第12話 3つ目に大事な事…グローブ


 三つ目はもちろんお金、グローブ、つまりお金だ。


 俺の得る日銭は今日のように大当たりしたりしない時で変動が激しく、月に5万から100万グローブと幅があり、その一割はウォレットの積み立てフォルダに貯めている。


 決して割が良い訳ではないが、廃墟の解体や瓦礫撤去の「レイバー」の賃金が月15万グローブが相場だ。


 それよりは、お宝に当たった時はかなりでかい収入があり、夢がある仕事で個人的には気に入っている。


 あとはまあ、当たらないだろうなと思いながらも、毎週宝くじを買っている。賭博場に行けばいいのだろうが、それで全財産を失くすどころか多額の債務を負い、当然返済できず「債務不履行」でブラックランクに落ちる人間を何人も見てきているので恐ろしくてできない。


 そういう俺が目指している「上」、ハイスクールレベルに進学するには、必要な社会信用ポイントは1000ポイント以上。


 レッドはハイスクールまでは学費がタダだが、色々将来を考えるとマネーは貯めておいた方がいい。総合保障保険など最低限の保険などの毎月の支払いのために、余裕を持って確保しておきたい。


 そしてハイスクールレベルをクリアすれば、社会信用ポイントが3000ポイント追加され、同時にそのポイントでオレンジランクになれる。


 オレンジランクになれば、原則ホワイト以上である都市にも、何かしらで求人があり雇用がされれば入るチャンスができる。



 そしてさらにグランドスクールに進めば、クリア後1万ポイントが付与されホワイトランクになれる。この場合、お金がないので学費を考えると特待生になる必要があるが、つまり、あの白亜の都市にオレンジのようにこっそりでなく、堂々と住む事ができる。


 そういう意味ではホワイトランク以上の親の家庭は本当に羨ましい。本来ならホワイト以上の親の元に産まれても、社会信用ポイントは仮の100ポイント、6歳になればレッドから始まるので、原則的にノーストウキョウなどの都市に居られないはずだ。


 だが、社会信用ポイントは、統一機構への拠出金や、寄付、社会的地位でも得られ、付与対象を指定して付与する事ができる。


 よほどの事がない限り、ホワイト以上の家庭ならそれほど負担にならない額を6年間、拠出金の負担や社会的地位の報酬で十分、ホワイトランクになれるポイントをもらえるし、足りなければ追加の寄付や拠出金を出せば買える。



 時々だが、ホワイトランク以上の家庭出身の、でも色々な事情でポイントを与えられなかった子供や元ホワイトランクの大人が、ノーストウキョウなどの都市から、ここなど各地のゲットーへ連れて来られる事がある。人々は「堕天者」だと陰口で呼んでいる。


 レッドだったり、それどころかブラックランクだったりに墜ちた、そういう人々のほとんどはあまり良くない末路を迎える事が多い。子供にだけではなく大人も当然、ホワイト以上出身ということで、憎悪の対象になり、いじめられるし、それだけでなく食べ物すら売ってもらえなかったりもする。


 レッドでもカロリーブロックを食べて細々と生きる事ができるが、ブラックランクなら殺されても、殺した人間は罪に問われないためひっそり地下やと下水道や、路地裏で、最期を迎えるなどする人もあり、個人的には気の毒に思う。


 ブラックの立場から逃れられる方法は、それが債務不履行で初回なら、真っ先に思いつきそうすべきな、「自己破産」という手がある。「リミテッド」とセキュリティランクにカッコ書きで載せられネットスフィアにも名前が乗せられるが、少なくともレッドではいられる。




 ただ、ブラック堕ちが初回出ない場合は、かなり過酷な事になってしまう。


 方法の1つ目は、メアリーの授業であったように、統一機構の運営する「レイバーキャンプ」で、それが債務が原因なら、自らの身体を統一機構の名義で人身登記簿に登録し肩代わりしてもらって、ルールで決まっている時給でその債務を完済するまでという形でそこで働く、という事だ。これが一番他のに比べてメアリーの言ったように最善だ。


