お嬢様高校生、オスになる

Akikan

第1部 出会い

第1話 邂逅

 お嬢様学園と呼ばれる私立桜草学園。 

 2年生紫組 生徒会役所属 模範生

 花堂かどう せい


 ブレザーのスカートを風紀通りの長さで歩く。

 艶やかな黒髪を肩より下に真っ直ぐ伸ばす。

 整った小顔に目立たない鼻と透明な肌。

 必ず他の生徒は静に挨拶を交わす。上級生も下級生も。


「問題が発生しています」


 生徒会室に入るや否や、少し迷いのある細い声が静に向けられた。

 ショートカットに細目に整えた眉。

 漆黒の瞳は弱々しく潤む。

 左の腕章には『生徒会会長』と印字されている。

 会長は椅子に座り、他の生徒会は左右に横2列で立つ。 


「はい、白石会長」


 静は淡々とした口調で白石会長に相槌を打つ。


「野良猫が校舎にいるんです」

「はい、野良猫」

「皆様の要望で野良猫の世話を学園でしたいと」

「はい」

「学園の看板猫として、ホームページに掲載して、ネット動画に上げてはどうかという要望もありました」

「はい」

「花堂さんは、どう思われますか?」


 眉を下げて、静に意見を求める。


「とても良い案だと思います。ですが猫アレルギーの生徒、先生もいるでしょう、猫にかかる費用、去勢手術、場所の確保に先生側が納得しない可能性が多くあります。しかし、看板猫は地域の方々との交流、今後の入学者、生徒の自立性に良い影響があると思います」


 淡々と答えた。


「そう、ですよね。ならこれは生徒会で多数決を取りましょう。他にも色々と問題がありまして、校舎裏の窓ガラスを割った生徒を目撃したそうです。名前も学年も特定しています。でもきっと何か事情があって」

「事情は関係ありません、白石会長。校則違反以前の問題、報告すべきです。生徒の個人的な問題の解決は先生がすることです」

「えぇ、えぇきっとそうですね。すぐに報告書を作りましょう。えーとそれから……――」







「お前本当に会長かっ!?」


 机を思い切り叩き、前のめりになって白石に問い詰めるポニーテールの女子。

 目を大きくさせて、白石を睨む。

 思わず背中を反らし、圧倒されている白石。


「ど、どうしたの、本間ちゃん」

「どうしたの本間ちゃん、じゃないわっ、なんなの、下級生の子にいちいち意見求めてさぁ、白石晴しらいしはる!!」

「はぁい!?」

「3年生先輩、代表模範生、生徒会長、でしょうがっ!」

 

 白石は誤魔化すように目を逸らし、小さく笑う。

 呆れる本間は腕を組み、大きな溜息を吐いた。

 窓から外を見下ろす。

 そこには裏門から帰っていく花堂静の姿。

 先生と生徒に丁寧な会釈をして挨拶している。

 本間は訝し気な表情を浮かべた。


「花堂さんは凄いのよ、ほら私って優柔不断でしょ? だからスパッと言ってくれる花堂さんについ、甘えちゃう」

「はぁ、いいところのお嬢様だっけ? 顔だけ見てりゃ美人で可愛い女の子。でもなーんか心がないんだよなぁー」

「そう? 私、憧れちゃうな」

「白石には無理なこった。まぁいいよ、ほらほら早く駄菓子屋寄って帰ろー」

「えっ駄菓子……あっ寄り道は校則違反なんだから」

「はいはいー」


 だらだらと話しながらフェードアウトしていく……――。




 校舎裏に堂々と居座る大柄で白い虎柄の野良猫がいた。

 屋根がある場所で寝転ぶ白猫の顔をぺろぺろと舐めたあと、学園の外に出ていく。

 大柄な猫は堂々と町を歩き回る。

 他の野良猫は一目散に逃げていった。

 大柄な猫はとある居酒屋に到着。

 開店前、居酒屋の店主は裏口を開けて、紙皿を持って出てきた。


「お、時間ピッタリに来たかジョー、お前の好物やるからなぁ」


 地面に紙皿が置かれる。

 紙皿にはフレークタイプの猫用のエサが盛られていた。

 ジョーと呼ばれた猫は地を這うような鳴き声を上げてフレークを食べ始める。


「ゆっくり食べるんだぞー、明日は手術だからな」


 店主はそう言って裏口から店内に戻って行く。

 黙々と荒々しく食べるジョー。

 途中、誰かが立ち止まった。

 冷たい視線を感じ取ったジョーは鋭い目で誰かを睨んだ。


「野良猫、看板、エサ」


 ブツブツとジョーを見ながら呟いている。

 食事の邪魔をする相手にジョーは唸り、威嚇。


「なんでしょう? 一体どういう意味でしょうか?」


 淡々とした口調のまま近寄ってくる。

 ジョーは下がらない。

 毛を逆立たせ、顔を下に傾け、背中は丸くなる。


『シャー……ウーッ!』

「?」


 どんどん距離を縮めてくる誰かに、ジョーはとうとう飛びかかった。

 鋭い爪を立てた。

 皮膚が裂ける。

 血が思い切り噴く。

 勢いが余り、ジョーは誰かを飛び越え、道路へ。

 路面を削るような摩擦音が耳に届いた。

 どこかを見る余裕もなくかなりの速度で迫った金属とぶつかる衝撃に、視界は、無になる。

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