第5話 社畜魔王にとってボスも雑魚
今我の目の前にはボス部屋があるのだが……
「……こんなにもデカイものなのか? 我の城の扉よりデカいぞ……」
《ダンジョンが魔王に唯一勝てる所きたww》
《扉の大きさww》
《クソほどどうでもいいww》
《でも魔王城より大きいって地味に凄くね?》
「我の城の扉は世界最大を意識して造られた……らしいぞ。我が生まれる1万年前にな」
《いや1万年てww》
《人が住んでるのにどうして1万年も待つんだよww》
《ダンジョンも実は1万年前のものだったりしてな》
《もしそうなら大発見じゃん》
《まぁそんなことより早くボス戦しようぜ》
《どうせ社畜魔王が勝つしな》
《もうランク改変とかただの脇役だよな》
《それな。だって社畜魔王の強さが際立つだけだし》
《今までで一番安心なランク改変だな》
《安心なランク改変てww》
《ランク改変に安心とか普通無いけど、確かに見てて安心》
「それじゃあ入るとするか」
《待ってました!!》
《やべぇ……めちゃくちゃ楽しみ!!》
《逆にボスが可哀想だよな》
《それなww》
《いま一瞬ボス逃げて!! って思ったww》
《俺もww》
《だって社畜魔王なら一瞬で燃やしそうだしな》
「む、我は今回燃やすのも消すのも破壊する事もしないぞ。今回は剣のみで討伐する予定だ」
今回は何としてもボス。
絶対にそこらのモンスターよりも遥に高く売れると分かっているのに燃やすなんて馬鹿のすることだ。
《うおおおおお!! まさかの魔術を使わないだと!?》
《ボス相手に剣一本とかマジパネェ!!》
《社畜魔王だからこそ出来る芸当》
《めちゃくちゃ楽しみ》
《てかどうせ魔術じゃ威力が高すぎて売れなくなるから剣で戦おうとしてるだけじゃね?》
《俺もそれに一票》
《うん、それしかない》
《まだ一回しか配信やってないけど、既に何回も燃やしたり消したりして発狂してたもんなww》
《特にサンドワームの時なww》
「五月蝿いぞコメント欄! 昔の事を引っ張り出して来るでない」
《wwww》
《怒られたww》
《すいませーんww》
《でも事実だと認めてて草》
《確かにww》
我は言ってもどんどん盛り上がっていくコメント欄から目を離し、ダンジョンの扉を力を込めて開け―――
ドガアアアアアアアアアンッッ!!
―――ようとすると、どうやら扉の大きさの割に弱い力でも開くらしく、我が力を込めすぎたようで扉が破壊されてしまった。
流石の我もこれには目を剥いて驚いてしまう。
しかしそれは我だけでなく、配信を見ているリスナーも同じだったようだ。
《え?》
《へっ?》
《あ?》
《??》
《俺の見間違いかな?》
《扉が壊れた? ……何言ってんだ俺?》
《んん??》
《壊れ……たよね?》
《現在進行系で扉が崩れてんな》
《え、これはマジ? 現実?》
《今までダンジョンの扉壊したなんて聞いたこと無いんだが?》
《一体何したんだよ社畜魔王》
「う、うむ……重そうだったから力を強めに入れただけだ。そうしたら……扉が崩壊した。勿論魔術も使っておらぬぞ」
《うーん化け物》
《これはえげつないな》
《もう社畜魔王のせいでボスモンスタービビってるじゃん》
《ホントだww》
《今回のボスモンスターミノタウロスだったんだな》
《まぁ子鹿のようにブルブルだけどww》
《社畜魔王が相手なんて……可哀想ww》
《本当にそれな》
「おお!! ミノタウロスなら我が世界にも居だぞ。まぁ雑魚だったが」
何ならミノタウロスは初心者冒険者の初心者脱却への登竜門みたいな物だった。
イコールミノタウロスは雑魚だ。
そんなミノタウロスは現在コメント欄でも書いてある通り、全身ブルブルに震えており、呼吸もまだ戦闘すら始めていないのに乱れている。
だからといって油断することなどありえないが。
我は前世よりも遥かに弱体化しているので、こんな雑魚にでも足元をすくわれるかもしれんからな。
「ではランク改変ダンジョンボス―――ミノタウロスを倒そうと思う」
《行けっ!!》
《待ってましたっ!!》
《いろんなハプニングがあってすっかり忘れてたけど頑張れ!!》
《いや社畜魔王なら頑張らない方が良いまでもある》
《確かにww》
《またうっかり素材をだめにしそう》
「我は何度も同じ失敗はせぬ。しっかりと見ておれ」
我は剣を抜き、扉の残骸を飛び越えてミノタウロスに接近する。
ミノタウロスの特徴は兎に角力が強いことだ。
その力は中堅冒険者にも劣らず、力任せな攻撃では倒せないと言われるほどだが、それはあくまで実力にそこまで差がない場合に限っての話である。
「ブモオオオオオオオオオ!!」
我の接近を恐れたミノタウロスは、手に持っていたバトルアックスを縦横無尽に振り回す。
その速さはこのダンジョン一だと言えるだろう。
流石ボスモンスターと言って所であろうか。
「だが……その程度で止められる我ではない」
我はまるで止まっているかの様に遅い攻撃を余裕を持って回避しながら懐に入る。
《いやすげー》
《何か此処まで来ると冷静になるよなww》
《何であんなに速いミノタウロスの攻撃を余裕で避けてんだよ》
《しかもまるで予知しているかの様に攻撃を避けているな》
