第2話

...やっと1日が終わった。


帰りの会が終わるこの時間は、クラスメイトと別れる寂しさと、今日もなにも成し遂げられなかった焦燥感にかられる。


「「さようならー!」」


活気を取り戻したように、クラスメイトたちは楽しそうに帰っていく。


「あ、蓮見さん、ちょっといいかな?」


担任の先生が話しかけてきた。


「はい」


「帰りの準備して、職員室来てもらえる?」


「分かりました。」


「じゃあ先生、先に行ってるから。ゆっくりで大丈夫だからね。」



私が帰り支度をしていると、友達が話しかけてきた。


「トワちゃん、なんかやらかしちゃったの?」


「そんなわけないでしょ。...たぶんね。」


「そっかぁ、なんもないといいね!またね!」


「ん。」


友達は、その友人達と3人で帰っていった。


「......」


黙々と、身支度をすませる。




「これでよし...」


筆箱をランドセルに入れ、カチャリとロックを閉める。


ランドセルを背負い、教室をあとにする。

...まだ人は残ってるし、電気は、いいな。



職員室に向かう。

いつもと同じ廊下。

下校ラッシュで溢れかえる廊下


階段を降りる。体力が失われていく。






『職員室』


「...失礼します」


コンコンと2回ノックし、恐る恐る職員室に入る。

担任の先生が、手招きして私を呼ぶ。



先生の席は、職員室のドアから1番近い。


「ごめんね。蓮見さんこないだ、学校休んだでしょう?その日、みんなにテスト返したんだけど、蓮見さんにだけ返せてないの。はい、これ。よくできたわね。」


答案用紙が入ったクリアファイルを受け取った。



「...では。」


「うん、また明日。」


クリアファイルをリュックに入れずに、手に持って職員室を出た。



今日も疲れたな...


そう長くない帰路についた。


私はまた、漠然とした思考を巡らせる。

大したことを考えたことはない...



今日は木曜日だ。


木曜日は、2番目に好きな曜日だ。1番好きなのが金曜日、3番目が水曜日。


水曜日が終わると、1週間の折り返し地点な気がして、心が少し楽になる。


木曜日も同じような理由だ。『明日行けば終わる』という、なんもと私らしい、自堕落な考えである。


金曜日なんて最高だ。誰も私を縛れない。


...ジャネーの法則を知っているだろうか。

昔よりも時間が過ぎるのが早く感じるようになった経験があれば、それはその法則だ。


故に私は、このつらい一週間の繰り返しを、大人なんかよりも何倍も長い時間耐えているのだ。





......





...そんなくだらないことを考えているうちに、家に着いてしまった。


いつもよりも足が重いのは、体力に限界が近づいているからなのか、はたまた他に原因があるのか。

その答えは、玄関を開けてみるとすぐにわかった。




「...ただいま。」


「おかえりなさい、トワ。」


「...」



夕方の4時すぎだと言うのに、夏だからか電気のひとつも付いていない。


台所に立っていたお母さんが、私のところへ歩いてきた。



「先生から連絡があったわ。その手に持ってるのがそれ?」


「...うん、テスト」


「ちょっと貸しなさい。」



お母さんの機嫌が悪い。

...家の外の空気まで悪くするなんて、相当だな。



「国語、100点、算数、100点...」


「......」



わざわざ音読しなくてもいいじゃないか...



「理科100点、社会100点」


「...そんなに取れてたんだ。」


「何?嫌味?」



お母さんが低い声で睨む。

自分に学業の才能がなかったことを、この人はずっと私に当たってくる。



「英語、100点......」


「...あの...」


「......」



お母さんは、下を向き黙り込んだ。

目に光がない。


...いつもこうだ。私が高得点を取ってくる度に、お母さんはいつもこうやって私に無言の圧をかける。



「何言いたいか分かるわよね?」


...知るかよ。



「...ううん...」


私は、首を横にふる。


その態度が、お母さんをさらに怒らせたのか、これ見よがしに、フゥーと深い溜息をついて、私に背を向けて歩いていった。



「......」




私も、そそくさと自分の部屋に戻った。


ふと鏡を見る。


肩の下まで乱雑に伸びた髪、くまのできた無気力な目。

夏なのに乾燥した、不健康なほど白い肌。



「...もう、今日はいいや...」


今日は変に疲れた。寝て、お風呂は明日ズル休みして入ろう。


どうせ夜に、また両親の喧嘩の声に起こされるんだ。



寝心地の悪いベッドに、身体をあずけた。

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