第21話 議論の終わり
▽ 第4回 調査投票結果
K(優先度⑤、能力内容) … 6票(投票者:全員)
投票結果により、Kの内容が公開されます。
K → ラグナロクに特殊ルール「◯」を追加する。
(事前にルールの内容を知ることができる。)
優先度⑤、《◯》の能力内容。次に公開されたその情報はあまりにも空虚だった。
「やっぱり」と、生流琉が呟く声が聞こえた。確かに能力名の通りの能力内容といえばその通りである。雄々原にとっては、安直すぎてかえって推測は難しかった。
(いや安直と言うよりは──これは、つまり実質無能力では無いかね。不憫な)
⑤と⑥は◎で使用可能であるという点で極めて有利な能力だ。そう予想したからこそ、前半の投票をその調査に費やしたのである。だが蓋を開けてみれば、どちらも情報を明らかにする価値もない程に弱かった。超常の力で何かに干渉する類ことは何もできない。
(うーむ、すると補助能力《能力ガチャ(改)》は、案外⑤と⑥の能力者を救済する為の要素だったのかも知れないな。──案外、推理の材料は落ちていたのだろうか)
だが、結果的には良かったとも雄々原は思った。
もし仮に最初から⑤と⑥が調べる価値のない能力だという話でまとまっていれば、9回の調査投票は全て①~④の情報である12マスの内いずれかに使われることになるのだ。
②の《コールドゲーム》が調べられ、雄々原の名前まで明らかにされていた可能性は高い。
(皮肉なことだが、『E』『F』『K』『L』と、無駄遣いしたからこその今だな。その結果、誰も欠けることなく決戦へ進むことになった)
しかし、それにしても誰も喋ろうとしない。タルトはムスッと、影木は愉快そうに、宣言通り口を開かない。それに空気を牽引されるような形で、沈黙が漂う。
『K』の内容次第でこの先の調査投票予定を変える可能性があるという話は出ていたが、この能力内容なら変更の必要性がないのは明らかである。つまり、喋ることがもう無いのだ。
そしてそのまま──8回目までの調査投票議論は異様な雰囲気で進行した。
激論と呼んで差し支えない濃度で駆け引きが行われていたそれまでとは打って変わり、議論時間の大半を沈黙の時間が埋める。
▽ 第5回 調査投票結果
D (優先度④、能力名) … 6票(投票者:全員)
投票結果により、Dの内容が公開されます。
D → 《
語るべきことは残っていない反面、語れないことは増えていた。
調査投票で誰の名前も明かさない。つまり、恐らく全員が決戦へと進むということだが、あくまで『恐らく』である。能力内訳を予想し合う最終投票自体は行われるのだ。
▽ 第6回 調査投票結果
C (優先度③、能力名) … 6票(投票者:全員)
投票結果により、Cの内容が公開されます。
C → 《焱劦品(エンチャントファイア)》
つまり、ボロを出して全員に自分の優先度が知れ渡った場合は脱落することになる。それ故、新たに公開されていく能力名の情報へのリアクションも薄い。
▽ 第7回 調査投票結果
B (優先度②、能力名) … 6票(投票者:全員)
投票結果により、Bの内容が公開されます。
B → 《コールドゲーム》
(私の能力名が公開されたが、この空気で「《コールドゲーム》とは強そうな名前だな」などと妙な小芝居などしようものなら、即座に見破られるのだろうな)
タルトと影木の宣言が効いていた。『嘘を見抜くことが出来る』──その話の信憑性自体は(特に影木は)低かったが、それでも言及を躊躇させるには十分な力を持っていた。
不気味なほどに静かな空気は、ある種の穏やかささえ醸し出す。
しかし喋らないと言うのは、思考を止めたという話と同義ではない。全員が決戦へと進むということは、明らかになっていく能力名の数々はライバルの情報ということ。そして脱落させられないと言うことは、戦うということである。
(《自在防御壁》に《焱劦品》か、前者は防御系の能力だろうか。優先度は④、つまり裁定は私の《コールドゲーム》の②に優越する。いかなる状況で優先度が参照されるかは解らないが、頭の片隅に置いておく必要があるな。そして後者は──うーむ、エンチャントとは何だろうか。ファイアと言うからには、私の氷に有利そうな印象を受けるが)
乏しい根拠から組み上げる結論の出ない憶測や予想であっても、それが勝敗を分ける差になるかもしれない以上は全力で思考する。雄々原には世界中の人間に眼鏡を掛けるという動機があるのだ。雄々原の心は燃えている。雄々原はモチベーションを重んじる。