 そのため希望者が多く、レイバーキャンプは満杯になっているのが社会問題で、抽選で選ばれ抽選に漏れた場合…次の2つくらいしかない。


 2つ目の方法は…対象を自らの身体を統一機構の審判院の行う競売にかける、負債を肩代わりしてもらう代わりに、その文字通り身体ごと「物」として競売にかけ売買され、買った者の所有物であると人身登記簿に登記される「被登記者」になる方法がある。


 ただ、それだけでは本当にただの奴隷だ。奴隷と少し違うのは、1つは、審判院が買主に売買する契約で、特約としてルールで決まっている最低日給で債務額を割った期間が過ぎたら、自由になれるという特約をつけてのものだ。


 その期間は債務額に応じるため、人によって数か月で終わる人もいれば、数年から数十年、それどころか現実的には死ぬまでと同じである数百年や数千年などということもあるらしい。


 また、所有者の所有権に基づいて他者から身を保護してもらえば、所有者とその関係者以外のまったくの他人からは殺されたり盗まれたりはしないだろう。


 仮に殺されたり怪我をさせられれば相手は「器物損壊罪」になり、曲がりなりにも人の命であるのは審判院も知ってるので、最長の刑になるらしい。


 ただ、そのままでは、所有者から殺されても何をされても、所有者自身の単なる所有物の処分であり文句が言えない事になってしまうため、2つ目として、審判院は、契約時に「処分制限」の特約をつけ、違反したら所有者が罰される事になるため、結果的には命は一応はルール的には保護される。


 とはいえ、そうは言っても「物」扱いになるのだから、「奴隷」とか「被登記」とか人々には陰で呼ばれて、そうなるのを皆怖がっている。もちろん、ユニティは「奴隷」自体は禁止しているが、名称が違っても半ば似たようなものだ。しかし、ルール内で行える事といえば、それくらいしか手がない。



 3つ目の方法は…それ以外の、ルール内ではない、他の手になる。


 ブラックは身の安全は全く保障されずちょっとした生活用品の売買契約すら「契約」としては原則的にはできないが、実は裏道があってあくまで個人の私的行為として手渡し交換する分には問題ない。


 実際目にした事もあるが、電子マネーであるクレジットではない「代用通貨」…リアルに存在する金属の平べったいかたまり、「硬貨」などで行う取引や労働の手間賃などを稼ぐ事ができるらしい。


 そうして何とかして稼いで債務を返済すれば、文句なく個人アカウントの凍結は解除され、セキュリティランクはレッドに戻る。ただ…それが叶うケースがどれだけあり、そう私的行為として手渡し交換するために、多くの人々は同情的にしろ、集落に入れば何をされるか分からないため、叶う人がどれくらいいるのかは分からない。



 4つ目、これは「手」と言っていいのか分からないが、セキュリティランクの問題外として、とにかくこの「社会」が及ばない、人のいないとこへ逃げる事だ。幸いというとバチが当たりそうだが、核戦争の結果、人がほとんどいない廃墟がそこら中に溢れている。近場なら崩れかけた地下街、水没したところもある地下鉄とその駅構内、戦後廃棄され封印されてるはずの、各地の地下シェルター。それにいっそ、復興都市のある大都市部のなら、地方都市の廃墟なら、まだ手が及ばず、いくらでも戦争後の廃墟が広がっている。


ただ完全に食料の配給も無料の医療も無い土地で、自給自足で生きるしかない。


 どれくらいの人が逃げるのを選んでいるか分からないが、レイバーキャンプにしろ被登記者にしろ、額によっては数十年、もしくは事実上一生になる人なら、それならばと逃げる人は多いのではないだろうか。そこまで行くのに、野垂れ死んでしまう可能性が高くとも…。

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