第3話 反撃

 やっと、怜史が手を下ろした。まだ顔が赤い。そんなに悔しかったのか。少し悪いことをしたな、と思ってしまう。


怜史はふーっとため息をついて顔を上げた。


「直斗。」


少し低い、改まった声で俺の名前を呼ぶ。もしかして、怒っているのだろうか。怜史は立ち上がり、一歩俺に向かって踏み出す。すっと眼鏡を外して少し顔を近づけてくる。茶色い瞳に俺が映る。せっかくおさまってきた俺の胸の鼓動が、また激しくなる。


「直斗…好きだ。俺にとって、お前は誰よりも大切な存在なんだ。」

「なっ…。」


頭がくらくらする。視界にはチカチカと星が浮かぶ。ドッドッドッドッと心臓の音が耳の奥でする。

怜史は今、なんて言った?今の「好きだ」は友達としての好き?でも「誰よりも大切」って友達に使うか?


固まってしまった俺に、怜史はにこりとほほ笑んだ。


「ハッピーエイプリルフール。驚いたか?」

「……っ。」


言葉が出ない。手で顔を覆って俺はしゃがみ込んだ。何だ、それ。ずるい。俺の気持ちも知らないで。


嘘でも好きだと言ってもらえたことを、喜んでいいのか、悲しんでいいのか、それとも怒りを感じればいいのか、俺はよくわからなかった。感情がまとまらない。


しばらくしてから、俺は「ナイス演技力!」と精一杯の強がりコメントをし、用事を思い出したと適当なことを言って平静を装い家に帰った。

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