知らないうちに現実最強の異能力者になってた



 俺は妖刀を振って、山をひとつ枯らせてしまった。


 すぐに治癒魔法を使って、元に戻した。あぶねえ……。って驚いていた、そのときだった。


界人かいとぉ……!」


 翅を生やしたお人形が、俺の顔に抱きついてきたのだ。


「妖精っすか?」


 そうだ、妖精だ。ゲームやアニメで出てくるような、そんなかわいらしいフォルムの小さな存在。


「無事か!? 界人かいとぉ……!」

「この声……って、万里ばあさん!?」


 俺の顔にしがみついて、おんおんと泣きわめくばあさん。

 彼女は実は、世界魔女という、ものすごい大魔法使いなのだ。


 今は彼女の使命を果たすため、世界を回っている……はず。


「うぉおん! うぉおおおん! 無事でよかったよぉおおおおお!」

「ちょ、ばあさん何があったんだよ」

「それはこっちのセリフじゃよぉおう! おおう!」


 ややあって。


 俺たちは家の中へと戻った。


「え? 殺し屋!? なにそれ!」


 ばあさんから、驚愕の事実を聞いた。

 どうやら俺は、殺し屋に命を狙われていたらしい……。


 いや、殺し屋って。


「そんなフィクションみたいな……」


 部屋の隅で眠そうにする、フェンリルのフェリ、そして、目の前でぷかぷか浮いてる妖精のばあさんを見て……。


「いるかもな」


 異世界ファンタジーがありな世界観なのだ。

 殺し屋くらい、居てもまあ不思議じゃあない。


「てか、おばあさん、殺し屋って……うちら全然そんなやつ見かけてないっすよ?」


 漫画家JKのなぎがそう言う。そのとおりだ。暗殺者って、ピストルやナイフを持って襲いかかってくるイメージ。


 少なくとも、そんな不審人物はみかけていない。


 すると妖精姿のばあさん(字面よ……)がこういう。


「殺し屋は、超越者じゃからの」

「ちょうえつしゃ……たしか、あれか。異世界からこっちに転生してきた……やつら、だっけ?」


 なんか特殊な能力を持ってるって聞いたことがある。


「うむ。スキルや魔法をもっている状態で、こっちに転生してきておる異世界人たちのことじゃ」

「てことはっすよ、スキルや魔法を使って殺しが行われてるってこと……すか?」


 ばあさんが神妙な面持ちでうなずく。

 まじかよ。でも……不思議異世界パワーで、人を殺すのはある意味合理的といえた。


 こっちの物理法則で人を殺すとなると、道具とか労力が必要となる。

 その点、異世界の魔法なりスキルなりを使えば、お手がるに人が殺せてしまう。

「孫よ、そのとおりじゃ。現に、世界で行われてる、不可解な犯罪、死亡事故は……すべて例外なく、超越者の仕業である」

「まじかよ……やばすぎだろそれ……」


 そんなことしたら、地球は死体のやまができちゃうんじゃいないの……?

 いやまてよ。


「ばあさんが、水際で止めてるのか」

「そうじゃ。悪の超越者たちを、我ら調停官達が取り締まっておるのじゃ」


 我……ら? 達?


「ばあさんの他にもいるのか、調停官」

「うむ。育成機関も存在する」

「まじかよ……」

「しかも学長はわしじゃよ」

「なんでもありだなもう!」


 つまり、だ。

 俺は悪の超越者に命を狙われていたわけだ。


「でもなんで?」

「すまん……」


 ばあさんはすぐさま頭を下げた。涙を流しながら、土下座……って、土下座!?


「あ、頭上げてくれよばあさん!」

「いや! すまん……わしがついていながら、おぬしに危ない目に遭わせてしまった……!」

「と、とにかく顔上げてよ。説明してくれ」


 ばあさん曰く、どうやら敵は俺ではなく、ばあさんの命を狙っていたらしい。


 ……命知らずすぎだろ。最強賢者だぞ?


 ばあさんのアジトであるこの山の居場所は、かなり高度な魔法で隠蔽され、さらに結界で保護されているらしい。


 しかし敵は、分断者ディバイダーというあらゆる者を切ってしまう能力持ちだったそうだ。

 ゆえに、隠蔽の魔法すらも切って、結界の中に侵入したとのこと。


「って……それかなりやばい相手だったんでは?」

「ああ。レートSSの能力者じゃった」


「レート?」

「超越者たちは強さ応じてランクわけされとるのじゃ」

「SSってどんなもん?」

「上から2番目に強い」


 そうとうじゃねえか!


「ちなみに一番は?」

「わしじゃよ」

「実質現実で最強じゃねえか!」


 ばあさんは異世界人らしいからな。

 

「何を言うておる、現実最強はおぬしじゃよ?」

「…………は? え、どういうこと?」


「レートSSS。おぬしはわしと同じくくりの、能力者じゃ」

「え、えええええええええええ!?」


 なにそれぇええ!

 聞いてないんですけど!


「すげえす界人かいとさん! 現実でも最強クラスなんすね!」

「いつの間に……」


 いいやまあ、まれびとの称号+ばあさんの魔法や装備で、結構強いかなーって思ってはいたけども。

 まさかばあさんと同じ、最強格だなんて……。


「話を戻すと、分断者ディバイダーはわしを殺すつもりじゃった。界人かいとは人質にでもするつもりじゃったのだろう」

「なるほど……ばあさんを狙うつもりで俺を攻撃したんだな」

「うむ……わしのせいで……かわいいかわいい界人かいとに……う、うぉおおおおん!」


 わんわんと泣き出すばあさん妖精(※字面よ……)。

 俺は、そんな風に泣いてるばあさんを見たくなかった。


「大丈夫だよばあさん。泣かないで」

「でも……」

「俺はなんともなかったし。なぎたちも無事だしさ」

「でも……わしのせいで……」

「悪いのはあの能力者なんだろ。ばあさんのせいじゃないよ」


 うぐ……ぐす……とばあさんが泣きながら頭を下げる。


「すまない……ありがとう、界人かいと……うう……わしは幸せ者じゃあ……世界一の孫を持って、うれしいぞおお……」


 俺はばあさんに、感謝してることの方が多いのだ。


 現実でのスローライフも、異世界でも無双も、ばあさんが力をくれたからである。


 俺はもう、たくさんの財産をもらっているのだ。

 ちょっと迷惑かかったくらいで、文句なんて言うわけがない。


「むしろ、ありがとね」

「うぉおおおおおお! 界人かいとぉおおおおおお! うぉおおおおお!」


 ばあさんが涙を流す。よしよし、と妖精をなでる。


 まあ、何はともあれ……一件落着?


〜〜〜〜〜〜〜〜

★あとがき



これにて一章終了です。

よろしければ★を入れてもらえますと嬉しいです。

励みになります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る