MISSION:47 淑女

 さて、今日はダンジョンに行く予定だけど、身も心も自由なフーちゃんにお伺いを立ててみる。


≪おはようございます、スー様。本日のご予定は?≫

「プーッ、変、するぅ、きゃきゃきゃ、ッヒ、ダメェ~」

「フーちゃんの笑いのツボが分からんわ」

≪僕も≫


 笑い転げてる。もうちょっと煽ってみよう。


≪おやめくださいスー様。そのお姿でそのような嘆かわしい恰好など! 淑女足り得ませんぞ!≫

「ブッ、っく……ぅぁひゃひゃきゃきゃきゃッ、や、やめ、ッポ、ちゃきゃきゃ」

「ちょ、やめたげんさいや、ポーちゃんん」


 軍服姿でうつ伏せで、「へ」の字になってんの。ぐひぃとか言いながら、床を叩いてるよ。カーッチョワル~イ。


≪ゴメンゴメン、フーちゃん落ち着いて欲しい≫

「アハハハ、自分でやっといてからにぃ」

≪文字読まなきゃいいのにー≫

「そういやぁ無意識のうちに読んじょるわ」


 もしかして腕輪のメッセージウィンドウじゃないほうがいいかな? 戦闘中とか見辛いよね。漫画みたいに頭部へ装着して、目の所にかぶせたウィンドウに表示。なーんて方法じゃ読めないだろうし。どんなのがいいのかな?

 ふたりに聞いてみた。


「ん~ンッン、問題、ないする」

「ウチもじゃわ。今のままでえよ。むしろ顔の近くにあったら、視認性が悪ぅなるけんね」

≪そっか、じゃあこのままで≫


 チョットふざけたけど予定通りダンジョンに向かう僕たち。街道の上空を飛んでると、チラホラ馬車が走ってるね。建材なり食糧なり運んでんのかな。

 しばらく拠点には行ってないし、様子を見ることにした。


 トンカントンカンと音が響く拠点は、もう町っぽくなってるね。町っぽいのは建造物が石材だからかなあ。建築、宿泊、食事、冒険者ギルド、商業ギルド。この5つが動いてるみたい。商業ギルドは結局、王都経由になるような気がするんだけど必要なのかなあ?


 僕らは冒険者ギルドに寄って、どんな状況なのか聞いてみることにした。王様が言うにはもうだいたいOKらしいけど。


「教えてくれたっていいだろお?」

「ですから、我々も、まだ知らされていないんです! 言葉、ワカリマスカァ!?」


 顔を見合わせる僕ら。もう冒険者が来てんのかあ。気が早いね。しかもシツコイみたいで、受付のお姉さんがガチギレしそうになってるじゃん。


「ちょいえですかねえ? ギルマスと話したいんじゃけどー」

「あーもう、あーもおお! あ、ごめんなさいね、お嬢ちゃん。今はダンジョン開きに向けて、みんな忙しいんですからダメですよ。お知らせされますので、王都でお待ちくださいね」

「ウチがダンジョンマスターじゃ。オープンに向けての話をしたいんよ」

「なに言ってんだ? ガキンチョが割り込んでんじゃねェ」


 と言われてワワンパァが突き飛ばされた。

 あ、ヤバイ。アグレッシブでバイオレンスな女の子にそんなことしたら、よろしくない未来がっ!


「ちょお、邪魔せんといてぇや。ダンジョンオープンは、お兄さんらにも大事なことじゃろうが」

「ォゴッ!?」


 あぁ、やっぱり。

 うつってるよ? キンタマ殴打がワワンパァにもウツッテルヨ?


≪男子の大事なまるなのにー≫

「うるさい、睾丸殴打、黙るするぅ~。簡単」

「エェエェエ……ダンジョンマスター? え? 睾丸、黙る? エッ?」

≪フーちゃん、あの王様のワッペン出せば早いんじゃない?≫

「おお、それじゃ、フーちゃん!」

「ん。これぇー、見るする。マスター呼ぶするー」


 ビクンって跳ねた受付のお姉さんに、待合室まで通された。


≪ダンジョンマスターってばらしていいの?≫

「え、なんかマズイんかね?」

「んー……マズイ、ない?」

≪あ、いや、ワワンパァが狙われるんじゃ?≫

「あ、マズかったかも……ダミーコア壊されたらもったいないけんねえ。まあ返り討ちにすりゃあえよ」

「ン。簡単」


 武闘派なので簡単みたい。

 アレェ? 僕がオカシイのかなあ? エェ? キンタマ殴打で?

