第27話 宮田・内田

 晴天の練習場には、既に準備された道具が並べられている。マーカーやポールなど、そこを避けてボールを蹴る早起きしたのだろう元気な若い選手たちの姿があった。


 「おはようございます。」


  礼儀正しく挨拶したのは年下である18歳の東谷天音、そして、同級生である松本エンリ藍琉であった。


「おはよう。早いね、君たち。」


 最初に挨拶したのは天音くんの方だった。


「朝は頭が冴えるんで。」

「もう歳だから朝早起きになっちゃうんだよ。」


 エンリが冗談めかして被せていた。


「エンリ、俺と同い年でしょうが。年寄りぶらないでよ。俺が落ち込んじゃう。」


 ムスッと頬を膨らませて言い返した。


「望月くんとエンリ、て同級生でしたっけ?」

「そうそう。この歳になってくるとたまに小さい子から『おじさん』て、呼ばれるからちょっとグサってくるんだよね。」

「望月ちゃんちょっと老け顔?だもんね。」

「エンリの顔が幼いの!俺は年相応の顔してるだけ。」


 エンリは身長192㎝と縦に長い割に顔が幼いおかげで威圧感はほぼない。ついてに言えば筋肉はついてるはずなのに足に筋肉が横に付かないから細いごぼうである。ごめん、ごぼうは言いすぎた。大根かも。


「でも僕から見たら二人とも十分若いですよ?」

「お、天音くんはいい子だね。」


 素直な発言をする可愛い後輩に思わず笑みを浮かべる。後でチョコをあげちゃおう。


「望月ちゃん、今ちょっと本気で喜んでしょ。」


 エンリ...すかさず水を差すようなことは言わないでよ。図星なんだから。


「…うるさいなあ。」


 でも、若さを証明すれば俺だって胸張って言い返せるかもしれない。


「じゃあ誰が先にあのゴールポストにタッチできるか勝負しようよ!タッチできた人がいちばん若い。」

「最初っから勝てない勝負すんなよ。そしてお前がいちばん精神年齢お子様だ。」

 

 あとからクラブハウスから出てきた影叶に一刀両断された。勝てない勝負とはなんだ。


「勝てるもん。足ぐらいは速い…。」


 俺だって足早いはずなんだ。学生時代の体育でクラスメイトに負けたことなんかないのに。


 「おはよう。」

 「「おはよう。」」


 俺の主張も虚しく挨拶する影叶とエンリ、天音くん。誰か一人ぐらい話を聞いてくれても良くないか?

 膨れる俺を横目に影叶は仕方ないと徒競走に付き合ってくれた。横にエンリ、天音くん、俺、影叶と並ぶ。


「よーい、ドン!」


 影叶の合図とともに走り出した4人、結果は…ビリケツだった…。もっと詳細に言うと、一位エンリ、二位影叶、三位天音くん、ビリが俺だった。

  

「はぁ、はぁ…朝から全力疾走は健康に悪い…。」

「これだけで?本当にお前大丈夫か?」


 言い訳するも現実問題、影叶の言う通り相手が悪かったのだ。エンリは192センチで物理的に脚のリーチが違う。天音なんてクラブの最年少であり、朝練大好きな伸び盛り。最後になんと言っても体力お化けすぎる山本は走っても走ってもバテないという!絶対人間じゃないと思う…。


(本当に相手が悪かった……。というか悪すぎた。)


 心の底からため息が出る、

   

「そんなんでこれから練習出れるか?」

「うるさい。」


 ジッと影叶を睨みつける。

 

「望月くん、最初だけトップだったのに最後の方だけ失速が激しかったですね。」

「天音くんまでいじめないでよ。」

 

 後輩にまでいじられてしまえば俺もおしまいだ。俺の横でエンリが山本に耳打ちで会話している。

 

「望月ちゃんちょっと柔らかくなったな。」

「柔らかくなったというか慣れたというか。去年、エンリ(当時大学4年生)も一時的に練習来てたよな。」

「そのとき『足長。』だけ言われて今まで少し苦手意識持ってた。」


(聞こえてるぞ…。) 

