【守護者・バルバッセロ】との交渉

 特にこれといった豪華な壺や絵画等の物は一切ない。

 あるのは平民でも買えそうな頑丈そうな机と椅子のみという、なんともみすぼらしい、しかしながら無駄に広く壁が合金のようなもので非常に硬く作られている、まるで牢屋のような部屋にて2人の貴族がいた。

 一人は【守護者・バルバッセロ】

 身長2メートル以上、ぱっと見は細身だが、その実恐ろしく鍛え上げられた肉体と無数の傷を持ち、憎き敵国である帝国からの侵入を最前線で防ぎ続けている王国の英雄にして王国最強の男。

 公爵家当主という地位を持ち、広大な領土を帝国から魔物から守り続けてる男。

 確固たる正義の信念を持ち、情があり、部下を大切にして重んじる人望厚き男。

 かなり女癖が悪く悪戯が好きで戦闘狂という欠点こそあるが、その欠点が逆に人間味があり、ある意味で皆から好かれている男。

 このディステリア王国にはなくてはならない存在である。

 そして、民からは国王よりも人望と人気があり、国王よりも彼こそが国王になって欲しいと皆が思っている程の偉大な男である。


 そんな男の目の前にいるのはつい最近公爵家当主となったマリアンヌである。

 つい先ほど、転移の結晶を使い彼の前に転移をしたという訳である。

 もう一人は、つい最近まで、第二王子の婚約者であり、今現在は急死した父親に代わり公爵家を継いだ。公爵家当主・マリアンヌであった。


 面子という面で見ればディステリア王国にたったの4人しかない公爵家当主が2人もいるという非常に豪華な状態である。


「お久しぶりです。守護者・バルバッセロ様」


「ええ。お久しぶりですね。マリアンヌお嬢様、いええ、今はマリアンヌ公爵と言った方がいいですかね?」


「そうですね。今は私はマリアンヌ公爵ですね。そう今はです」


「おや。何か含みのあるような言い方をしますね?」


「ええ。それはしますわ。だって、私はたかがディステリア王国の公爵家当主に収まるような器ではないですもの」

 マリアンヌのその発言は現在の王家への批判ひいては国家反逆の意思と取れるようなものであり、守護者・バルバッセロというディステリア王国の守護者として処罰せざる負えない発言であった。

 否、もしもこの発言をしたのがマリアンヌ公爵ではなく。そこら辺にいるような貴族だったら今すぐにでも首を刎ねていただろう。

 だけど、守護者・バルバッセロはそうしなかった。

 何故ならマリアンヌ公爵の目に強い意志を感じたからだ。

 

 もしかしたらば、マリアンヌ公爵であれば本当に国家反逆を行い、成功させて、この国をより良くするのではないかという強い意志が。


 守護者・バルバッセロはディステリア王国の守護者であった。


 そう、あくまでディステリア王国の守護者であるのだ。


 王家の引いては、王族の守護者ではない、今の愚物としかいいようのない愚かで矮小な国王に使えている訳ではなかった。

 だからこそ、マリアンヌ公爵に引かれた。

 期待をして見たくなった。

 だけど、守護者・バルバッセロにはまだ足りなかった。もう少し何かが欲しかった。


「それは。国家反逆の意思ということですか?」


「ええ、そうよ」


「そうですか。その発言をディステリア王国の守護者である。私に言う意味を理解していますか?」


「ええ、当たり前じゃない。だって、貴方はディステリア王国の守護者でしょ。じゃあ、もちろん私に協力してくれるよね」

 マリアンヌは傲慢であった。

 生まれた時から才能に溢れ、第二王子の婚約者として厳しい修行に耐えながらも、いつもその圧倒的な才能で乗り越えて来たのがマリアンヌである。

 その恵まれた容姿から、誰もがマリアンヌに跪き、誰もがマリアンヌに従った。

 そんな彼女が傲慢にならない訳がなかった。


 しかし、その傲慢さが守護者・バルバッセロにとって、非常に受けた。


「ハハハハハ。いいね。いいね。いいね。そうだ。そうだとも私は、いいや俺は俺様はこの国、ディステリア王国の守護者だ。間違ってもあの国王に仕えてるわけじゃない、アイツはクソだ。愚物だ。矮小でどうしようもない俗物だ。そんな馬鹿よりかは覚悟が決まってるお前に仕えた方が良さそうだ」


