第23話

 案内された部屋は3LDKだった。お台所とリビング、寝室と思わしき部屋と他は部屋は二つがあった。


「この部屋は何に使うの?」


 小さめのお部屋を開ける。まだ何も置かれてない小さな窓から日が差し込むよさげな部屋だった。


「まだ何も決めてない。俺の部屋によくないか?」

「部屋作って何するの?」

「だから、なんも考えてないんだよ。」

「ふーん。」


 適当に返事しながら扉をパタンと閉めた。隣のもう一つの部屋を開けてみると、さっき開けた部屋よりも大きめだった。


「ここは?」


 もう既に置かれている机を指さした。


「書斎にいいんじゃないかって不動産屋の人が言ってた。どう?使えそう?」


 俺はぼーっとこの部屋を見た。書斎か。確かに言われてみるとなんだかワクワクしてくる。自分だけの小さなお城みたいな感じ。


「悪くない。もう契約したの?」

「まさか。流石にお前が見るまでは安易に契約しないよ。」


 俺はもう一度部屋を見渡した。まだ空っぽの広いお部屋だけど、やっぱり自分家よりかは狭い。でも、二人で住むなら本当はこれぐらいが普通なんだろうしな。うん、とっても気に入った。

 今日は影叶が選んでくれた部屋を見に来て、ちょっとご機嫌な一日だった。


※※※※

―――― 柳井と庄司 ――――


 沖縄キャンプのときに見せられた動画とはまた別に、心に引っかかっているものがある。沖縄キャンプ明け1日目の練習に赴く。靴を脱いで下駄箱に置くと後ろから声がかかりその悩みの種が自分に声をかけた。


「望月くん、おはよう。」


 俺は一瞬目を配り、そっと外して返した。


「おはよう。」


 DF庄司波瑠、今期キャプテン(このときはまだ候補)との関係は同じポジション専門であるが故にライバルと言いたいところ。きっと相手にすらならないだろう。なぜらなら波瑠くんは大ベテランでキャプテンを引き受けられるほどの信頼を勝ち取っているだからだ。どうしてそんな大物に自分に興味を示しているのか全く分からない。


「今日はちゃんと起きれたのか?」

「影叶が無理やり起こすから…、めっちゃ眠い。」


 俺は大きな欠伸をしながら言った。波瑠くんは笑いもせず余裕そうな顔をしている。きっとみんないけ好かないやつだと思うよ。俺も思ってる。でも、実際は経験に裏打ちされた態度なのだろう。だから何も言えない。その態度が似合う人だから。


「影叶くんは?」

「トイレ行った。」

「そもそもお前いつも何でここまで来てるんだ?」

「車。前は小田切コーチ…、波瑠くんは知らないんだっけ?前はコーチにわざわざ送って貰ってたんだけど、今は影叶が運転できるから乗せてもらってる。」

「なるほどな。」


 ロッカールームに入って練習着に着替えながら他愛のない話をするのであった。


「練習中に倒れるなよ。」

「倒れないって。なんか目が覚めてきたし。」

 

―――― 回想 ――――


 監督に動画を見せられた後に話しかけられたのは波瑠くんだった。


「どうしてああいう判断できたんだ?」


 俺は目を逸らした。


「反対意見は聞かないよ。」


 すると波瑠くんは困ったような笑顔を浮かべて言った。


「いやいや、別に口論したい訳じゃない。むしろ褒めてるんだよ。本当にお前は初出場か?」

「波瑠くんは海外移籍経験なんでないの?」

「質問を質問で返すな。それに、移籍はしたことある。上手くいかなかっただけで。」


 俺はチラッと波瑠くんの目を見ると少し寂しそうな顔をしていた。態度は変わらないのに嫌味なやつだ。


「怪我で出場経験を与えられても20分ぐらいしか出させて貰えなかったんだよ。」


 運が悪かったとでも言うのか。


「ふーん。」

「聞いといてどうでも良さそうに言うなよ。」


 波瑠くんが俺に注目していることはこのときから分かっていた。波瑠くんの目は見下す目ではなかったのだ。


―――― 練習 ――――


 まだ冷える春の陽気は風が強い。みんな長袖にネックウォーマー、帽子をかぶってる人もいた。まずはゆったりランニングして準備体操して、ちょっと腕立てしたりもして…。本格的にボールを扱う練習になっていく。しかし……。


