第三章 エンタク
第11話 C ~舞台裏の疲労~
「疲れました!」
マイクを放り投げて叫んだプラは滝のような汗を掻いていた。マイクをキャッチしたマイナが横から天然水のペットボトルを差し出し、受け取ったプラは勢いよくそれを飲み始める。
「お疲れさまです姉さん。すごかったです。あんなに長い説明も、よくぞ噛まずに!」
マイナは言葉通りに賞賛したのだが、プラは勢いよく水を吹き出した。
「姉さん!?」
「ご、ごほっ──や、やはり・やはり長かったでしょうか、説明」
プランC──特殊ルール◯。それを行うことは参加者達を原作再現の『ヴァルハラ』ではなく『◎』に転送した段階から決まっていた。とはいえ、不安は拭い切れないものである。
「ああ、どうしましょう! ルールだけ無駄にややこしい癖に蓋を開けてみたらクソゲーだった、みたいな評価になったら! 最後駆け足でしたけど、参加者達にルールが伝わらなければゲームが成立しませんよね!? やはり質疑応答タイムを設けるべきだったのでしょうか?」
「質問は個室だって相談して決めたでしょう、姉さん」
マイナは少し雑に返答した。先程まで忙しかったのは語尾に『ロク』をつけながら長台詞を喋っていた姉の方だったが、今からは妹の出番なのである。現在は六人の参加者が個室へ転送された直後であった。真っ黒の部屋で、その様子が六つのディスプレイにそれぞれ映し出されている。そしてやはり、各個室からは様々な質問が飛んできていた。
そして、それらに回答するのがマイナの役目だ。
マイナは高速で手元のノートパソコンを叩く。参加者六人に対し悪キューレ姉妹は二人しかいない。声での回答にはラグが生じると判断し、個室での質問にはテキストで回答すると決めていた。◯など本来は予備プランに過ぎなかったにも関わらず、姉妹は予想される質問に対しては予め答えを用意するなど実に周到な準備をしていた。その上で尚、マイナは忙しい。
「あ、す、すみませんプラ。私また動揺して」
「大丈夫ですよ、姉さん。質問の内容を見る限り、全く理解できていない人はいなさそうです。『この理解であっているか?』という確認のような質問も多いですね。優秀ですよ」
(──生流琉死殺はまだ少し混乱しているようですね。問題ないとは思いますが)
不安なのはマイナも同じだった。デスゲームだが、姉妹が本気で作ったものだった。単に『ネオ・ラグナロク』をなぞるのではなく、参加者が何人でも成立するように趣向を凝らし、しっかりと下準備をした。だから、評価を下されるのが怖い。
「薔薇咲円もひょっとして、こんな気持ちだったのでしょうか」
マイナの言葉で落ち着きを取り戻したプラが呟いた。『ネオ・ラグナロク』の更新は三年前で止まっている。作者の薔薇咲円は続きを書かないだけでなく、全文をネットから削除した。
どうしてそうしたのだろうか。何故、消したのだろうか。
「だとしても、私達のすることは変わりませんよ」
丁度その時だった。マイナのパソコンからピロンという通知音が三回連続して鳴った。
プラの「+」のハチマキがピンと、猫の尾のように逆立った。
「誰かが補助能力を選択しましたね」
プラはタイマーに目をやった。時間は七分以上残っている。随分と速い選択だ。
「マイナ、誰が何を選んだのですか?」
「問題児の赤糸工夫と、生流琉死殺、それとハニータルト・バターアップルの三名です。それぞれ選択したのは──」
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