MISSION:43 秘密
「それで? どういった要件なのかしら、えーっとお名前は?」
「コロロの森のフィアフィアスー」
「エッ!? あっ、ハイッ。ス、スー家の!? エエエエエッ!?!?!?」
ビシィっと気を付けするギルマス。フーちゃんはスー家とか気にしないでと言ってるね。
「本当に? いいの? うわぁ、感激~」
「ばっちゃま、スゴイ。私、普通~」
フーちゃんが普通かどうかは、さて置いて。
ギルマスがフーちゃんの手を握って激しく振りながら、キャッキャと騒ぐもんだから冒険者たちもザワッてしてる。
そしてフーちゃんちは、エルフの中でも超有名人家族っぽいな。ほら、アレだよ、ダジャレでできた伝説のコロコロスーさんち。
「あの、ギルマス?」
「ハッ! こ、こほん。貴方たちも聞いたことがあるでしょう? コロコロ様のお話を」
そう言うギルマスに、そりゃあもちろん超有名じゃんって返す冒険者たち。
「先々王、ダズ爺、そしてコロコロのパーティの話」
「なんとお孫さんでしたー! パチパチパチ~」
「ばっちゃま、有名~」
おぉ~と拍手されてクネクネと嬉しそうなフーちゃん。いやいや、いやいやいやいや、なんかダズ爺が混じってるんですけど!
え? マジ? 生ける伝説の仲間なのかよダズGィィィッ!
ダズ爺のGはグレートのG!
「ダズ爺も伝説の人じゃったんじゃねえ」
≪驚きの事実だよね。全力全開趣味男な感じなのに≫
「その言い方、やっすい感じになるけえ止めたげんさいやぁ」
なんで生ける伝説になったのか、そのうち聞いてみよう。
「ところでどんな用でいらっしゃったのかしら?」
「ダンジョン、処理、終わるした。素材、渡すする、来たー」
「ダンジョン? どこの? エッ!? ここ? チヒ山の!? もう終わらせたの……さ、さすがスー家」
「違うする。ポーちゃん、パァちゃん、終わるさせるしたっ」
≪3人で、だね≫
経緯を詳しく説明した。
「スー家と、ダンジョンマスターと、人造カテゴリーオーバーで稀人のスライム? 無茶苦茶なパーティね」
とりあえず素材を出してってことなので、エアタンカーを表に着陸させて、みんなに手伝ってもらいながら運び入れた。
素材を確認する職員や、ギルマスの表情が険しくなっていく。
「マスター、これ……」
「ええ。相当マズイわよね、これ」
まあ、壊滅する可能性があったもんね。街が。
「伝説になっていくところを見てる気分だわ。街を救ってくれてありがとう!」
≪魔物、いっぱい、嬉しいあるするー≫
「あー、ポーちゃん、言う、された~」
≪フーちゃんの真似~≫
「ほういやあギルマスは普通にしゃべれるんじゃねえ」
あ、ソレ、僕も思った。やっぱ言語の習得って難しいしさ、時間が掛かるから世界樹の森を出て、ゆっくり覚えてんじゃないかなーって。
「里で覚えるわよ? スー家、いえ、フーちゃんはサボったようね」
≪おやぁ?≫
フーちゃんを見ると顔をソラシッした。
覗き込む。
ソラシッする。
さらにみんなで覗き込む。
「エ、エヘェ、勉強イヤあるする……逃げるした」
「普通、教師からは逃げられないわよ……」
『先生はおっかあだったんだべ。オラ、おっかあの癖ぁ知り尽くしてんだー』
そんで逃げる技が昇華していって、高速ホバー移動になっていったらしい。なにやってんだか。
フーちゃんのしょうもない秘密が暴かれてしまった。
「でも、ご飯、お肉ない、なるした……お野菜、だけ、なるしたぁ」
お母さんは当然のように、フーちゃんの弱点を知っているみたい。にっぐぁぁい野菜も多かったんだろう。きっと。
肉が欲しい? ならば勉強しなさいってことだね。フーちゃんは調理できないし。
「それでこの喋り方になったんじゃねえ」
≪カワイイから、このままでいいとさえ思ってる僕≫
「ウチもそれ分かるわ。若干しかめっ面で考えて、急にニコッてなるところなんか、そりゃあもう……もう……キューンってなるじゃろ?」
≪なるなる! 最高ぅっ!≫
「も、もーっ! 照れる、するー!」
ペチンペチン叩かれた。
「仲いいわねえ。それで料金のことなんだけど、この量だとすぐには出せないから数日待ってもらえるかしら」
