第171話 缶切りの発明は、缶詰ができてから48年後

 数回前の「冬将軍って誰のこと?」の回で、ナポレオンに関する雑学を紹介しましたが、ナポレオンが発明を促したものがあります。


 それは「缶詰」。


 戦争の中、遠征時の食料補給の問題に悩まされ、ナポレオンは「食料を長期保存する方法を発明した者には賞金を出す」と宣言。

 

 1804年、フランスの食品加工業者ニコラ・アペールが、長期保存可能な「瓶詰め」を発明しました。

 ガラス瓶にコルクの蓋、加熱して空気を抜いて密封する、いわゆる「真空パック」状態で保存する方法です。

 これにより、ニコラ・アペールは賞金を受け取りました。(ニコラはこの功績から、歴史上「缶詰の父」と呼ばれています)

 ですが、ガラス瓶は重いうえに割れやすいというデメリットがありました。


 そして1810年には、イギリスの商人ピーター・デュランドによって、「ブリキ缶を使った食品保存法」が開発されます。

 現在にも通じる「缶詰」です。

 食料の長期間の保存、手軽な携行が可能になりました。軍用の食事として主に使われることになります。


 発明者のピーター・デュラントが「缶詰を容易に開ける手段までは考えてなかった」と語る通り、「缶切り」が発明されるまで、缶詰を開ける方法は乱暴なものでした。


 ハンマーとノミで叩いてこじ開ける、銃剣やナイフを缶に突き差して切り開ける、銃で撃って破壊する、など。


 初期の缶詰の表面には「斧とハンマーで開けろ」と説明書きがあったとか。ワイルドだな。


 戦場で、缶詰を銃で撃って破壊して、飛び散った食料を集めて食べる兵士の様子をリアルに想像すると、なんだか悲しくなります。

 ブリキ缶の破片とか、銃弾のカケラとか、食料に混ざっていて一緒に食べちゃいそう。

 

 そして缶詰の発明から48年経って、アメリカのエズラ・J・ワーナーにより、引き回して開ける方式の「缶切り」が発明されたのです。

 随分長くかかったねー。


 容易に缶詰を開ける発明品が生まれた時「これで缶詰を撃って中身を吹っ飛ばさなくても済む!」と当時の兵士たちは喜んだだろうなあ。

 半世紀近くの間、毎回缶詰の外側を強引にこじ開けたり壊したりして食べるのが当たり前、「不便だよなあ」とずーっと感じていたでしょうから。


 缶詰業界の長い暗黒期を抜けた瞬間、多分、相当のエポックメイキングだったのでは。


 現在の缶詰は、「プルタブ式」が主流なので、缶切りでフルーツ缶詰をギコギコやって開けたのも、昭和の古き良き想い出になるのか。


 我が家では今でも、マグネットでくっつく缶切りが冷蔵庫に貼り付いています。

 最後に使ったのはいつだったか……? 

 もはやオブジェだな。

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