2ー4


「一体あいつは誰だったんだろうな」

 自転車に乗って冷たい風を頬に受けながら、ぼくは独りつぶやいた。不思議と火事のことよりも、さっきの少年のことの方が頭には残っていた——あれ、確かに少年だったよな? でも、いくら考えてみても、さっきの少年が誰なのかは全然わからなかった。ま、初めて会ったんだからわかるわけないよな、とまたつぶやきながらぼくは自転車をこぎ続けた。こぎ続けながら、って言うか地元の人間じゃないのかもしれないぞ、ともつぶやいた。だってさっきの少年のあまりにも正直で、そしてあまりにも不謹慎だったあの一言は、地元の訛りとは少し感じが違っているように聞こえたからだ。けど、それがどこの言葉かまではわからなかった。なんとなく標準語のように聞こえたけれど、そう言い切れるだけの根拠はどこにもないし、もしかしたらただの聞き違いかもしれないしな。そんなことを考えながら、ぼくは家に向かって自転車をこぎ続けた。呼吸する度に吐きだす息が白く凍りついて、十二月の夜に溶け込んでいった。

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