「当たり前よ。貴方を絶対に後悔させないは。この私マリアンヌの名前に賭けてね。だから私に仕えなさい」


「ハハハハハ。ああ、もちろんだと言いたいが、まだ。足らねえ、確かにお前は覚悟が決まった。良い目をしている。今の国王よりも100倍マシだろ。でも、足りねぇ。俺様を説得するには足りねぇえなぁ。だから強さを見せろ。俺様に強さを見せて見ろ」


「強さって、私はか弱い女の子ですよ。そんなディステリア王国最強の守護者・バルバッセロ様に強さを見せろと言われましても」


「おいおい、急に猫を被るなよ。分かってるぜ。お前、相当にやるだろ。少なくともその練り上げられた魔力に魔力量・無駄に豪華なドレスに隠れているが、かなり鍛えられている筋肉、超一流クラスの領域に辿りついている」

 守護者・バルバッセロはディステリア王国最強の男であると同時にかなりの戦闘狂である、そんな彼の眼力を持ってすれば、マリアンヌの隠れた実力を見抜くことは容易かった。

 

「あら、やっぱり分かってしまっていましたか。いいでしょう。じゃあ、戦いましょうか。その代わり、私が貴方に力を見せたら、いや、私が勝ったら永遠の忠誠を誓って貰いますよ。いや誓わせますよ」

 ディステリア王国最強の男である守護者・バルバッセロに対して、マリアンヌは何のためらいもなく傲慢に自分が勝ったら永遠の忠誠を誓えとそう言い切った。

 その態度は守護者・バルバッセロにとって物凄く好ましかった。


「ハハハハハ。ああ。いいぜ、俺に力を見せたら永遠の忠誠でも何でも誓ってやるよ。といっても、こう見えても俺はディステリア王国最強の男だぞ。勝てるもんなら勝ってみろ」

 

「では、遠慮なく行きますね。風魔法・ハリケーン」

 マリアンヌが座っていた椅子を中心として部屋全体にハリケーンが起きる。

 

 台風の目という言葉がある、台風というのの中心のみは晴れ晴れとして暴風等も一切ない。

 今、マリアンヌが放った風魔法・ハリケーンは、原理としては台風とかなり似ており、風魔法にて自分の周囲に大量の空気を渦巻かせてそのままハリケーンのように激しく暴れさせるそんな魔法である。

 だからこそ、そんなハリケーンの中心にいるマリアンヌは無傷であった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 非常に大きな声が響き渡る。

 その声には多量の魔力が籠っており、マリアンヌの生み出したハリケーンをかき消した。

 吹き荒れる暴風を多量の音波で無理やり散らして霧散させたのだ。


 声のみでハリケーンをかき消す。

 

 こう、言葉にしてみれば異常と言う言葉では言い表せないレベルの異常であり、正にディステリア王国最強の男だからこそ出来る実に化け物じみた行動であった。


「いい魔法じゃないか。これは期待できそうだな」

 守護者・バルバッセロは笑いながらマリアンヌに襲い掛かる。

 なお、先ほどのハリケーンの影響で服がほとんどズタズタになっており、ギリギリズボンは原型を留めているが、上半身は完璧に裸と一歩間違えなくても変質者のよう恰好である。