≪いや、僕らには不要です。あとでダズ爺から指示が出るはずなんで、保管しておいてください≫
「あら、そうなの? 分かったわ」
で、せっかく来たんだから、冒険者に訓練を付けて欲しいと頼まれた。今日の予定はもう終わったので、全然問題ないってことで──
「次、来るするー」
──冒険者をボコるフーちゃんであった。いや、まあ僕とワワンパァも千切っては投げムーブしてんだけど。
フーちゃんは剣技のみ。僕は対空戦闘の練習をしてもらう。野外訓練場だったし。ワワンパァは対サル系の練習してんのかな? ジェットパックの縦横無尽な起動で、冒険者を翻弄しながら2本の斧でベシィしてる。
「フーちゃんだけじゃなく貴方たちも凄いのねえ」
≪まあ、異世界の知識が僕にはあるので、それをワワンパァの装備に使ってたりします≫
「だいたいの戦闘力が分かったわ。この街は邪人に狙われとったし、対人訓練になるように人型多めのダンジョンにしようかねえ。また来るかもしれんじゃろ?」
≪オッケー。ダズ爺とアーさんに連絡しとくよ≫
「まあ細かいとこは、ダズ爺とナターリャさんとアーさんで詰めてくれりゃあ
「ええ、そうね。了解したわ」
アーさんはダンマスじゃなく支店長なので、外出可能らしい。ダンジョンの守りは部長のレッドドラゴンがいたら、ほとんど問題ないだろうしね。
≪ハイ! ハイ! 全く関係ないんですけどシツモーン≫
「はい、ポヨポヨ君」
乗っかってくれるナターリャさん。いい人。眼鏡クイッしてくれたら、なおグッドだった。
≪フーちゃんのお婆ちゃんとかフーちゃんみたいな名前の人って、もしかして少ないんですか? ナターリャさんは普通な感じの名前だし≫
「そうねえ。私が存じ上げてるのはコロコロさん、シナシナさん、あとはフーちゃんね」
「フーちゃんは他に知っちょる人、おるん?」
「知る、ないある。ばっちゃま、父さま、私」
≪なるほど。シナシナスーさんってことは死なすってヤツかあ。やっぱ僕の同郷が名付けの元になってるねえ≫
コロロの森が、なんかカワイソウな感じの里じゃなくて良かったよ。だって被害者は3人だし。フーちゃんのフィアフィアはカワイイので3人目は僕なんだけど……。
くそう、酒飲んだオッサンの話でも真に受けたか? 過去のエルフさんよぅ。
≪やっぱ僕の名前はジアッロ・ミダースじゃない? ポヨポヨて≫
「ダメー」「ダメじゃー」
≪カッチョイイ名前になりた……い? はて? そういえば元の名前がなんだったのか、全く覚えてないってことに今気付いたっ!≫
「異世界に渡って来た弊害かもしれないわね」
異世界旅行は危ないみたいデス。
「難儀じゃねえ、ポーちゃんは」
「うん」
≪いやあ……異世界に来たワクワクのほうが大きすぎて、気にならなかったあ≫
「ポーちゃん、軽いする」
「ほうじゃね」
ナターリャさんによれば、稀人はだいたいこんな感じらしい。元の僕は死んだっぽいし、異世界だし、前世は気にならない、かなあ。やっぱりワクワクのほうが大きいや。
≪新しい人生だし希望に満ちているのだ!≫
「ウジウジするよりは、よっぽどいいことよ」
デスヨネー。
さて、やることも終わったしホテルに帰るかあ。訓練してたら何気にお昼だしさ。
≪あ、そうだ、ナターリャさんには
フーちゃんとワワンパァのフィギュアだよぉ。スー家のファンっぽかったしね。
「わあっ! 凄い! なによこれ!? いいの? 本当に? もらっていいの!?」
≪どうぞー。ダズ爺もハマったっぽいし、その内この街でも売られると思います≫
SDフィギュアのほうは、日本人なら同郷がいるって分かるはず。だからこの世界に仕込んでおくのだー。フィギュアで骨抜きになったナターリャさんが、いい宣伝をしてくれるんじゃないかな。
フィギュアと大人。
それはダメなヤツだ。
経済的に。
≪さ、戻ろっか≫
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次回≪MISSION:44 機種変更≫に、ヘッドオン!
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