鏡の魔法少女は自由に暗躍する

月夜るな

Act.1 鏡の魔法少女と出会い

第1話『不思議な鏡にご用心?』


「えっと……鏡?」


 正面から見ても、横から見ても、しゃがんで下から見ても、それはただの鏡。何の変哲もないただの鏡。

 ただどちらかと言うと普通の鏡よりは大きいかなと思う。それは良い……良くはないが、その鏡に映っている姿がおかしい。


 黒のリボンカチューシャ、水色のワンピース、その上から着ている白のエプロンドレス……白と水色が交互に使われた縞々模様の靴下、黒のペタンコ靴。


 何処となく不思議の国のアリスを彷彿とさせる服装。

 背中の真ん中辺りまで伸ばしたブロンドのストレート。おっとりとした感じの青い瞳。驚く程に白い肌。


 見た目年齢12歳~15歳くらいの女の子がそこに映っていたのである。


 鏡から目を逸らし、自身の身体を見る。鏡に映っているような衣装は着ておらず、髪だって長くない、いつも通りの僕の姿。


「何だこの鏡」


 言っておくけど僕は見ての通り男である。決してこの鏡に映っているようなファンタジーな世界から出てきてもおかしくないメルヘンな容姿をした女の子ではない。


 大体鏡がおかしい。

 だって今の僕の身体を見ても特に変化はないし、いつも通りの自分だ。服装だってまだ記憶に新しい物である。


「……」


 今までの動作で分かっている事は、この鏡に映っているメルヘンな少女は僕の動きと連動しているという事だろうか。

 僕がしゃがんだり、手を動かしたりとかすると同じように動く。動きだけを見れば確かに普通の鏡である。


「いや、おかしくない? この鏡バグってない?」


 そもそもここは僕の家で僕の部屋である。この鏡も僕の物だったはず。今まではいつもの冴えない自分の姿が映っていた事は記憶に新しい。だから尚更、この鏡はおかしいのだ。


「にしても、何かこれを見てるとVtuberって言うのを思い浮かべるな」


 別にVtuberに興味があるって訳ではないが、今時で結構流行っているので耳にした事が少しある程度である。


「んー?」


 それはともかく、まずはこの鏡である。鏡がバグるって言うのもおかしな話だが、現におかしいので何とも言えない。


「!」


 そんな鏡をうーん、と首を捻りながら観察していると外から大きな音……警報が聞こえて来た。最早聞き慣れたしまったそれ。


「結界が発動したか……」


 近くの窓の方に移動して外を見れば、向こうの方に薄暗いドーム状の何かがこちらに向かって大きく或いは広がってきている事が確認出来た。


 ……結界。

 魔物が出現する際に発動する一種の防衛機構である。その技術はよく分からないが、まあ妖精と人間が手を取り合って協力開発した物だとは聞いている。


 魔物の反応が確認された場合に、その場所を基準に周囲の一定範囲を包み込むようにドーム状に発動する。

 その結界に囲まれた場所は隔離状態になる。物理法則だか空間の法則だか知らないけど、それらを捻じ曲げて一つの小さな世界を形成するらしい。

 範囲内の街並みなどをコピーし、範囲分を複写して転写させる……いや自分でも何を言っているのか分からなくなるけど……。


 まあ、簡単に言ってしまえば一定範囲の空間をコピーして別の空間に転写させるという事。だからそこで何が起ころうと、現実の世界では何も起きない。

 これは魔物が出現した際の被害を無くすために生まれた技術だ。妖精の”魔法”と人類の”科学”が合わさって出来た物でもある。完成したのも結構昔だったりする。


 これがなかった時代では現実世界での戦いだった為、あっちこっちで被害があったらしい。魔物の攻撃もそうだが、その魔物に対抗して戦っている魔法少女と呼ばれる少女達の戦いによって被害が出るパターンも少なくなかった。

 そりゃ、戦ってるんだから周りに地形とかも壊れる可能性はある。建物だって壊れるだろうし。その時代の人達はさぞ苦労した事だろう。


 だけど、魔法少女は世界の希望。突如現れた魔物に対抗出来る存在であるし、戦いが起きるのは致し方ないのである。


 現在では魔法と科学が合体した魔学が発展した事もあり、最低限魔物に抵抗できるほどの力は人類も身に付けた。それでも魔法少女とは程遠く、一定のラインを超える魔物相手には無力にほど近い。全く歯が立たない訳ではないが。


