第21話 【番外編②】 山本影叶
―――― ある日の紅白戦 (山本目線)――――
曇り空の下、肌寒さを感じながら半袖になって外に出る。沖縄にいると言えど1月はやっぱり寒い。それなのにユニフォーム1枚になっている理由は集合写真を撮るためである。
「もっとくっつけ!」
「おいおい押すな。」
星也くんが肌を擦り付ける力が強く足がもつれる。
「体感弱いなあ。」
星也くんはニヤニヤしながら言う。俺も笑いながら。
「やかましいわ!」
と返してやった。そうやって軽口を言い合いながら自分が立つべき場所へ赴いた。
並ぶと隣には望月がいる。望月はガタガタ震えて唇が真っ青だった。
「望月……。」
声をかけると……、
「な……なに……。」
ものすごくブルブル震えた声で返された。半袖の下の腕の太さや両腕を組んで浮き出る胸筋にはかみ合わずに寒がりがすぎる。
「寒がりすぎじゃん。」
望月は寒い日の練習は「雪だるま?」と突っ込みをいれたくなるぐらい着込むのをよく見るが、やはり寒さには弱すぎるらしい。
「サム……サムイ。ムリ。シヌ……。」
「ちょっとぐらい耐えろ。」
そうやって、今日はスタートしたのだった。
※※※※
練習が始まると、基本的な動きや走り込みをしてから紅白戦は始まる。自分は4-4-2の左センターフォワードとしてポジショニングすることになり、マッチアップするとしたら、相手は望月だった。基本的に右センターバックをする望月と、普段はそんなに相手にすることはなかったからちょっとした好奇心がなかったとは言えない。
中央の人が一旦1番後ろまでボールを下げると俺は一気に前に走って行った。中央付近でロングボールを空中戦で競り勝ち、セカンドボールを拾えた瞬間が見えた。俺はパスを出してもらおうと動き出す。すると、パスをしっかり受けることはできた。トラップも足元にしっかりと収めてドリブルでゴールまで一気に駆け上がる。ここで超えなくてはならない相手、それが望月のみであった。
望月のその佇む姿は、いつものようにだらしない姿をしているように見えた。試合中もそのように見えるのは、きっと一緒に居すぎたからなのだろう。去年までの冷徹な立ち姿には到底見てなかった。
ドリブルで自分で突破できる。そう、誤算したのはきっとこのときからだ。
「……ん?」
変な望月の守備の入り方に見えた。自分と身長はほぼ同じはずなのに、小さく縮こまっているように見える。普通、ドリブルを防ぐときは同じ目線になるはずなのだが……。すると、望月は顔だけこちらを向いた。半開きでこちらを全て見透かされているような錯覚を覚える。いつものだらしない望月には見えない。誰なんだ?こいつは……。俺の知っている望月なのか?
まるで望月に拘束されているよう。視界から望月が直接入ってきて、神経を麻痺されているような感覚がした。
すると、その目に引き込まれている間にボールは奪われてしまった。
「あれ?いつ奪われたんだ?」
目に気を取られて足元のボールが見えなかった。望月の頭が邪魔で……。いや、本当にそうか?望月とは十分な距離があったはずだ。なのに、どうしてもボールが見えなかったんだ?
そんなことを思考している間にもボールはどんどん自陣へ向かっていく。望月ももう既に遠くまで走っていた。
「影叶!ボサっとすんな!」
コーチからの叱咤が聞こえ、驚いたように体を震わせてから自分の持ち場に戻って行った。
こうやって望月の相手をしているといやらしさがあるようにも見えず、決定的な何かをしているようには見えずただただ望月の方が勝っていた。自分よりも実力が格段に上にも見えない。
ただひたすら気持ち悪さだけが募っていた。
※※※※
そんな柳井望月は練習時間が終わったとたんにベッドの上でうとうとしているのが普通であった。
「差がすんごい。」
「なにとなにの差?」
今まさに横でベッドに横たり、大の字で目が閉じたり開いたりと何かと葛藤している。葛藤するぐらいなら寝ちゃえばいいのに。にしても本当に怠け具合を見ていると、マッチアップしたときにみた望月の目を疑ってしまう。こっちは脳裏に染みついて離れないというのに、本人はのほほんとしてるのがなんだか鼻に付くものがある。
「宇佐美(分析)コーチに呼ばれててさあ。行かないとなあとは思ってるんだけど……。」
「お前に行かない選択肢あんのか?」
若干キレ気味に口にする。しかし、望月には伝わっているのか、もしくはスルーしてるのかは分からないが相変わらずのゆったりした口調だった。
「こういうときこそ、持病のせいにしてサボる。」
「持病を有効活用するやついないんだよ。」