「風魔法・風壁」

 風魔法・風壁・その名前の通り、風を使って壁を作る魔法であり、その壁の強度は術者の力量にもよるが、マリアンヌが使えば、その壁は下手な要塞以上の強度を持っていた。

 だけど、守護者・バルバッセロには通じない。その身一つで風壁にタックルをしてぶち破る。


「そんな風の壁ごときで俺様を止められるかよ」


「ええ。もちろん、分かってるわ。風魔法・風刃」

 風魔法・風刃・風の刃を噴出し相手に攻撃をする魔法。風魔法においては初級魔法と称されており、威力もせいぜい草刈りに仕える程度しかない。

 しかし、マリアンヌが使えば違う。

 マリアンヌの持つ膨大な魔力によって圧縮された風は当たった物全てを粉砕するだけのエネルギーを持ち。

 その風を更にまたマリアンヌの持つ膨大な魔力によって音速以上の速度で発射すれば、もはや不可視の弾丸と言っていい程の速度の威力を持った恐ろしい攻撃魔法へとなる。


 マリアンヌの風刃が放たれたことによる、ブオオオンという人を壊す音が聞こえる。

 そして音が鳴りやんだ。


 代わりに聞こえるのは守護者・バルバッセロの右腕の皮が切り裂かれて血が滴る音であった。


「自分の血なんて、久しぶりに見たな。風刃の威力にしては、いささか強すぎるんじゃないか」

 守護者・バルバッセロの皮膚は人間の皮膚を優に超える強靭さを持っていた。

 下手な金属よりも固く、彼が素手で鉄の剣とを握り締めて自分は一切傷を負わずにそのまま潰したという話は有名過ぎる程有名であった。

 そんな彼の皮膚を切り裂く風刃、これがどれだけの威力を秘めているのかというのは想像に難くなかった。


「まあ、私の風刃だからね。それくらいは当然よ。それよりも、悠長にお話なんかしていて大丈夫かしら。私の風刃はまだまだたくさんあるわよ。風魔法・風刃乱舞」

 風魔法・風刃乱舞・使うにはマリアンヌといえど、少し体の中で魔力を練る必要がある程の大魔法であった。

 その効果は至ってシンプル、風刃を何百・何千という量生み出し、そして様々な角度から放ち、相手に襲い掛からせる魔法である。

 ただでさえ、不可視であり恐るべき威力を持つ風刃がありとあらゆる角度から何百・何千と襲い掛かる。それは=で必殺の技と言っても過言ではない程の威力を持っていた。


 激しい音を鳴らして不可視の風刃が守護者・バルバッセロを四方八方から襲う。


「神器解放・来い、アキレウスの鎧」

 神器とは、神から授けられし道具であり。

 人間の技術をはるかに超越した至高の道具である。

 そんな神器は意思を持ち神器から認められた者のみが神器を所有し、使用を許される。

 そして、守護者・バルバッセロはアキレウスの鎧というかのアイギスに並んで世界で最も守護能力に長けていると呼ばれる神器の1つと契約をしていた。


 そして、そんな鎧に守られている守護者・バルバッセロがたかが風刃にダメージを負うなんてことはありえなかった。


「アキレウスの鎧、確か、貴方の家が代々受け継いでいる神器の一つだったよね」

 自分の放った文字通り必殺の大魔法が無効化されたことに、マリアンヌは特に驚いた様子もなく冷静に分析をする。

 

「ああ。そうだ。これは我が家が代々受け継いでいる神器の一つである」


「で?もう一つの神器、雷切はいつ出すの」

 

「雷切のことも知っていたか。でも、アレは強すぎる。今この場で出したら、それこそ戦いどころではなくなってしまう」


「いや、最強の防御力を持つ、アキレウスの鎧を出してる時点で何を言ってるのかしら。少なくとも私の風魔法じゃあ、その鎧を破壊することは不可能だわ」


「ああ。そうだろうな。でも、さっきの場面でアキレウスの鎧を出さなければ俺は死んでいた。それは分かる。あの魔法にはそれだけの力があった。流石に俺が死んでしまったらお前も困るだろう。だから、勝負は俺の負けだ。もしも俺に神器がなければ俺は死んでいた。神器なんてのは人間の身を超越した力だ。こんなものに頼って勝ったところでそれは俺の力ではない。だから敢えてもう一度言おう。この俺、守護者・バルバッセロの負けだ。俺はマリアンヌ様に永遠の忠誠を誓おう」