 そんなこんなで今も魔法少女と人類と妖精たちと魔物の戦いは続いてる。


 とは言え結界があれば安全……とは言えず、結界を維持するにも時間的制限が存在しており、あまり長引かせると結界が消えてしまい、現実世界に魔物が具現化してしまう事がある。

 その場合は避難警報が鳴り響くのだが、基本的には結界内で魔法少女達が対応しているので余程な事がない限りは外に出て来る事はない。


 魔物の強さはピンキリである。

 弱い魔物も居れば強い魔物も居る。それぞれの魔物に対してはレベルが設定されており、魔物の持つ魔素により判定される。


 一番下をレベルEとし、レベルD、レベルC、レベルB、レベルAと続いて最後もとい、一番上がレベルSとなっている。


 そもそも魔物とは何なのか?

 それは分かっていない。突如として地球に現れた敵対生物としか言えない。じゃあ魔法少女は何なのかと言えば、実はこちらも謎が多い。


 分かっている事は魔物に対抗できる大きな力を持っている事。そして妖精と契約する事で魔法少女になれる事。とは言え、妖精を経由せずとも魔法少女に覚醒する例も多く存在しており、一概には言えないようだが。


 気が付けば魔法省と呼ばれる政府機関が作られていて、基本的にはそこに所属する魔法少女がほとんど。成り立ての魔法少女を育成する施設もある。


 まあそれはさておき。


 結界には普通の人はが入る事は出来ない。しかしながら、例外というものもあり稀に結界内に一般人が迷い込んでしまう場合もある。

 大体はすぐに見つかって外に出してもらえるが、中々見つからない時もある。コピーする空間次第ではある。


 ただ一般人が魔物と張り合えるのかと言えば……基本的にはノーである。一応、誰でも使えるような小型の対魔物の武器はその辺で買えたりするけど全員が持っているとは限らないし、弱い魔物ならともかく中堅……少し強い魔物とかだと多分無理だ。

 なので一般人が結界内に迷い込むのは非常に危険。稀ではあるが、それでも可能性があるので気を付けなければならない。基本的にはその場から動かず、何処かに隠れる方がいいかも知れない。


「……あれ」


 そんなこんな考えていると、何か世界か隔離されたようなそんな感覚を覚えた。


「あ、これ……迷い込んだか?」


 僕は何となくそう感じた。

 さっきまで聞こえていたはずの様々な音が聞こえなくなっている。更に言えば、周りが若干セピアのかかったような景色になっている事からここは結界内だと察する。


「まあ、家だから隠れるには問題ないか」


 幸い、なのかどうかは分からないけど、結界内に入ったとは言え、丁度家のある場所だったので少しは安心である。


「稀だって言うのに、こんな事ってある?」


 迷い込んでしまったのは仕方がない。

 ここで魔法少女達が見つけてくれるまで待つか、魔物を倒されるまで待ってる方が安全かもしれない。下手に動くのは危険だろう。


「で、鏡は相変わらずだな」


 窓際に居ると魔物に見つかるかもしれないので中へと移動する。

 窓際の方が魔法少女達に見つけてもらえるかもしれないけど、今言ったように魔物に見つかるリスクも伴うから安全とは言い難い。


「これどういう仕様なんだろう?」


 真面目な話、鏡がバグるってそんな事あり得ないでしょ。プログラムでも何でもないのに。ゲームやアプリとかならそう言ったプログラムやら何やらでエラーを吐く事があるだろうけど。


 いやそれは今はどうでもいいか。それよりも、この鏡……。


「!?」


 もう少しよく見ようと鏡を触ろうと腕を伸ばしたら鏡に触れた瞬間の事だった。……眩い光が視界を奪い、流石に驚いた僕は咄嗟に目を瞑るのであった。





=あとがき=

魔法少女シリーズ第3弾です。

他シリーズとのつながりはありません。似た設定や内容がありますが、直接的な関係はありません。


読んで頂き、ありがとうございます!

こちらの作品はリアルの都合もあり、不定期になります。

最低でも週に1話は投稿したい……


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