バタンッ


 この場に大きな音が響いて一斉にこちらを向いた。薄ら目を開けているから何となく分かる。人が自分の周りに集まっている。その中でも波瑠くんは大きくため息をついていた。閉じそうな目に細く映る波瑠くんは心底呆れた顔をしていた。


「伏線は回収しなくていいんだよ。」

「…すまんて。」


 力無くか細い声を発すのを最後に意識が遠のいたのだった。


―――― お買い物 ――――


 練習が終わってショッピングモールに寄った。キャンプ明け1日目ということもあって今日は比較的早く終わった。

 

「カーテンこれがいい。」

「えー、めっちゃ色渋いじゃん。その色が好きなの?」


 影叶に反対された。俺はカーテンの若草色を一瞥してから首を横に振る。

 

「別に好きじゃない。」

「じゃあなんなんだよ。」


 影叶は呆れたように息を吐いた。自分は人生で初めてカーテンというものを買いに来ていた。影叶はというとそこら辺ベテランなのかと思いきや、別にそうでも無いみたい。昨日行ったら大きさを測ってなかったから結局後回しになったのだ。ちなみに影叶は移籍ごとにカーテンのサイズが変わるもんだから面倒くさくてサイズは合わなくても無理やり使ってたのだという。なんとも大雑把な人である。


「これなんてどうだ?白にピンクいろ。」


 影叶が提案する。

 

「それ絶対透けるじゃん。あってもないみたいなもんだよ。」


 意見は合わずに柄決めるだけで時間がかかる。自分は別にプライドがある自覚は無いけど、影叶は違うのかもしれない。いや、なんだかんだお互い様だ。


 そんなこんなでカーテン2枚を買った。1枚は白いもので、もうひとつは目隠し的な意味合いで茶色いちょっと値段が高めのもの。


「また移籍したらこれ使えなくなると思うんだけど?」


 俺が指摘する。


「そしたらまた無理やり使うさ。」

「それはカーテンに謝ろうよ。」


 だべりながら次はスーパーに寄った。すると影叶がプロテインを大量にカゴに入れていた。


「それぐらいネットで買えばいいじゃん。今すぐ必要?」


 影叶はジッとプロテインを見て固まるプロテインとにらめっこしてたかと思えば棚に戻し始めた。

 

「確かに。」

「納得しちゃうじゃん。プライドないの?」


 軽く嫌味を言っても影叶はのほほんとしているだけであった。他にも日用品や食料を買い込んで車に乗った。シーンと静まる車内で口を開いたのは影叶のほうだった。


「朝起きれたと思ったら練習始まって直ぐに倒れてびっくりしたよ。」

「やっぱり1日じゃ無理だったね。去年まで3日ぐらい休ませてもらってたからさ。でも、試合出始めたらそんなこと言ってられないし…、今日はちょっと落ち込んだ。」


 シーンと静まり返る。前方の信号が青になって右折した。横目でハンドル握ってる影叶を見る。慣れた手つきでバンドルを戻すと影叶は話を続けた。


「まあ、焦らずやってこ。」

「うん。」


 短く答えた。


「話変わるけどさ、波瑠くんと何喋ってたんだ?」

「特に何も。そんなことより影叶酷くない?俺が芝生の上で寝ちゃったときの端に追いやり方めっちゃ雑じゃん。ポイって捨てた見たいな。」

「うるさいな。そんな怒んなよ。」


 俺が怒っても影叶は反応が渋く気持ちは不完全燃焼だった。


「朝も起こし方雑だし。」


 ぷいっと顔を背け窓の外を見る。怒りを被せたつもりだったが、影叶は特に表情も隠さずに言う。


「小田切コーチは優しく起こしてくれたのか?」

「いや、全然。」

「じゃあほんのちょっとだけ優しくしてやるさ。」


 雑すぎ…。もう文句言う気も失せてまた沈黙した。

 夜が更けて車のライトがちらつき、新しい我が家についたときは音も光も照らされていない小道であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る