《さすまお》
《意味不明な位に強いなww》
《ミノタウロスを消し飛ばすなよー!》
《消えたら数億円も一緒に消し飛ぶぞ》
「うーむ……どうしたものか」
我はトドメを刺そうと剣を振り上げようとして……ミノタウロスから離れる。
《? どうした?》
《何かあったか?》
《もしかして神タブレット壊れたか?》
《神タブレットww》
《でも見た感じ何も問題なさそうだよな》
《一体何に悩んでいるんだ?》
「リスナーも気付いていると思うが、先程攻撃を食らわせていれば確実に勝てていただろうが、それではつまらん」
《自分でつまらん言うなよww》
《確かにあのまま終わったら少々あっけなかったけどさ》
《本来は「つまらん」で攻撃をやめていい相手ではないんだよ》
《それをいつでも倒せそうな社畜魔王最強!!》
《でもつまらんって言っても一体何をするんだ?》
《それな》
「リスナーはもっと派手なのが見たいのであろう?」
《うん》
《うん》
《もち》
《そりゃあ……ね?》
《見たくないわけないじゃないですか!!》
《めちゃくちゃみたい》
「うむうむ、リスナーならそう言うと思ったぞ。だから今から我はコメント欄でどんな風に倒してほしいかを募集する。そして我の独断と偏見にて選出し、それを実行してみせよう」
《ええ!?》
《そんな事しても大丈夫なんすか!?》
《俺は極大魔術希望》
《俺は素手での力比べ希望》
《お前はもう◯んでいる――をやってほしい》
《お前はもう◯んでいるww 俺も見たいww》
《俺は魔術ブッパして欲しい》
《俺は片手片足、回避禁止、武器も魔術も禁止で戦って欲しい》
《いや流石にそれはダメだろ》
《社畜魔王アンチか?》
《幾ら何でもそれはダメ》
《死ねって言ってるようなもんじゃん》
《おい、誰かコイツ通報しろ》
「……いや、素晴らしい案だ」
《は!?》
《何いってんのこの人!?》
《マジでやるのか!?》
《流石に止めといた方が良いと思うぞ》
《だってあんなの何も出来ないじゃん》
《通報しとこうか?》
《流石に心配だぞ?》
どうやら我のリスナーは思ったよりも良い奴ららしい。
確かに片手片足、回避禁止、武器も魔術も禁止は相当に辛いと思う。
だが、異世界で何十年と生き抜いてきた我にとってはこの程度どうってこと無い。
「むしろ1番盛り上がりそうだな。後は……お前はもう死んでいるの案も採用するとしよう。今から我はこの2つでやつを殺すぞ」
《2つ同時にだと……?》
《あの状態で伝説のあの言葉を使えるのか!?》
《やべぇ……心配なのは確かなんだけど、楽しみが勝ってしまう》
《俺もww》
《それなww》
《一体どうやって倒すんだろうな?》
《無理せず頑張って下さい》
「では―――
我は片足立ちとなってミノタウロスからある程度近くまで移動し、片足で思いっ切り地面を踏みしめて瞬きも終わらぬ内にミノタウロスの懐に入る。
そして片手を手刀の形にして、バトルアックスを持っている手を綺麗に切り裂く。
死ぬ間際に反撃されては困るので、ついでに反対の手も切り落としておこう。
その時間僅か0.03秒。
よし、次はいよいよもう1つの案を実行せねば。
我は片足に筋肉が壊れてしまうほどの力を込めて踏み込むと地面が陥没する。
そこから一気に力を開放するかのように地面を蹴って圧倒的な速度でミノタウロスを通り過ぎる。
「……ふぅ、これで完了だ」
《え?》
《あれ?》
《何かいつの間にかミノタウロスの後ろに居るんだが?》
《ん? 何があった?》
《おい、ミノタウロスも分かっていないようだぞ》
《と言うか社畜魔王見失って探してるやん》
《一体何したんだよ》
「まぁ少し見ていろ。―――おい、そこの牛頭、我はこっちだ」
我の声に反応したミノタウロスが此方を向き、攻撃しようと歩き出そうとした瞬間―――
「お前はもう……死んでいる」
ズズズッ―――ドスンッ!!
ミノタウロスの両腕がポトリと地面に落ち、胴体が腰からズレてゆっくりと上半身と下半身が分かれていき、ミノタウロスは地面に崩れ落ちた。
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
リスナーたちがあまりも出来事に固まっているらしく、コメント欄で言葉が消えてしまった。
どうやら我の倒し方は相当インパクトがあったらしい。
「あー一応採用した案で倒してみたが……どうであっただろうか?」
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
《……》
うむ、相当我はやり過ぎたらしいな。
次からはもう少し自重せねば。
「…………我の初配信はここまでにしようと思う……。我の配信を見てくれたリスナーには感謝を。また見たいと思ったらチャンネル登録宜しく頼む」
我は一向に言葉が表示されず、《……》しか表示されないコメント欄と、物凄い速度で同接6万人を突破しているのを見ながら配信を切った。
—————————————————————————
フォローと☆よろしくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます