アーデルハイト邸1階の攻防戦
対巨獣用槍型大砲
通称バスターランチャー。
帝国軍討伐部隊がグリフォンなどの大型の魔物と戦う為に作られた兵器。
手持ち部分を捻ると大砲に使用者の魔力が装填され、付いているスイッチを押すと先端の槍の部分が発射される仕組みになっている。
捻る事にカチカチと音を立てて魔力が装填され、最大10回まで魔力を貯めることが出来る。
最大まで溜めなくともその威力は絶大であり、1回の装填ですらグリフォンに致命傷を与えるほどである。
しかし1回あたりの魔力消費が大きく、普通の人間が捻るには1回が限界。
2回以上捻ることが出来るほど魔力を持つ人間は少なく、魔法に特化している人間が殆どである。
ただ、魔力に特化すると相対的に筋力が落ち、発射時の反動に耐えることが出来ない為、使用しても最大限の威力を発揮できない。
つまり構造自体に矛盾をはらんだ兵器だった。
製作者であるミラはその両立を可能とし、他の隊長たちも使用することは可能だが、隊長達はこのような兵器が無くても十二分に強いため、結局は廃棄された。
なおこの兵器は現在単独で携帯できる兵器としては最重量であり、最大まで魔力を装填した状態の破壊力は最高クラスである。
「ふぅ。それじゃ、しっかり支えてくださいね。」
「分かってるよ。【獣化】。」
ブルの手足が獣のそれと化し、ランスに背を向けたまま踏ん張る。
ランスもまたブルと背中を合わせ、両手で抱えた槍のスイッチに手をかける。
「バスタードライバー。」
ランスが呟きながら槍に着いたスイッチを押す。
とてつもない衝撃と共に、そこに込められたランスの魔力が銃弾の火薬が撃鉄で弾けるように爆発。
ランスはまるで大砲のようなその衝撃を逃がさないよう、槍をしっかりと握り、ブルは反動で押し込まれながらも、ランスをしっかりと支えた。
捻った2回分、槍の先端がゆっくりとした螺旋回転をしながら鎧で身動きが取れない執事へ向かって行く。
大の字で固定された執事にとって、もはやこれは拷問でしかない。
目の前まで迫った槍に為す術なく貫かれる恐怖。
鎧と槍が衝突したその瞬間にかかる負荷は、車の正面衝突事故レベルであり、エアバッグやシートベルトに吸収されるはずの衝撃も余すことなく全身に還元される。
自身の魔力を全て防御に使い、魔力をまとっていた執事ですら、衝撃で脳を揺らされ、一瞬にして意識を飛ばした。
「つ、疲れたー……。」
頑丈で鈍重な鎧を数メートル吹き飛ばした後、槍の先端は鎧に刺さったまま止まり、ランスが力尽き地面にへたりこんだと同時に鎧が消えた。
執事に槍は届いておらず、驚愕の表情のまま固まった執事が消えた鎧の中から出現する。
「ブル。あとは頼んだよ。」
「ああ。邪魔にならんよう、階段で寝てろ。」
相変わらず互いに背を向けたまま、ランスはブルの屈強な肩を叩くと、鎧が消えたと同時に地面に落ちた槍の先端も回収せずに地下への階段を1段降りる。
そしてそのまま眠りについた。
「アレでアイツだけまだ魔力の覚醒を残してんだから、正直羨ましいよな。」
ブルが普段口にしない仲間への小さな嫉妬を呟くと、寝ていたはずのランスの表情が少し笑顔に変わった。
「お前ら、まだやるか?」
ブルは雑兵達に問いかける。
まだまだ元気いっぱいやる気満々のブルと、その横で倒れている獣人の大男、そして後方で倒された執事を見て士気を上げられるような雑兵は1人もおらず、1人が武器を捨て、それを見た者達が続々と武器を捨てて降伏した。
アーデルハイト邸1階の攻防戦。
勝者 ブル、ランス
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