MISSION:45 帰還

 祭りの翌朝、僕らは帰ることにした。


「では翁、ダンジョンのことは頼む」

「おう!」

「帰るする」

「また来いや、スー家のぉ!」

「分かるしたー、バイバイ」


 まずはリドゥリーに辺境伯をお届けだ。眼下に見える河を眺めながら、辺境伯が言葉を漏らす。


「貨客船を増やす必要があるかの」

「お船?」

「ダンジョン特需が生まれますのでな」

「人、いっぱい来るする?」

「ええ、チヒの冒険者ギルドから全国に通達がありますので」

「儲かる、っちゅうことですね!」

「その通り!」


 ダンジョンがあれば人が増える。人が増えればダンジョンも成長する。その結果、得られるトレジャーも豪華になっていく。

 まあ、もちろんい物を得るには、強い魔物を倒す必要があるけどね。でも討伐可能になるということは、冒険者が強くなるということ。

 目指せトリプルスターってことですな。チヒにはシングルもいなかったっぽいし。


 ワワンパァダンジョンの基本構造は、第1ステージに迷宮型を置いて、その先に資源を獲得できるステージを配置していくみたい。第1ステージの迷宮の階層が深くなるにつれて難易度は上がるけど、得られるものが貴重になっていく。


 例えば、1層目にくっ付いてるステージで得られるのが銅鉱石だとしたら、2層目にくっ付いてるステージでは鉄鉱石、さらに深い階層ならレアメタル、みたいな感じだね。


 だから王都の側にあるメインダンジョンのほうも、第1ステージは迷宮型に変更したってさ。

 新人でも稼げるように、第1ステージの1層目、そこは低難易度の魔物や罠を配置してる。


 ダンジョンの入り口は、あの神秘的な古代神殿風になるはずだ。きっと冒険者がいっぱい来てくれるでしょう。冒険が始まりそうだもんね!


≪ダンジョン開店が楽しみだなー、といったところで到着致しました。お疲れさまでした。お忘れ物のございませんよう、お気を付けください。本日はエルヴン航空をご利用いただき、誠にありがとうございました≫

「ポーちゃん、なんねえそりゃ」

≪ん? 僕の世界ではこんな感じのアナウンスが流れるよ≫

「空の旅が一般的であるのか?」

≪そうですね。むしろ船は主に貨物かなあ。近距離だともちろん客船も現役ですけどね≫

「魔物がおらぬ。そうなると人は空にすらも上がるのだな」


 憧れるように青空を眺める辺境伯。


≪言っておきますけど僕は旅客機にはなりませんからね≫

「ワハハ、無理は言わぬよ」

≪でも空中要塞ができたら招待しますよ!≫

「では楽しみにしておこう」


 でも問題は、空中要塞となると空力で飛ぶわけにはいかない、ってトコなんだよね。だからワワンパァダンジョンの成長が、楽しみってことになる。解決策はアレしかないと思うのさ。


 浮遊石! ワワンパァにおねだりするしかないんじゃあぁぁうぁうあぅ。


「姉上、今回は助かった」

「ん。いする。ドラゴン、美味しいあるした!」

「フフフ、であるな」

≪ここにも連絡用の僕を残しておきますんで、なにかあったら遠慮なく≫

「うむ、頼もう」

「じゃあ、ウチんとこに帰ろうかね」

「そうするー。ルト、バイバイ~」

「ではまた。姉上もご健勝で」

≪これにて失礼します。ジアッロ1 テイクオフ!≫


 でもすぐに僕だけリドゥリーに戻って来た。お肉渡すの忘れてたんで。

 まずは王城に行って報告会になるね。テァナ湖の街は書簡渡す時に見たので、寄らずに帰ることにする。湖綺麗だなーくらいで特に特徴はなかったし。大きな穀倉地帯が広がってて、重要な街ってのは分かる。残念ながら今はもう刈り入れが終わってて、黄金色の麦畑は見れなかったしさ。