 3分くらいしてギルマスと思しきオジサンが入って来た。


「お待たせ。ダンジョン開きについて話があるって?」

「ほうなんです。王様の話じゃ、ウチのタイミングでうちょりましたけど、冒険者ギルドの都合も聞いといたほうが良え思うて」

「ああ、それはありがたい。バタバタしちゃっててね。5日ほど待ってもらえると助かるよ」


 今日明日でギルド職員も揃うらしく、そうしたら事務処理もすぐに終わるだろうってことみたい。気が早いパーティは何組か来てて、しつこくダンジョン開きのタイミングを聞いてるそうだ。


≪それは優秀ってことなのかなあ? だって始まってないけど、そろそろっていう確信があって来てるんだろうし。機を見るに敏というか≫

「おー、ちゃんと情報を得ちょるゆうことかあ」

「うん、そうだね。物資の量や種類で判断して、しっかりと聞き込みもしてたんだろう」


 だからキンタマ殴打は、許してあげて欲しいとお願いされた。僕もそう思う。でもワワンパァの攻撃だから、飽きるまでの連打じゃないしダイジョブダイジョブ。

 ギルマスと軽く意見交換してオープン日を決めた。


「ほんじゃあ余裕をもってオープンを迎えられるように、10日後にしときますけん」

「了解だ。本部に連絡を入れておくよ」

「じゃあ行くするー」

「じゃね。ウチも新型に乗り換えんといけんし」

≪失礼しまーす≫


 では僕らはダンジョンに行きますか。


≪さっきの冒険者が付いて来てるね。斥候の人なのかな?≫

「ダンジョンの様子を見たいんじゃろうか?」

「見る、いする?」

「問題ないんじゃけど、んー……入れんけど見てくー?」


 冒険者に声をかけるワワンパァ。バレてたのか、とバツが悪そうに出てきた。


「いいのか?」

「うん。オープン日も10日後って決まったけえ教えとくわ」

「おお、ありがとうな! しかしマジでダンジョンマスターなのか……」


 見た目は幼女だしね。不思議に思っても仕方ない。

 でも今見たからって出し抜けないと思うよ。余裕をもってのオープンってことは、冒険者たちにも余裕ができるってことだしね。


 岩場に手をかざすワワンパァ。しかぁし、コレはただのポーズだね。本体が操作するはずだし。

 つまり──コレは隣にいる冒険者に対し、カッコ付けるためにやっているのだ!


 ズゴゴゴと偽装されていた入り口が現れていく。馬車4台分くらいの幅で地面が陥没しながら坂道ができて、地下2階ほど高さになると石柱の立ち並ぶ広場と共に、正面へあの神秘的な古代神殿の入り口が形成された。


≪おおー≫「すげぇな!」

「じゃろじゃろ!」

「パァちゃん、自慢げー、フフッ、カワイイ」

「勇んで死なんようにしてぇよ! じゃあね」

「おう!」


 僕らは入り口を通る。振り返るとバイーンて弾かれてる冒険者がいた。


「やる思うたわ」


 頭をカキカキする冒険者に手を振って、僕らはコアルームへのショートカット部屋に向かう。コの字型に曲がる、なんでもないただの短い通路の途中で、ワワンパァが教えてくれた。


「ここじゃ。この場所を覚えといて」


 内側の壁の左下を起点に、タイルの数が右に4、上に2の場所に魔力を流すと小さい入り口が開いた。子供用の入り口って感じ。隠しエレベーター入り口の開閉音は、鳴らないように改良したみたいだね。


「場所がバレてウチらじゃない人が魔力流したら、落とし穴なんよー」


 おっと、しかもトラップ付きにアップグレードだ。魔力を登録してない人は、どっちにしても入れないそうだけど。

 落とし穴の中にはクッサイ汁が溜まってるそうだ。人はもちろん、魔物にも忌避されるようなクゥゥゥッサイ汁。1日は取れないんだって。


 ヒドイ。


「上手、使う、する。マッピング」

「おっ? フーちゃん正解~」

≪おおっ、スゴイ! 罠を使ってダンジョン探索を楽にするのかあ。ワワンパァも色々考えてるんだねえ≫

「ほ、ほうなんよぉ」


 おや? ワワンパァの様子が……。

 ジーッと見る僕。

 フーちゃんも参戦。

 ジーッと見る。


「エヘヘ、アーさんに教えてもろうた」


 ワワンパァが考えたと思ったらスゴイってなるけど、アーさんが考えたってなるとさすがアンデッド、ヒドイってなるのナーンデダ?

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次回≪MISSION:48 毒≫に、ヘッドオン!

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