神話オカルト研究会(3)
満面の笑みを浮かべ目の前にいる麗しい紫色の黒髪、誰もの視線を引き寄せ奪う抜群のプロポーションの彼女は夏目の幼なじみだ。
ストレートの腰まである長髪、切れ長の吊り目の青い瞳、普段から丁寧語で話し、夏目のアホ毛が何を表す感情なのか分かる人物。
神山学園に通う一つ上、
そして神話オカルト研究会の部長。
美哉は、夏目を自身が作った部活に入れるつもりなのだろう。
……また始まったなこの強引さ、と肩を竦める夏目。
普段と周りに対しては丁寧かつ礼儀正しいが、夏目の前ではいつも強引に物事を進めようとする。それは今に始まったことではないことを知っている。
昔から、夏目を巻き込んでは話や物事を自分の思い通りに進めたがる悪い癖があるのだ。
(今回もその類だろうな……)
諦め気味の夏目。何を言っても効果はないことも分かっているから。
辺りを見渡す。部室にはテーブルとその左右に置かれたソファーが二つ、その奥には部長こと美哉専用の高価そうな机と椅子、更にその奥にも本棚と隙間なく並べられた本たち、床には赤い絨毯が敷かれている。
「夏目、座ってください」
「うん」
美哉に促されソファーに座るのを見てから美哉は、この部活について説明。
「まず部員は私と夏目、あと二人います。合わせて四人ですね。部費は研究会なのでありません。あと一人いれば、申請し通れば下りますが……まあ、なくても平気です。必要な物は私が揃えますし」
(いいんだ……。そこは部費を求めるものじゃないのか?)
と疑問に思うが、美哉は本当に部費に関しては何とも思っていない様子なので口にはしない。というか、既に部員に加えられていることに言いたい気持ちを今は我慢する。
あと気になったことは、この部室にある物は美哉の私物ということなのか。いくらしたのか、聞いてみたいような聞かない方がいいのか、なんて思う。
「この部の目的は、名前通り神話とオカルトを研究することです。とまあ、建前ですが」
「?」
美哉の言葉に首を傾げ、部長専用の椅子に座り笑顔の彼女を見つめる。
「真の目的は別にあります。それは――
「…………は?」
突拍子もないことを言い出す美哉に、眉を寄せて固まる夏目。何をアホなことを言っていると言いたげな顔で。
そんな表情をする夏目を見てクスクスと笑いながらも話を続ける。
「悪神に仕える神殺しと使徒を倒すことがこの部の存在意義なんです」
「………………」
かみごろし? しと? 何を言っているのか理解できない。美哉はいったい何の話をしたいのか夏目には一切伝わらない。
そんなことを説明されても困り果て答えられず固まってしまう。アホ毛はクルクル回り混乱を示す。それでも美哉は語る。
「私たち巫女は、全知全能の神から恩恵を与えられた者。特殊能力をその身に宿しています。神殺しとは、神から代償を支払い神をも殺せる力を得た者。そして、夏目。あなたはその力を持つ神殺しの一人なんですよ」
「…………はあ?」
ますます意味が全く分からない言葉と話をされ混乱とは別に呆れが生まれる。
急に真剣な顔つきになり、何を口にするかと思えばくだらない話。夏目から見ればそれは、痛いほどの妄言そのものだ。
悪神? だの、神殺し? だの漫画やアニメの観過ぎだろうと頭を抱えてしまいそうになる。見ていられないほどの中二病を発症しているのだ。
美哉を、どこの病院に連れて行けばいい? 精神科? それとも脳外科? などと真面目に話をしている美哉に対して失礼な考えが浮かぶ。
それほど馬鹿らしい話にしか聞こえない。
「美哉。俺に話したいことはこれで全てか?」
左手を額に当て、眉間に皺が寄る。これ以上、おかしな話をされても対応できない。
「いえ、まだあります」
「まだあるのか⁉」
美哉の返答に頭が痛くなってくる。美哉がここまで、おかしな妄言を口にするなど想像もしていなかった。これは早急に病院を探さなければと夏目こそ真剣に思う。
「普通、こんな話を信じる人はいませんよね……」
そう小さく呟く美哉。
夏目は、くだらない妄言に付き合うのは嫌だと、アホ毛が左右に揺れ拒否を表すのを見て美哉は彼に一言。
「夏目。高校入学祝いで起きたあの事故はどこまで覚えていますか?」
美哉から笑顔が消え、無表情に変わり訊く。
静まり返る部室。
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