(──動機か)
そしてだからこそ、彼女の中にふと疑問が生じた。
(バターアップル君と影木君、何故二人は嘘を見抜くことが出来るなどと宣言したのだろうか? ハッタリならば何の意図がある。いや、ハッタリではない場合の方がより奇妙だ)
タルトも影木も、あの宣言以来一言も喋っていなかった。議論を促そうという気配すらない。
(本当に嘘がわかるのなら、そのことは伏せて私達に色々と話させ、嘘を吐かせて情報を集めるべきではないか? では、宣言したのは情報を全て集め終えたからということになるのだろうか。しかし、全てとは何も優先度と私達の組み合わせに留まらない。例えば──能力名から内容を予測する会話から、能力内容を特定することも可能ではないだろうか)
自分が全力で思考するが故に、雄々原は引っ掛かりを覚える。二人が嘘を判別する力を本当に持っていると仮定すると、それを全力で使って戦っていないことになるからだ。しかし、だからハッタリだ──と考えたところで、結局何故ハッタリをかましたのかという疑問に、納得のいく説明は生まれない。結論が出ないまま時は流れる。
そしていよいよ9回目、最後の調査投票議論が幕を開けた。
▽ 第8回 調査投票結果
A (優先度①、能力名) … 6票(投票者:全員)
投票結果により、Aの内容が公開されます。
A → 《
「キル・ゼム・オール……皆殺しとは、何とも剣呑な名だな」
雄々原は正直な感想を口にすると、久しぶりに立ち上がり円卓を見渡した。
最後の投票先が決まっていない以上、今回は沈黙という訳にはいかなかった。
「それでは最後の調査投票先を纏めようではないか。確認するが、『G』~『J』、即ち①~④のいずれかの能力内容を公開するという合意が得られていた。そういう認識で良いかね」
異論の声は上がらない。
「では、意見を募る」
「決まりだろ、開けるのは『G』だ」と、すぐさま赤糸から声が上がった。
「一番厄介そうな能力内容を公開すべきだろ。名前からして《罰》一択だな」
「──どうだろうね、僕は《コールドゲーム》も気になるけど」
青月が言った。
(今のやり取りで青月君が《罰》──と言うのは安易に過ぎるか? 二人の確執を加味すれば、単に赤糸君の言ったことに反射的に反対した可能性も高い)
しかし、雄々原としては当然《コールドゲーム》の内容がオープンされることは避けたい。
「うむ、どちらがより脅威に見えるか、という話であれば私は《罰》に一票だ。とはいえ、どうしても主観の話になる。そこでどうだろう、今回は自由投票にするというのは?」
雄々原は提案する。最初からそのつもりだった。
「ここにきては、もう《アイテル》で内通も何もないだろう。誰も脱落しないのだし、投票先を纏める理由はない。各々が『G』~『J』の内投票したい先に投票する。これに異論があるならば、前に言った『せーの』作戦が発動することになるが」
異議の声はない。最後の議論でも、結論はアッサリと出る。
そしてそのままアッサリと、嘘のように最後の調査投票議論は終わった。
ところで、自由投票を提案した雄々原は、《罰》が公開されるだろうと見越していた。
飽く迄も主観の話だとは承知した上で、それでも《罰》と《コールドゲーム》では、前者の方により不穏さのようなものを感じるというのは、雄々原だけでなく広く一般的な感覚に思える。そして、より大きな脅威について少しでも情報を知っておきたいと考えるのが人情だ。意見を変に纏めようとすれば、《罰》の能力者に場を荒らされ、かえって拗れるのではないかと言う警戒もあった。そういった打算からの提案だったのである。
そして、雄々原の目算は凡そ正しいが、一つだけ誤算があった──知ることが常に最良とは限らないのだ。結局、知るという行為には不可逆性があり──肉体の成長や過去の過ちといったものと同じで、取り返しがつかないことなのである。
▽ 第9回 調査投票結果
G(優先度①、能力内容) … 4票(投票者:影木、雄々原、赤糸、青月)
H(優先度②、能力内容) … 2票(投票者:タルト、生流琉)
投票結果により、Gの内容が公開されます。
G → この能力内容を知っている相手に対し、いつでも雷を落とすことができる。
そして最後の話し合い──最終投票議論が始まった。
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