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 そこはぼくの部屋だった実家の二階の六畳間で、勇一郎は壁沿いに置かれたベッドに腰かけていて、ぼくは隣の壁の、窓際に置かれた勉強机の椅子に腰かけていた。そして部屋の隅に置いてあった小型のラジカセからは、ジュン・スカイ・ウォーカーズの曲が小さな音で流されていた。

 ——もちろん、その時の勇一郎の言葉が真実なのだと、ぼくは思わなかった。どこかにはきっと生徒のことを真剣に考える教師がいるに違いないと、当時のぼくはそんな風に考えていた。今でもその考えは変わってはいない。それにその時の勇一郎が本当に心からそう思って言ったともぼくは思っていない。そういうちょっと大げさなものの言い方は、勇一郎の口癖のようなものだったからだ。

 でもそのことについて今あらためて考えてみると、ぼくはわからなくなる。なぜなら本気で生徒のことを考えていると思えるような教師に、今までに自分が関わってきたすべての学校を通してぼくは、実際に一人も出会ったことがないのだから。

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