第26話異変
あれから一週間練習を続けた。
パートはみんな完璧に覚えることができていて、詰まることなく演奏できている。
一曲練習を終えて休憩中、「一花ちゃん今日も来てないね」と数音先輩が寂しそうに言った。
ここ最近、一花さんが学校を休み続けていて部活に参加できていないのだ。ラインで連絡しようと思っても未読のまま。
一花さんは作曲とアナウンス担当のため演奏の練習をする必要はないのだが、一人欠けるとすごく寂しい。作曲が間に合うかどうかも心配だ。
文化祭は9月の中旬。8月に入って本格的に練習を始めた矢先、こんなことが起こるとは。
一花さんが戻ってくるまでに完璧にできるようになってないと。
滲む汗を腕で拭いながらひたすら歌い続けた。
「最後4曲目!頑張ろう!」
水筒を蓋を閉めて急いで配置に着いた。口に含んでいたお茶を急いで飲み込む。
「?」
喉に一瞬違和感を感じた。反射的に喉に手を当てた。
「克己く~ん!」
「あ、すみません!」
我に返り急いで配置に着いた。
「あ~暑かったね~!」
朱音先輩が手で顔を仰ぎながら言う。
「ですね~…」
「冬は冬で寒いぞ」
冷静に和人先輩が言う。ヒーターがあったとしても寒いのだろうか…
「ヒーターとか意味ないからね~。厚着してこないと」
数音先輩が一瞬で僕の疑問を解決してくれた。
「マジすか……」
「マジマジ」
「じゃあね~」
朱音先輩がひらひらと手を振る。
「俺もここで」
和人先輩も朱音先輩の後を追っていった。
小さくなっていく先輩たちの背中を見送って数音先輩と一緒に帰ることになった。
気まずい空気が流れる。数音先輩は何やら難しい顔で俯いている。
「ねぇ克己君」
「は、はい」
突然話しかけられたのですぐに返事ができなかった。
「一花ちゃんって、ほんとにただ体調が悪いだけだと思う?」
唐突な質問だった。先生からは風邪と聞いている。
「風邪だって聞いてますけど……」
どうやら僕とは全く違う考えのようだ。
「何か悩みがあったりするんじゃないかな。あんなに元気だった子が何の前触れも無しに学校に来なくなるのって不自然だと思うんだよね」
「なるほど……明日ノート届けに行けるか担任に聞いてみます」
「お願いね」
数音先輩はいままで見たことのない真剣な顔をしていた。
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