わたしのおうち
「カップ麺、出来たよ」
この家で私がしてあげられる事はとても少ない。そのうちの一つがカップラーメンにお湯を入れてあげること。
「おねぇちゃん、ありがと!」
「熱くなってるから気をつけてね」
この家には、私と弟しかいない。
お父さんはずっとずっと前にいなくなった。お母さんはたまに帰ってくる。いろんなカップラーメンを持って。でも、すぐにいなくなっちゃう。ちゃんとお母さんと会話をしたのはいつだったかな。⋯もう思い出せないや。
「おかあさん、いっちゃったね⋯」
「そうだね⋯。お仕事が忙しいのかな」
「おかあさん、おしこどがんばってるんだね!」
「そうだね⋯」
もちろん、仕事はしてるんだと思う。でも、こんなに帰ってこないなんて、それだけじゃないんじゃないかって思うんだ。
⋯お母さん、私達のこと嫌いになっちゃたのかな?私達、なにか悪いことしちゃったのかな?教えてほしいな。
「おねぇちゃん!おなかへった!」
「じゃあ、ご飯にしようか?」
「うん!ぼく、これたべたいっ!」
「じゃあ、お姉ちゃんにまかせてね」
「うん!おねがい!」
お母さんが持ってきた大量のカップラーメンの中から、弟が選んだのは天ぷらそば。
もういつだったかわからないくらい前、お父さんがいた時に食べた事を思い出した。年越しそばって言ってた。家族全員で同じのを食べたんだ。みんな、おいしいって言ってた。その日だけは夜おそくまで起きてても怒られなかった。⋯⋯またみんなで食べたいな。今度、お母さんがきたら言ってみようかな。
「おねぇちゃん!もういい?」
「うーん、もうそろそろかなぁ」
「はやくたべたいよー」
「はいはい。天ぷらは半分こにするよ」
「うん!はんぶん!おねぇちゃんといっしょ!」
「うん。一緒ね。じゃあ、先に食べていいよ」
「うん!」
弟はゆっくり冷ましながら、食べていく。嬉しそうな顔をしている。この時間は私にとっても嬉しくなる。
いつも食べきれなくて残してしまう。その残ったカップ麺を私が食べる。それがいつものご飯。ちょっとたりない気もするけど、お母さんが帰ってくる前に全部なくなったら大変だから、大切に食べてるんだ。
「おかあさんにもたべてほしいなぁ」
「そうだね。一緒に食べたいね」
「うん!」
「今度お母さんにいってみようか?」
「そうする!」
弟はとてもニコニコしている。嬉しそうだ。でも、そうなったら私もとても嬉しい。お母さん、早く会いたいな。いつ帰ってきてくれるのかな。
ずっと待ってたら、知らない人が何回か家にきた。難しそうな事を言ってたし、お母さんとの大事な約束があるから、二人でお家で待ってたんだ。
お母さんが帰ってきた時にそのことを言ったら、少し機嫌が悪くなったけど、約束を守ってるって言ったんだ。そしたら、またたくさんのカップラーメンを置いていってくれた。その中にまた、天ぷらそばがあった。
やっぱり時間がないみたいで、一緒に食べる事は出来なかった。すごく残念だった。次は食べれるかな?どうかな?弟もすごく楽しみにしてるんだよ。
お母さん。私達、いい子にして待ってるよ。前みたいに皆で食べたいよ⋯。
お母さんにカップラーメン作ってあげたいな。⋯⋯作ってあげたいな。
お母さん、お母さん、お母さん⋯。
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