闇映え
食べられなかったスコーンを紙袋に入れてもらい、駅に向かうと人溜まり。救急車、警察と異様な緊張感。掻き分け前に出ると腹部から血を流した駅員が運ばれていくのが見えた。
記者とバレたくないため、胸ポケットにカメラを組み込んだ万年筆。警察に話しかけるも答えてくれず。諦め離れると不意に駅員に呼び止められる。
「
中性より少し低めの声。帽子を深く被り、顔を見られたくないのかツバを摘まむ。続けて――。
「朝の死亡者の件とついさっきの情報は送ったので記事書けますよね」
彼の言葉と同時にスマホが震え、目を向けるSNSにコメント。開くと『トレイ』と記され、人身事故と刺殺事件の詳しい詳細。
「駅員を刺したのは男二人。一人は前、もう一人は後ろ。人が多いこの時間帯にしては大胆な犯行。不思議なことに凶器が残ってはいません。やり手だと思います」
薄く笑い「忘れ物ですよ」と茶封筒。受け取り中身を見るとコメントには書かれていない傷や現場の状況。黒服の男が写った事故の瞬間を捉えた写真。
痛みに顔を歪ませる駅員と笑いながら刺す男二人。ナイフを引き抜いた写真もあり、噴き出す血と景色が重なり赤く染まった光景に目を奪われる。撮る際に赤いフィルムを被せたような自然な赤。たまたま血が薄く張ったのだろう。その場に居なければ撮れない臨場感溢れる写真。
「タイミング逃したと思ってたんですが、カメラを仕込んだ鞄が珍しくお仕事してくれました」
さらに漁ると事故後の写真。血だらけのホーム、血飛沫で汚れたコンクリート。ルビーのようにキラキラと照明で輝く赤い点。新鮮な血溜まりはそれ以上に美しかった。
見てもないのに脳裏にフワッと情景が浮かぶ。血の臭い、悲鳴、腹部に鋭い激痛。写真が俺を感化させたのか、妙な感覚に目を逸らす。
「他にもありますよ。黒い袋ありません?」
言われるがまま袋を手に取ると、バイクに乗った男性の頭部が跳ね飛ぶ写真。照明を複数箇所から当て、赤い血に光を纏わせ花弁のように散った一枚。一瞬の出来事だったのだろう。真剣な顔とは裏腹に首から血が噴き出す姿は生と死の狭間。
二枚目はデザインナイフで皮膚を紙に例え切り取ったバラの切り
俺の写真とレベルが全然違った。
「これは?」
男に問いかけ正面を向くも姿がない。だが、背後にピッタリとくっつく気配と殺気に背筋が凍る。
「(低い声)貴方の写真はまだ可愛い。それはガチ勢の写真です。こういうの撮りたくないですか? そんな貴方に責任者からプレゼントです」
素早く振り向くも彼の姿はない。スマホが震え、目を向けると見知らぬリンク。恐る恐るタップすると黒い画面に逆さ十字架と荊。黒に隠れる赤い文字。『闇映え』と書かれていた。
バックしようにも消せず。強制的に登録画面に飛ばされ、ユーザー名等の情報を登録すると画面にズラリと並ぶ殺害写真。これは【殺し専門の写真・動画・SNS】を扱うアプリだった。
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