12.5話 ヴァルハラにようこそ
──もし自分以外の誰かを勝たせる目的の者がいたら……
時は数日巻き戻り、高校生百人に対しクソラグくんからの勧誘映像が流れた翌日のことだ。
その日二年ぶりに、あるブログへ新しいコメントがついた。
ブログの名は『ヴァルハラにようこそ』。『ネオ・ラグナロク』のファンブログであり、感想記事や考察記事、二次創作などを多数更新していた。本来そういったサイトが作られるほど『ネオ・ラグナロク』はメジャーな作品ではないのだが、一人、熱狂的なファンがついていたのである。ちなみに、記事は全てわざとらしい程のお嬢様言葉で書かれている。
ところで『ヴァルハラにようこそ』は、ページトップにある記事が固定されていた。
その記事タイトルは『チャットにようこそ』──名前通りコメント欄をチャットとして開放している記事だ。『ネオ・ラグナロク』に関する話題で交流する目的の雑談チャットであり、記事本文にはどこから引っ張って来たのかやけにキッチリとした利用規約が長々と書かれている。そして記事の最後は「どなたでも歓迎しますわ。一見さんもお気軽に書き込んでくださいまし!」という文言で結ばれていた。
だが、検索避けまで施している大した知名度も無いネット小説の個人ファンサイトを訪れる人間は限られている。当時でさえ、その『チャットにようこそ』を利用していたのは二、三名の常連と管理人だけというのが実態だった。そしてブログの更新は『ネオ・ラグナロク』の更新が滞り始めたのとほぼ同時期に停止している。
当然、チャットの方も最早誰も利用しなくなっていたのだが──。
二年ぶりのコメントがついた記事は、『チャットにようこそ』だった。
まる:お久しぶりです。唐突ですが、誰か昨日クソラグくんを見たという人はいませんか?
ハンドルネーム『まる』は、かつてチャットに出現していた常連の一人である。前日の夜、驚くべき出来事に遭遇した彼または彼女は、とにかく『ネオ・ラグナロク』を知る誰かと話がしたかった。そこで『ヴァルハラにようこそ』のチャットに書き込むことを思いついたのだ。
だが、『まる』自身、ブログの存在を久々に思い出した立場である。『ネオ・ラグナロク』を知ることすら困難な現在に、偶々『ヴァルハラにようこそ』を見ている人がいるとは思えない。あくまで駄目元の行動だったのだが、そのコメントに、なんと管理人から返信があった。
キルキル:まあ、お久しぶりですわ! まるさん!
キルキル:ひょっとしてまるさんもあの変なホログラムを見ましたの?
その日、インターネットの片隅で、忘れられたとあるブログのあるチャットが小さく蘇った。
『まる』と管理人『キルキル』との間で交わされたやり取りは、未来を大きく、或いは少しだけ変えることになるのだが、それが語られるのはまだ先の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます