持つ唯一の人物で、それだけ信頼していたのだけど、逆にそのことで一番疑わしい容疑者になってしまっている。 他にも、俺の部屋に最も多い回数来ていることや、室内のドコにナニがあるのかも一番把握している人物であることも疑惑の要因となっている。


 しかし、俺が抱いている彼女のイメージや性格、それに普段の行動を見ている限りは、他人の物を盗んだりするような人にはとても思えず、もし犯人だったとしても、俺の私物を持ち出す理由は悪意があってのことでは無く、好意故にと信じたいところであり、行き過ぎた好意からの犯行ならば、お説教の1つや2つで許せると思う。

 ハッキリ言って、このことを理由にして別れるという選択肢は、俺には無い。

 やはり、彼女のことは好きだし、疑いたくないという気持ちも強く、なのに状況的に見ると犯人の可能性が一番高いことに、ジレンマを感じる。





 二人目の容疑者。


『秋山ヒトミ』は俺の妹で、B県出身でA市在住、1つ下の今年19歳。

 実家を出て、今俺も住むA市内にある国立C大学にこの春入学したばかりで、俺の自宅から自転車で10~15分程の距離にある賃貸のワンルームに一人暮らしをしている。

 俺が実家に居た高校時代は、ヒトミの友人である『山根ミドリ』と俺が付き合いだしたことが原因で、兄妹仲が拗れた時期があったが、今現在は兄妹仲は修復しつつあり、お互いわだかまりは無くなっていると感じている。


 性格的には、下にもう一人居る末っ子の『秋山マユミ』が自由奔放タイプなので、姉でもあるヒトミは、どちらかというと我慢強くて理性的なタイプで、俺なんかよりもしっかりしている。


 そして、今週月曜日に初めてこの部屋に遊びに来ており、その為に容疑者の一人になっている。

 現在の俺とヒトミの仲を踏まえて考えると、ちょくちょく甘える様な態度を見せているので、俺の私物で欲しい物があれば、黙って盗んだりはせずに、正直に「ちょうだい」と言うと思われるので、もしヒトミが犯人であるならば、その行為には悪意によるものである可能性があり、折角修復しつつある兄妹仲が見せかけの物だと思うと、とても辛く悲しい。





 三人目の容疑者。


『三島コウイチ』は中部地方出身で俺と同じA大の友人で、俺と同い歳の今年二十歳。

 少しガサツな所があり、グループ4人の中では一番騒がしくてムードメーカーというかマイペースと言うか、俺たちから「仕方ないヤツだなぁ」とドコか呆れられてるイメージが強い。

 彼女は居たことがなく4人の中では唯一童貞で、その事を気にしている様だが、別にブサイクでは無いし(イケメンでも無いけど)コミュ力もあるので、その内彼女は出来るだろうとは思う。


 性格的に見て、コソコソ隠れて人の部屋から物を持ち出したりするようなタイプには思えないし、欲しい物があれば「コレ貸して」くらいは遠慮なく言うと思う。実際に、マンガやゲームなんかは何度も貸し借りしてるし。


 もし俺を妬んでいるとすれば、それが理由で悪意なり敵意を持って嫌がらせ目的で犯行に及んだ可能性もありうるが、俺のことがムカついているのなら、面と向かって文句を言って来る様にも思う。


 もし、三島が犯人だとしたらと考えると、非常に悩ましい。

 友人としての信頼を裏切られたことへの悔しさもあるが、今のグループ内の関係が崩れてしまうことが純粋に怖い。

 三島に限らず、他の二人に対してもその気持ちは同じで、もし本当にそうだったのなら、4人でよく話し合うなどして、お互い引き摺らずに今のままの関係を続けることが、俺個人としては理想的だが、ぶっちゃけると、三島は犯人では無いだろうと思っている。





 四人目の容疑者。


『山田レイジ』は近畿地方出身で俺と同じA大の友人で、年齢は1つ上の今年21歳。一浪してA大に来ている。

 本当は地元の国立に行きたかったらしいが、一浪してもダメだった為に、泣く泣く地元を離れてコッチの大学に進学したそうだ。

 見た目は眼鏡掛けたインテリタイプで、4人の中では一番モテそう。

 高校時代から付き合ってる彼女が居て、ちょくちょく地元に帰ったり彼女がコッチに遊びに来ているそうで、俺も一度だけ彼女と会ったことがある。

 因みに、グループ内では年上でもタメ口で話す事になっている。逆に敬語使うと怒られるし。


 性格的に見て、人の物盗んだりしてトラブル起こす様には見えない。

 どちらかというと、いつもクールで冷静なタイプで、もし三島なんかが何かを盗もうとしてるのに気づいたら「要らなんことすな」と止めるタイプだと思う。

 人付き合いもスマートな感じで、三島や鈴木が馬鹿なことを言ったりすると、毎回山田が冷静にツッコミ入れてるパターンが多く、内心までは分からないが、妬んだり陰口を言ったりするのを見たことが無い。


 山田も三島と同じく、状況的に容疑者に入れてはいるが、犯人では無いだろうと思っている。




 ついでに。


 容疑者では無いけど、グループのもう一人のメンバーである『鈴木リュウヘイ』は俺と同じ隣県のB県出身で、山田と同じ今年21歳。一浪してA大へ。

 同じB県でも地元は離れているし高校までの学年も違うので面識は無かったが、同じB県民と言うことで3人の中では一番話が合う友人で、去年入学したてで他の学生の中で初めて会話して最初に仲良くなったのも鈴木だった。

 高校時代には彼女が居たらしいが浪人時代にフラれてしまったらしく、それ以来ずっと彼女ナシが続いていたが、山田情報では最近新しく彼女が出来たらしい。


 性格は、お調子者で誰にでもフレンドリーで、口が上手く、コミュ力が非常に高いと思う。俺のイメージでは、典型的な陽キャだが、憎めないタイプでもある。


 今週は俺の部屋には来ていないので、容疑者には入れていない。




 こうして改めて整理してみると、俺に対する悪意を抱いている可能性を認識してしまい、更に気持ちがどよ~んと沈んでくるが、妹のヒトミや友人である三島と山田に比べ、彼女であるミキが犯人だった場合が一番精神的なダメージが少なくて済むとも思えた。




________


補足情報


■A県A市

政令指定都市ほどでは無いが、この地方では最も人口の多い県庁所在地。

周辺の隣県などから人が集まり、主人公の地元では「都会」と言えば、A市を指す。

市内には、大学や短大が多く、この地方ではA市内の大学へ進学を希望する高校生も多い。


■B県

A県に隣接する県で、主人公や妹が高校卒業まで住んでいた。

実家は、比較的田舎な町にある。


■私立A大学

A市にある私立大学。

大学名に県・市の名前が付く人気のある大学で、私立としてはソコソコのレベル。

主人公は、早い時期からA大を志望し、実家を出て地元を離れることを考えていた。


■国立C大学

A市にある国立大学。

この地方では国立志望の受験生には一番人気のある大学で、難関大学としても知られる。

妹のヒトミは、C大よりも更に上を目指せるだけの学力だったが、比較的地元から近いことと、兄である主人公が同じA市内に住んでいたことから、この大学を受験。


■私立D女子大学

A市にある私立の女子大。

系列には中学と高校もあり、スポーツの分野でも力を入れている。

恋人のミキは、系列のD女子学園高校からエスカレーターでD女子大に入学。






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