第6話 憑依?

「・・・・・・もー!!

なんなんだよ!どうしてついてくるんだよ!

僕は用足しに来たの!

悪いけど来ないでくれるかな?」


『え、だめなの?

だったら戸のとこで待ってる』


「絶対だよ!入ってきたら怒るからね!」


蒼音はそう吐き捨ててトイレに籠城した。


しごく普通に考えてみたら、今自分はとてつもなく非現実的な状況に置かれている。改めて己の不運を呪った。


こういう場合はどうするのが適当なのか?

(とりあえずお母さんが帰ってきたら相談して、お祓いに連れて行ってもらおうかな・・・

こういう霊視体験は世間でもたま~にあるようだしね。

僕の頭がおかしくなったわけでもないよね?

悪夢でもないんだよね?

あ~でもまさか、僕の身の上にこんな奇々怪々現象が起こるなんて・・・

僕だって信じられないよ)


暫くトイレで悩んでいた蒼音だが、いつまでも篭っているわけにはゆかなかった。


『蒼音まだ?』


ドアの向こうではしびれを切らした座敷童子・・・

いや、背後霊が自分を呼んでいるではないか。

蒼音はドアを開けて一喝した。


「あのね!人間にはプライバシーってものがあるの。

一人になれる時間と空間が必要なんだよ。

わかる?君にそこんとこ!」


『・・・わかんない。

だってさっき、ひとりはいやだって叫んでたでちょ?』


「う・・・そ、そうだけど・・・


そ、それよりさ、この世から消えることができないのなら、せめて僕から少し距離を置いてくれない?

はっきり言うと、僕の視界から消えてくんないかな。

隣の部屋に居るとかさ。小町と遊ぶとかさ、お昼寝するとかさ、いろいろあるでしょ」

目の前のこの小娘は、今度こそ僕の心情を酌み取り、言うとおりにしてくれるだろうと蒼音は期待した。


『そだね。

でもね・・・・

あたち蒼音のそばがいい。

蒼音のそばが安心できるの』


「うっ・・・・・」

見上げる二つのつぶらな瞳に懇願され、蒼音はちくりと胸を突かれた。

よくよく見れば、純真無垢で小さな可愛い女の子ではないか。

霊と呼ぶには程遠い容姿をしている。


天使や妖精と呼ぶにふさわしい女の子なのだ。


「・・・・そう言われてもな。

でも・・・だって・・・

困ったなう~ん・・・・・


・・・じゃあさ、約束して!僕のこと・・・・・・

その・・・呪わない?」

『うん!

なんのことかわかんないけど、あたち、のろわない!

約束する』


「本当?絶対だよ」


『うんぜったい約束する、だって、蒼音から離れられないのあたち。

蒼音とあたちはあんまり離れられないみたいなの。

一心同体なのあたちたち!』


蒼音の背後に浮遊したり、足元にひっついたり・・・

確かに先程から一時たりとも離れよとしない。


「?えーと・・・・

それはどういう意味なのかな?」


『離れようにも離れられないの』


「え、えっと・・・・・

そのつまり、物理的に距離を空けられないってこと?そういう意味・・・・

なのかな?」


『うんそうみたいなの』


背後霊とはそういうものなのだろうか?

だからこそ背後・・・と呼ぶのだろうか?

蒼音は妙に納得していた。

いたが・・・・


納得しきれない部分も多々あった。

しかし、そういう道理であるらしい以上、今は事実をのむしかなかった。

あまり無理じいして、それこそ呪われでもしたら厄介だからだ。


「わかったよ。

言い分はわかったよ。

でも、僕の邪魔はしないでよ。

トイレの中まで入ってこないでよ。

消えられる時はすぐに消えてよ」


『わかった。

あたち蒼音の嫌がることは絶対ちない。

だってあたち他にどこも行くところないもん。

消えろって言われても消えられないもん』


「あ、うん・・・そう・・・

だね。そうだよね。

うん、本当にそうだったね」


蒼音は妙に納得してしまった。

確かにいくらなんでも、いきなり消えろといわれて、素直に存在を消せる人間などいるはずもなく。

たとえ人間でなくとも、他人からそのような冷たい言葉を投げられたら、幽霊だって妖怪だって傷つくに違いない。

ましてや相手は小さな女の子なのだ。


と、蒼音はこの短時間に人間の傲慢さを反省するまでに至っていた。

とういうより、そう思うより他なかった。

というのが正しい結論だ。


「ごめんね。

僕も無理を言いすぎたよ」


『うん、えへ・・・

でもよかった!

蒼音のそばにいられてよかった!』


予想外だった。

本当に予想外だった。

そんな満面の笑顔を向けられて、またもや蒼音の心臓がキュン・・・

と切なく収縮した。


(何なんだろうこの感覚?

切ないんだけど心地よくて懐かしい感じがする。

知っていたような初めて味わうような・・・

何なんだろう?想い出せない・・・・・

でも心地いい・・・・・・・・)


狐か狸につままれたようなこの出逢い。


蒼音は、とりあえずは受け入れる気持ちでいた。

ただ、受け入れる・・・・とはいっても、大人に相談するつもりではいた。


いくらなんでも、一生背後霊につきまとわれるのは勘弁願いたかった。

この状況を一刻でも早く解決したいことに変わりなかった。


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