 確かにシカトしちゃった罪悪感はあったけど…。

 

「人見知りなだけなんだよ。仲良くしてやってくれ。」

「望月ちゃん、人見知りなんだ。へえー、なるほど。」

「影叶は親か。普通に聞こえてるから。エンリも納得しなくていい。」


 我慢できなくて思わず突っ込んだ。すると、もっと顔寄せてコソコソ話すから本当にムカつく。

 

「傷つくんだけど…。」


 すると、ポンッと俺の肩に影叶が手を乗せて言った。


「まあ、大丈夫だ。安心しろ。お前ほど精神年齢幼い成人男性は他に居ない。」


 俺は死んだ目をしながら…


「フォローになってない。」


 と、突っ込むしかなかつた。


「みんな集まり始めてますよ。そろそろ始まるんじゃないんですか?」


 天音くんが教えてくれた通り、ミーティングが始まろうとしていたのだった。


※※※※


 ミーティングが終わると準備体操をして、パス練習をし、諸々の練習を早めに終わらせて始まったのが紅白戦だった。自分は影叶とエンリとは別のチームになった。ちなみに天音くんは一回お休みである。


 コーチが審判役になって笛を吹く。いきなりロングパスから影叶に渡り、一気に仕掛けてきた。裏を取られ、俺は徒競走のごとくドリブルする影叶に追いつきやがては目の前に身体を向き合うことで攻撃を防いだ。影叶からボールを外し、カバーに入った左にいた庄司が大きくクリアをする。一回ボールがフィールド外に出たことにより皆歩いてポジショニングを調節する。そのときに影叶に話しかけられた。……違うな、小言を言われた。


「今朝の徒競走は詐欺だったのか?」


 よほど悔しかったのだろうか。いやあ、でも……


「流石にボール持ってる相手に負けるわけにはいかないよ。」


 怒られるから言わないけど、影叶のドリブルはそんなに速くはないしな。ボールを持っていなければ長距離走るにしては足が速い体力お化けにプレスされるとめちゃくちゃ怖いんだけどね。これもやられたくないから言わないけど。


 そんなこんなでまた似たような展開になって、難なく防ぐ。そして、今度はロングボールを収めようと影叶と徒競走するとまた俺が勝つ。そしてまた、影叶に小言を言われた。


「お前なんで初速度だけ早いんだよ。」

「初速度V₀、物理基礎で習うやつだね。」

「そんなこと聞いてねえんだよ。」


 余計な事言ったせいで怒られてしまった。ごめんって。そんな茶番を後ろでしてたら前から起こった声が聴こえた。一瞬コーチに雑談聞かれて怒られたのかと影叶と一緒に一瞬怯むんだ。でも、どうやら怒ってるのはコーチではないし、そもそも俺達に対してではなかった。


「おい、なんで前に詰めすぎるんだ!下がるべき位置が空いてるじゃないか!」

「いや、相手の2トップに自由にさせたくないんだ!お前が後ろでカバーしてくれよ。」

「だったら最初から連携確認しろよ!」

「試合じゃこんな状況は頻繁にあるだろ!その場で考えなきゃ。」


 言い合っているのは影叶側のチームのCB同士だった。最初に主張したのが28歳宮田正治まさはる、次に主張したのが25歳内田大樹だいじゅである。正治くんも大くん(大樹のあだ名)も普段はそんなにピリピリしたような気が強い性格ではないはずなのに、なんだか今日はどうしても譲れないらしい。


「試合前だぞ。集中しろ。 」


 金聖基キム・ソンギコーチの合図で止まった紅白戦は再開し、俺と影叶は顔を見合わせ首を傾げたのだった。


「まあ、気持ちは分からなくもないが……試合前だしな。」


 影叶がボソッと呟いていたのであった。こういう開幕戦前の期間は、スタメンやベンチ入りも含めて対抗意識が出てくるのは無理もない話なのだろう。二人とは違い、自分はそもそも色々諦めているから、あんまりスタメンやベンチ入りでさえあまり期待はしていなかった。


 数十分、時間が経つと、お互い一得点も取れずに水分補給タイムが与えられたのだった。

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