 大きな街道が北西方面と南西、そして北へと伸びてる。僕が初めて立ち寄った、南門前睾丸殴打事件のあった商業都市は、テァナ湖の街からは北西にあるよ。


「速い、飛ぶする。お昼、城、食べるするー」

≪オッケー。王様に連絡入れとくよ≫

「ほんならウチはフーちゃんに運んでもらうわ」

「分るしたー」


 ワワンパァの飛行システムはジェットパックだから、僕らの巡航速度辺りまでしか出ないんだよね。いや、ジェットパックなのに時速200~300Km出るのは凄いんだけど。


 でもこれ以上の速度を出すなら、ドール自体が変形して飛行機にならないと無理だろうねえ。すんごいロマンがあるけどそれはさすがに無茶だと思う。


 フーちゃんの飛行システムはよく分かんない。風の精霊さんって頼んでないし、本気だともの凄い速いからさあ、たぶん気体の精霊王でカッチョイイおぼろたる始まりの王が運んでるんだと思うんだけど……。こっちも唱えてないからねえ。


≪フーちゃんはどうやって飛んでんの?≫

「始まりの王~」

「ほんじゃけど呪文唱えとらんで?」

『んふふ~、以心伝心なんだべさ。おっかあから逃げでだら自然ど覚えたんだぁ』

≪だってさ。うーむスゴイィ≫


 フーちゃんは気付いてないかもだけど、精霊王がなにかしらのサインを受け取ってるのかもね。言葉にしなくても自由自在に飛んでるんだし。視線の動きとか魔力の動きとかでさ。


「本日、フィアフィア航空、ご利用お忘れありがとうましたー」

「フッヒっ、フーちゃん、ご利用忘れとるんじゃけどっ」

≪フーちゃんンンッ、チョット足りてないよー≫

「惜しい、あるしたっ!」


 かわいいいきものっ。


 そんなカワイイ生き物に運んでもらったワワンパァは、超ご満悦だ。ニヨニヨしてて、ワワンパァもかわいいいきものになってる。


「少々お付き合い頂きますね、ワワンパァ様」

「え? ウチ? あ、ハイ……ん?」


 そしてどこからともなく現れた、エリヴィラ様付きのメイドさんに連れ去られた。


≪なんだろうねー≫

「ねー」


 僕らは王様んところだね。エアタンカーにはドラゴン肉100Kgを厨房に持って行ってもらう。


「戻られたようだな姉上」

「帰るしたー」

≪観光に行ったら色々巻き込まれました≫

「うむ。しかし新たなダンジョンを傘下にできたことは僥倖である」


 棚からぼた餅とは正にこのことだね。

 だいたいは報告済みだけど、ラーハルト辺境伯とダズ爺からの書簡と、お土産のアンチポイズンのネックレスを渡す


「おお、ありがとう。有効利用させてもらおう。ふむ、ハルトのヤツもダズ翁も壮健でなにより」


 確認していく王様。うむ、と頷いてキンタマ殴打される先々王の、ジオラマセットに許可を出す。


い、あるする~?」

「女好きなのは周知の事実。人を笑わせるのも好きであったしな」


 知られていないコロコロパーティの軌跡が分かるのは、いいことだって許可をくれた。真面目な顔をして王様が教えてくれる。


「滅びの魔人は、正に世界の危機であったのだ」


 西大陸が滅びかけたらしい。最終的に南西にある大陸に追い詰めて、激しく戦った結果、永久凍土の大地になったそうだよ。


「ばっちゃま、やり過ぎ、言うしてた」

「なにっ!? あの場所が不毛の大地となったのは……まさかコロコロ殿の?」

「アッ、な、内緒あるした! リオ、内緒、シーッ!」

「遅いわ!」

≪ソレ、王様にだけは言っちゃあダメなヤツだと思うよ? フーちゃん……≫

「あぁあぁぁぁあぁ、内緒する! ばっちゃま、内緒する、願うするぅ」


 お婆ちゃんには内緒にしてと、あばばばって慌ててるフーちゃん。お婆ちゃんに内緒って言われてたけど、つい言っちゃったみたいだ。

 王様の言う通り、もう遅いよー。


「はぁ……過ぎたことである。さらに我ら人族ではどうにもならんわ」


 しかも人を寄せ付けない永久凍土の地なので、ソコにはなにかあると思わせる力が働いちゃうみたい。


「世界樹の所在が、あの地だと思われておるのが不幸中の幸いか。フン、邪人共も釣られておることだろうよ」

「ン。いこと。ばっちゃま、許し、得るした」


 フーちゃん、アウトなんです。


「このことはフィギュアにせぬよう、ダズ翁には伝えておくか」

「陛下!」


 バァーン! エリヴィラ様の登場である。なんかもうワヤクチャだなあ。

 王様んちなのに。

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次回≪MISSION:46 9年≫に、ヘッドオン!

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