第二幕 雪平の巫女と使徒

雪平の巫女と使徒(1)

 美哉の実家、雪平家はこの神山町の半分を牛耳る一家だ。数百年前から存在し、権威と共に発言力や影響力のある名家。美哉はその雪平家の一人娘であり次期当主。


 そしてもう一家、神山町のもう半分を牛耳るのが雪平と並ぶ武家の秋山家。こちらも権力を持ち長い歴史がある。二つの両家によって神山町は発展し続け護られてきた。


 美哉は夏目を連れて、被害報告にも書かれていた遊具が破壊された公園へとやって来る。

 住宅街から遠くない公園、すべり台やブランコ、ジャングルジムなどありふれた公園だがすべり台は一部破壊され、ブランコは見る影もないほどに。入り口にはテープが張られ危険のため立入禁止と。


「これ、誰が直すんだ? あと破壊した奴を捕まえるのは?」


 ふと気になり美哉に訊く。


「壊された遊具や建物は、秋山家が建て直しをします。破壊状況などを、秋山家に報告するのは私たち雪平の務めの一つですから。それと、破壊した者を捕らえ罰するのも雪平の役目ですね」

「そ、そうなんだ……」

「ふふっ。驚くのも無理はありません。神山町を発展させてきたのはこの両家で、その後にできた警察に表向きは役割を与えてはいまずが、実際は裏で街を護っていますから」


 夏目の知る一般常識とはかけ離れている。雪平家と秋山家が神山町で有名なのは知っていたが、裏で警察みたいなことをやっているとは知らなかった。


 非現実、非日常に足を踏み入れてしまったのでは、と今更ながら思う夏目。立入禁止のテープがされていれば、遠目から見ては関係ないと顔を逸らし何事もなかったかのように日常へ戻るだろう。


 だが、今目の前に広がる破壊された公園を目の当たりに顔を逸らして何事もなかったようには振る舞えない。


「知らないだけで、こういうことが普通に起きているのか……」

「夏目? どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」

「では、次の現場に向かいましょう」

「ああ……」


 秋山家に報告するため、報告書にもあった被害が遭った場所へ向かう二人。


 荒らされた花壇。ここも、誰もが訪れられる場所だ。ペットの散歩ルート、ジョギングや散歩に適したスポット。自治会が木々を、道なりに花が咲くように考えられて植えられている。しかし、木々に鋭利な物で斬りつけた箇所、踏み荒らされた花たち。


「うわ……。酷いなこれは……」

「全くです。こんな行為になんの意味があるのか訊きたいくらいですね」


 電子メールで報告しているのだろう、端末を取り出し一枚一枚、回りの状態も写真を撮り報告していく美哉。そのそばでただついて行くだけの夏目。

 ここも荒らされた箇所、斬りつけられた木々の回りは立入禁止のテープが張られる。


「ここも終わりです。さあ、次の場所へ行きましょうか」

「分かった」


 美哉のあとをついて行きながら夏目は、まさか生徒会長もこういうことに関係していたのかと内心、驚くことばかりだ。入学早々、こんなことになるとは思いもしなかったなと。


 そうして報告に上がっていた場所を巡り、被害状況のため写真を撮り報告し終わる。

 河川敷の橋の下が最後。考えごとをしながらついて行くと急に足を止め、険しい表情に変わり一点を見つめる美哉。


「美哉?」


 そんな美哉へ不思議に思い声を掛ける。が、一点を見つめたまま動かない。それどころか、橋の柱に向かって言い放つ。


「隠れて覗き見などせず、姿を現してはどうですか?」


 美哉の言葉と視線に釣られてそちらへ視線を向ける。美哉には誰かがいる気配を感じているようだが、夏目には何も感じられずいまいち分からない。


 首を傾げる夏目だったが、柱から一人の男が姿を見せた。人がいたこと、美哉が言い当てたこに驚く夏目。

 現れた男は黒いサングラス、派手なシャツというチンピラ風の出で立ち。そんな男は嫌な笑みを作り一言。


「雪平の巫女で間違いないな?」


 美哉も、ふっと笑い男の問いに答える。


「ええ、そうですよ。それで、そうだと分かってあなたは私に何をする気ですか?」

「くくっ」


 男は手は横へ伸ばし、何もないはずの空間に突っ込む。手首から先が消えたことに目を開き固まる夏目。


「えっ……。て、手が消えた⁉」

「やはり使徒でしたか」


 使徒、という単語に男を凝視するが自分たちと何も変わらない人にしか見えない。しかし、男が腕を引くとその手には剣の柄を握っていた。

 手を突っ込んだ空間が肉眼でも分かる歪みを発生させ、そこから剣が取り出される。


「は? な、何が起きて……」


 ありえない光景に息を飲み込み信じられないものを見て動けない夏目。

 そんな夏目など眼中にない男は、剣を振り回し美哉へ告げる。


「お前を殺せ、との命令でな。だから、ここらで死んでくれや!」


 そう吠え、美哉に剣先を向け突貫してくる。






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