第11話 切ることよりも身を守るほうが大事

今この国は3月も終わりに近い季節にいる。

元の世界と同じなのかは今の俺にはわからないが、このナルダドダイでは少し暖かい空気がこの自由な空間を行き来している。


一日中部屋にこもっているよりこうやって異世界の空気と触れ合っているほうが体にも心にも良い。


そう思っている俺は今、アルカの剣術指南を受けるところだ。


実際に体を動かす前にアルカはこの世界の”剣”について説明するといって、俺たちを整地された石ころのない硬い土の上で座らされた。


「いいか?この世界には剣を主体とした戦闘術が広まっている。剣と盾、剣と剣...ほかにも人によっては剣と杖で戦うものもいる。だが今回二人に教えるのは私が使ってきた剣術を教える。」


アルカが使っている剣術か。気になるな。

剣を握って振り回せるという異世界人特有の喜びが口を蹴り破るところだったがそこは落ち着いて...。


「アルカはその剣一本で戦うのか?」


アルカは目を星にして話を始める。

「気になるか?私も昔は剣と盾を選んで魔獣と戦っていたさ。だけど、ある日遭遇した魔獣と戦った時に”盾の不便さ”を感じてしまったんだ。」


「盾の不便さ?盾って攻撃を防ぐのに便利じゃないか。重そうではあるけど。」


アルカは確かにそうだけどといいつつ答える。


「敵の攻撃っていうのは普通は盾で受けるけど、受けたときの衝撃って盾がすべて吸収してくれる訳じゃない。盾が吸収した後はその盾を持った手と腕に負担がかかる。そして攻撃が重く鋭いものを受けるとその分衝撃も重くなる。そしてしばらく自分の意に反して腕がしばらくしびれて動かなくなる。」


「なるほど。」


「だから私は盾を選択肢から外した。」


でもそうすると


「そうすると相手の攻撃は避け続けるしかないってことか?」

そんなことをアルカに聞くと、それを今から話すところだ!と言いたそうな顔の主張をして口を開いた。


「基本的に相手の攻撃は避けるものだ。だけど限度がある。その時は...」

アルカは腰に携えていた直剣を鞘から抜き出し左手で軽く剣を支えてこう言った。


「”剣”で防ぐ。」


俺はすぐに”剣で防げるものなのか?”と聞き返した。

妹も俺の疑問につづいて問いかける。


「私もそう思う!剣は攻撃するために使うものでしょ?防ぐために剣を使ったらすぐに折れちゃうんじゃ?」


アルカは俺たちの疑問の言葉を聞くと今度はしっかりと剣を握って構えて見せた。


「私が教える剣術における防御は攻撃を”受ける事”じゃない。”受け流す事”だからな。だから今みたいに剣を真っすぐに立てない。斜めにしてうまく力を逃がすんだ。」


アルカの構えをよく見るとわかる。

利き手である右手で剣を握り、剣先を左の脇腹の空間に向けた姿勢で左手は剣の腹に添えるようにしている。


「これが防御姿勢ってやつか。」


「力を逃がすことで剣も折れにくくなるってことね!」


理解を示すとアルカは剣を鞘に納めて、右手を剣の柄に置いた。


「二人にはまず魔物に襲われても自分の身を守れるように「防御」から教える。いいな?」


俺たちはアルカの思想を理解して「はい!」と大きな声で返事をした。



アルカは俺たちに木製の剣(全長はアルカが使っている物とほぼ同じ)を持たせて、アルカの姿勢を真似してみる。


「まず、足を前後に広げて姿勢を低くするんだ。」


「タクミ、足を広げすぎだよ。それだと腰に余計な負担がかかっちゃうぞー?」


「フレイは...ちょっと剣が重そうだね?軽いのに変えてみよっか!」


アルカの細かい姿勢矯正で20分ほど続けているとようやく様になってきたように思えてきた。

俺の隣で短くなった剣を持って足をプルプルと震わせながら姿勢を維持してる妹を見ているとやはり今回の修練は相当キツイものなんだと感じた。


「アルカ?俺の姿勢はどうだ?問題ないか?」


「....うん。今日の成果としてはいい感じだ!でもやっぱり体力はないようだね。いまの修練だけでもかなり体に来てるでしょ?」


「だって、元の世界じゃ剣なんて持たないし、絶妙なこの姿勢だってしないからさ....腰が痛い....」


「私もタクミと一緒!疲れるよー!アルカ、私はいつまでこの姿勢を続ければいいのー?」


アルカは妹に歩みよってこういった。

「あと10分、頑 張 っ て ☆」


「アルカの”おーにー!!!”」

妹は大声を出しながらもそのあと10分を耐え続けた。


10分後


俺も妹も姿勢を維持するだけ疲れてしまいその場に膝をついてしまった。

アルカはそんな俺たちに目を向けてクリーム色をした袋を渡してくる。

「はいこれ。疲れただろうしちゃんと水分補給しなきゃね!」


二人でキャップを開けて口をつけて飲むと、味がした。

でも塩水じゃない。レモンのようなさっぱりとした感じと少し甘い感じがする。


「ねぇアルカ、これ水なの?」

最初に聞いたのはフレイだった。


アルカはすぐに答える。

「いま二人に渡したのは私特製”さっぱり甘い疲労軽減飲料水”だよ。どう?」


「これアルカの自作なのか。これ好きかも...!」

俺は袋いっぱいに詰められていた水を飲み切ってしまった。


「あー!タクミ!全部飲んじゃったの?!」


「ダメだったか?」


「この後10分の姿勢矯正を3セットやるつもりだったのに大丈夫なの?」


え、マジか


「先言ってくれよー!」


「タクミはここから水分補給なしで三セット、頑張ろうねー!」


「後先考えないからこうなるんですよ!ざまぁーって奴です!」

くそ、妹にまで馬鹿にされるとは...!


「やってやるぅ!」


俺は絶対に倒れてやるものかと意志を固く持って修練に参加した。

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