ここまで言っても望月は動かない。そもそももう寝そうである。普通なら持病に優しくする場面だろうけれど、なんかムカつくから睡眠を邪魔することにした。
「ちょっと!乗っかんないで!重い!」
自分の全体重を望月の腹に乗っけた。望月は悶えに悶え、どうやら眠気は冷めたようだ。
「重いって!78.1kg!」
「なんで今朝に計った体重知ってんだよ。キモい。」
望月は「分かったよ。行けばいいんでしょ。」とぷんすか怒りながらこの部屋を出て行ったのだった。去年まで冷めたやつだとか思ってたのに実際そうでもないただの人見知り。と思ったら、怠けてたり、のほほんとしてたり、練習では別人のように集中していたり……今のところまだまだ望月がどんなやつなのか分かりきってはいないんだろうと思っていたのだった。
※※※※
———— 山本影叶から見た望月とエンリ ————
もうそろそろ沖縄キャンプも終わるという頃の事だ。
目の前で望月がドヤ顔しながらパソコンを抱えていた。何インチかは分からないが大き目で持ち運ぶようにしては重そうな見た目をしている。
「そんな楽しそう顔してどこ行くんだ?」
「今日こそ勝ちに行くんだよ。」
胸を張って言う望月である。俺が思い浮かべたのはサッカーしかなかったが、午後の夕方に今更外に出歩く様子もないしサッカーするのにパソコンは必要ない。
「なにに?」
望月は「ふっふっふ…。」と不敵な笑みを浮かべている。なんかウザい。
と言う訳で俺は望月についていくことにした。部屋はエンリと
「エンリ!今日こそ勝つよ!」
エンリはニコッと、とてもいい顔していた。
「おお!かかってこい!」
ノリがいいやつである。いったいなんの勝負なんだろうか。
———数分後
「よっしゃあ!勝った!」
「望月すごい!」
エンリは感嘆な声を上げて純粋に称賛していた。普通なら悔しがるだろうけれど、エンリは人が良いのか楽しそうにしている。しかし、きっと俺でも同じ反応をすると思う。何故なら…。
「望月。」
「ん?」
望月がきょとん顔でこちらを振り返る。床に座るエンリと望月の後ろに自分はベッドに座って見ていたのだ。
「それ、お前の勝ちじゃない。コンピューターの勝利だ。」
二人が今さっきやっていたのはマリオカートで……いや、エンリとコンピューターがやっていた。望月はただ見ていただけである。
「でも、これ作ったのは俺だよ!」
「エンリがプログラムに負ける程にお前が頭がいいのは分かったよ。でも、お前が操作しなきゃ意味ないじゃん。」
望月はエンリと顔を見合わせた。望月は胸の前で腕を組んで首を傾げながら考えている。数秒そうした後で口を開いた。
「確かに。」
「お前は馬鹿か。」
思わず咄嗟に突っ込んだ。でも、エンリは違ったようだ。
「でも、俺は完敗だよ。望月は凄いよ。」
なんでエンリは望月を庇ってんだよ。でも、望月はコントローラーを持って言った。
「でも、俺自身で勝てるように頑張る!」
謎の宣言をして、望月はマリオカートの修行にいそしむのであった。
———更に数分後
「やったー!ゴールできた!」
望月は歓声を上げるが……
「望月くん、逆走してるからゴールじゃないよ。」
なんなんだ?こいつら。
やっぱり望月はお馬鹿であることを再確認したのであった。
頭がいいのか悪いのか分からん。
※※※※(おまけ)
——— そして、このシリーズ初登場キャラと柳井とのの絡み ————
(一時的に柳井望月目線)
沖縄と言えば海である。FC宇宙ステーションを受け入れてくれた宿泊施設のすぐ傍にもビーチがあった。なんという贅沢なんだろうか。そんな海辺で遠くから体育座りをして俺は海を眺めていた。ザバーっという海の音が心地よい。あ、もう寝そう。
「望月くん、海だよ!入ろうよ。」
腕をガシッと掴まれて驚いて顔を上げた。
「入るのはいいんだけどさあ。出た後大変じゃん?砂だらけになるし。」
———そしてまたすう十分後 (山本影叶に視点は戻る)
「なんでこんなに砂だらけなんだ?」
着替えがないと連絡が来て外に出てみれば望月が全身砂だらけになっていた。ジャージはずぶぬれで頭から水被ったんじゃないか?と思うほどに頭から足の先まで全て濡れている。
「汚ねえな。空輝もだぞ。先輩が後輩いじめてどうすんだ。そしてお前も着替え持ってこようか?」
「ごめん。ごめん。楽しくなっちゃって。」
空輝もまたずぶぬれで、見た目だけで下着も濡れてんだろうなと分かる。直感でこいつら二人にしたら危なそうだなと思った日であった。
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