無限連鎖の衝動
俺は男になりたかったんだ。小学生のころ、陰湿ないじめを女子から受けたのが原因だ。
もっと強く、そして湿りついた人間関係から肩を切って離れたかった。
その日、俺が道を歩いていると、塀の陰から男に声をかけられた。
「俺のこと分かる?」
不審な男だった。その時女だった俺は、身構えながら尋ねた。
「誰ですか……?」
「君の夢を叶えてあげる」
男はそう言って、工具箱のようなものを掲げた。
***
男は俺を未来に連れて行ってくれた。
「ここなら、誰でも簡単に性を同一化できる。さあ、思いを叶えるんだ」
男は去って行った。
なぜ俺のことが分かるんだという疑問を残して。
かくして俺は男になった。
鏡の中の自分の姿を見て驚いた。
俺をここに連れてきたあの男と瓜二つなのだ。
あれは、俺自身……?
俺の中に抗いがたい衝動が芽生えたのはその瞬間からだった。
きっと本能的に自らに課せられた使命に気づいてしまったんだと思う。
鬱屈していた日々を過ごしていた俺に、伝えてあげたい。
お前の前には明るい未来が待っているんだ、と。
だから、俺は過去に飛んだ。
こうなることは必然だったのだ。
塀の陰から過去の俺がやってくるのを待つ。
希望と生気を失ったようなくすんだ表情の過去の俺。
面影はあるだろうか?
俺のことが分かるだろうか?
希望を与えられるだろうか?
塀の陰から顔を出す。
「俺のこと分かる?」
俺を見る彼女の瞳は、絶望に満ちていた。
だから、俺は彼女を未来に連れていく決心をつけたのだ。
〜〜〜
※以下、「日本不審者情報センター」より引用
(茨城)ひたちなか市田彦で声かけ 2月8日夕方
https://nordot.app/996303865746669568?c=134733695793120758
茨城県警によると、8日午後6時45分ごろ、ひたちなか市田彦で女性への声かけが発生しました。(実行者の特徴:男性、25~30歳、工具用の物)
■実行者の言動や状況
・塀の陰から顔を出し、帰宅途中の女性に声をかけた。
・「俺のこと分かる?」
■現場付近の施設
・田彦小学校、津田小学校、田彦中学校、茨城大学教育学部附属特別支援学校、水戸刑務所など
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