第17話 アクロポリス

 翌日、わたしはアクロポリスの丘に登った。

 紀元前13世紀にはすでに、この丘にドーリア人の侵入を防ぐ城塞が築かれていたらしい。

 現存している遺跡で一番目立っているのは紀元前5世紀に建設されたパルテノン神殿だが、劇場や音楽堂やその他の神殿も残っていて、すべてを合わせてアテナイのアクロポリスと呼ぶ。

 でかい、とわたしは単純に驚いた。

 アテネはいろいろな勢力に占領されているが、強大なるオスマン帝国にもやっぱり支配されている。

 スルタンはパルテノン神殿を破壊せず、モスクとして使った。

 1687年、大トルコ戦争でヴェネツィア軍から砲撃され、神殿の屋根は崩落し、彫刻は傷ついた。それでも46本の太い柱は倒れなかった。

 いまわたしが見上げているこの大理石の柱の高さは10メートル、直径は2メートル。

 幾多の争いに巻き込まれながらも、紀元前5世紀から立ちつづけている。

 パルテノン神殿はギリシア神話の女神アテナを祀る神殿だ。

 1975年からギリシア共和国政府が修復を本格化させ、EUも協力しているが、完全修復の目途はいまだに立っていない。

 建設時のアテナイの国力はどれほどだったんだ……。

 パルテノン神殿を過ぎると、展望台がある。

 強い風に吹かれながら、わたしはアテネの街並みを一望した。

 コンクリートの建物がぎっしりとつまっている。

 唯一建物がないのは、標高273メートルのリカヴィトスの丘。三角錐形で美しい。

 アテネはいくたびも戦火に焼かれ、支配者が交代したが、いまでもギリシア最大の都市だ。

 全盛期のアテナイには古代民主主義があった。多数の奴隷も存在したが、自由な市民がいた。

 公職はその地位を希望する市民の中から、くじ引きで決定された。

 アテナイ人の多くはそれを民主的で公平でよいことであると考えていた。

 ソクラテスは専門的な知識が必要な公職をくじ引きで決定するのは、合理的ではないと批判した。

 彼はくじ引きで選ばれた法律知識のない裁判官の私憤によって、死刑に処された。

 わたしは自由だ。

 奴隷のように働いて、1千万円を得た。

 所持金を使って、好きなように旅をつづけるつもり。

 次はどこへ行こうかな?

 イタ飯でも食べに行くか。

 古代ヨーロッパに存在した超大国の首都、ローマへ……。


 アテネで46,600円使った。

 移動費8,600円。

 宿泊費24,000円。

 食費10,900円。

 その他3,100円。

 これまでの総支出813,600円。

 旅費残金9,186,400円。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る