第5話:先輩を肌で感じる
「あっ……」
先輩が僕の手を取り、自らの胸へと誘導する。
思わず声が出てしまった。初めて触れる女体の感触に、頭がクラリとする。
「もっとしっかり触りなさい」
言われるままに両手に力を込めて、その柔らかさを味わう。興奮して息遣いが荒くなるのが自分でもわかる。
「どう?少しは伝わってくるでしょ?」
少しは感じたかな、などと思ってしまったが、先輩はあくまで真面目だ。
「ほら、胸だけじゃなくて全身を触ってみなさい」
「はい……」
僕はゆっくりと手を下ろしていく。腰に触れ、背中に触れ、お尻に触れる。
今度は下から。足首からふくらはぎ、太ももに手を這わせる。
そして、ついに一番大事なところに指を入れようとしたら、ぴしゃりと手を叩かれてしまった。
「そこは絵とは関係ないでしょう。真面目にやりなさい」
「すみません……」
先輩なりに僕を誘ったのかと思ったが、芸術のためというのは本音のようだ。
「さあ、もういいでしょう。デッサンに戻るわよ」
再び、同じ構図で描き始める。
「よし、できました!」
鉛筆を置き、僕は大きく伸びをした。
「んー、さっきよりはだいぶ良くなったわね。ヌードデッサン初日でここまで描けるのは割と上出来かも」
「ありがとうございます。先輩が本気で教えてくれたからですよ」
体を張ってヌードになっている今はもちろん、2年間かけて基礎を叩き込んでくれたおかげだ。
「先輩、僕からもお願いがあるんですけど」
「何かしら?」
「もし先輩が納得する絵を描けたら、僕と付き合ってくれませんか」
僕の言葉を聞くと、先輩は戸惑い、やがて吹き出してしまった。
「何言ってるのよ、もうお互い好きだって言ったから付き合ってるようなものじゃない」
「そういうことじゃないんです。もし正式に付き合ったということになれば、裸の先輩の前で我慢できなくなります」
僕は言葉を続けた。
「先輩の体がきれいなうちに納得してもらえる絵が描きたいんです……あ、セックスが汚いとかそういうわけじゃなくて」
「ふふ、わかったわ。男の子にとって"初めて"は大切だものね。私は待ってるから大丈夫よ」
先輩は優しい笑顔を浮かべながらそう答えた。
***
次の日も、その次の日も、僕は先輩を描き続けた。
卒業するまでは平日が暇なので付き合ってくれるという。
「先輩、今日の絵はどうですか?」
「よく描けているわ。でもここがちょっと……」
今日も駄目出しをされてしまった。
もしかすると本当は認めているのに、僕を焦らして楽しんでいるのかと疑ってしまう。
そして、我慢できなくなった僕に襲われるのを先輩は期待しているのではないだろうか……。
「さあ、まだ時間があるからもう一枚よ」
「はい、今度こそ先輩を納得させてみせます!」
しかしまだ時間は残されている。せめて卒業式の日までは真面目に挑戦したい。
それが、美術部での2年間を僕のために捧げてくれた先輩への恩返しなのだから。
***
物語はこれで完結です。最後までお読みいただきありがとうございました。
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