 守護者・バルバッセロは跪く。

 その姿は国王に忠誠を誓う騎士の姿であった。

 そして、マリアンヌはそんな守護者・バルバッセロを静かに怒鳴った。


「あら、嬉しい事言ってくれるわね。でもふざけているのかしら」


「いや、俺様、いえ、私はふざけてなどおりません。心の底からマリアンヌ様に負けたと思い、忠誠を誓うだけです」


「いいや、ふざけてるわ。神器が人間の身を超越した力?そんなのは分かってるわ。でもその超越した力に認められたのは貴方の力よ。じゃあ何も問題はないわ。私は雷切を使えと言っているの。変に出し惜しみ何てせずに、私に本気でかかってきなさい。守護者・バルバッセロ、お前の持てる全ての力を持ってして私に戦いを挑みなさい。その上で私がそれをぶっ潰してあげるわ。そして、貴方に心の底からいや、魂までもに私への忠誠心を刻み込んであげるわ」


「でも、雷切だと、マリアンヌ様を殺してしまう恐れが」


「私は本気を出せと言っているの。それに余り私を見くびらないでも貰えるかしら。私は本気を出した守護者・バルバッセロと戦って勝つと言っているのよ。私が貴方に殺される。ハハハハハ。心配の内容が逆よ。私が貴方を殺さないか、私が心配するべきなのよ」


「ハハハハハ。ハハハハハハハハハハ。そうか、そうか、そうか、そこまで言われて抜かぬのは、無作法というものだな。ああ。分かった、いいだろうお望み通り。本気で勝負してやろう。神器解放・来い・雷切からの、魔力解放・魔力纏・雷鳴天来」

 そして現れるは雷を纏った一本の日本刀。

 その刀は何処までも美しく、それでいて圧倒的な魔力を秘めていた。


 守護者・バルバッセロはその魔力を解放して、その身に纏った。

 豪華絢爛たるアキレウスの鎧が雷切の魔力により、強い輝きを見せる。

 髪の毛は逆立ち、元は黒色だった髪が雷に影響されてか、荒々しいな金色に変化していた。

 

「フフフ。いいわね、それでこそ、ディステリア王国最強の男守護者・バルバッセロね」


「この姿の俺はさっきの100倍は強いと思えよ。冗談とか比喩とかじゃない。本当に100倍強いからな」

 事実であった。

 アキレウスの鎧の効果による状態異常は当たり前の様に無効化されるし、何ならほぼ全ての攻撃を無効化しているような状態。

 そこに+で雷切の魔力を解放したことによって雷の膨大な魔力をその身に宿しており、本来であればその身に宿した雷の魔力によって自らの肉体を焼き自滅することになるが、アキレウスの鎧を装着していることでそれを無効化。

 結果として、ノーダメージで雷の魔力を身に纏うことに成功しており、これにより音速を超える速度での移動と近づいただけで膨大な雷が相手を襲うという凶悪な効果が付与されていた。

 そして、何よりも最も恐ろしいのは雷切という刀である。

 雷切に纏われている雷の魔力は守護者・バルバッセロが身に纏っている雷の魔力とは文字通り桁が違う程の力を秘めており、その刀に触れらた最後、細胞レベルで焼き尽くす凶悪な威力となっていた。


 これが、守護者・バルバッセロ・ディステリア王国最強の男の本気であった。

 たった一人で万の軍を超える、最強の男の本気である。


 それを見た上でマリアンヌは笑う。

 笑う。

 笑う。

 笑う。

 笑ってそして言った。


「ハハハハハ。それは楽しみね。でも、思った以上に弱かったわ。貴方の本気がその程度ならば、多分、いいえ、確実に私の方が強いわ」


と。

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