第8話 お嬢様の目覚め

お嬢様は夕方ごろに目を覚ました。


「……ううーん……」


 俺達もお疲れのあまりその場で座って寝ていたので、お嬢様の目覚めには気付かなかった。その子の顔立ちは、王室で育ったかのような凛々しい顔だった。白色のロングの髪は、手入れされていて上品だなと分かる。そして水色の瞳に、黄色っぽ肌から俺達と馴染みのある種族の人間だと分かる。穏やかな表情のお嬢様は、腕を伸ばしあくびをしたのちにこちらに気付いたようで……。


「助けていただきありがとうございます」

「いえいえ、お疲れのようでしたから」

「あっ、ドジって胸が彼らにあたってしまったんです……」


(そんな理由で喧嘩になって総てを奪われようと……なんて天然というか、素直に彼女の瞳に恋をしてしまいそうだ)

「そうなんですね」


平然を装いつつも…、実際には驚いている。

ブラストは現在武器屋などを覗いてくると出ていったきりだ。ブラストはボケーっとしてられず動きたがりだからな。ドレスとしては、きらびやかで普通の人なら着ない服であることには変わりない。


「あの……」

「何ですか? 」

「これも縁だと思うので、私を…冒険者パーティに入れてくれませんか? 誰も入れてくれようとしないので」


(展開的にはキターーーーーだな。誰も入れてくれないのは…訳アリなのか分からないが、パーティメンバー探しの手間が省けたと思えばいいか)


「いいよ」

「ありがとうございます」


お嬢様は、笑顔でぺことお辞儀をしたのち、

机の近くにあった料理の見た目を気にせず口にほおばる。


「美味しいですね」

「ここの店主がやってくれたらしくてね」

「ああ、懐かしいな…」


お嬢様は少し遠い目で、空を眺める。

彼方の空に全て消えてしまっている。

何もかもが、遠くに消えてしまったようだ。


「お聞きしますが、名前は? うちはアーシュあともう1人ブラストって仲間がいる。叡智の樹より来た代表者的な感じなんだ」


ミズガルズという言葉に耳を傾けた女性は目を輝かせる。


「えっ、総ての叡智がある場所で有名な…あの場所? 私の憧れだったんです。エエエエエエエ、ちょっと~」


布団をバンと飛ばしお嬢様はこっちに近付く。

だけど、その距離は近くしかもジャンプしていて……、

(あっ衝突不可避だ)


とお嬢様と正面からぶつかった。


「ぐへええ」

「ああ、すいません」


お嬢様は、あわあわと立ち上がろうとしているがドレスが脱げかけている。

(肩のラインが見えてる……。かわいいが今は…理性を保たないとだな)

「その場で動かないほうがいい…あと自分の服見直してくれ」

「……」


 俺は、静かに立ち上がると目を瞑ったままその場を後にした。

お嬢様は自らの肌が露わになりかけなのを見て、誰にも見られないようにそっと布団を被りゴソゴソと着替え始めた。数分後、部屋の外で待ってるとブラストが戻ってくる。そして色々伝えると、ブラストは鼻血を出して何処かへ行った。ブラストは、女子の前では鼻血が出て色々なシーンを台無しにする傾向にある。いつも通り、何処でもいつでも残念な相棒だ。


「入ってきて大丈夫ですよー」


という事なのではいってみると、さわやかなお嬢様のドレス切れ端が床にびりびりに破かれている。そこには、さわやかな青色の肌着の上には皮でできた胸当てを装備し、その上から軽めの素材でできたと思われる軽鎧を付けている。ただ、軽鎧の色は、白色であり武器としては白銀の宝石がはめ込まれていた杖があった。


「あれ、ドレスは? 」

「素材にかえて、鞄に直しました。邪魔だったので」

「思い切ったな」


(いや、そもそも服を素材に戻すって時点で…凄いと思うんだが…)

その時、鼻血が治ったブラストも入ってきて軽くお互いに挨拶した後、

少女は俺たちの前に立ち名乗る。名乗ろうとして口がごもごもとしていて

自ら名前を告げるのがつらいのか。涙をぽつりとこぼし


「私の名前は、メリネア。メリネア・アルシュ。アルシュ王国、最後の姫君です」


 これは目の前で現実を失った少女の眼だなと、顔を見合わせた俺達は。

俺達は、自然とメリネアに近付き3人で抱きしめブラストは少ししてそっと離れる。女子の胸の感覚を得るのは、俺が大人になると決意した時だとか決めてるらしい。

メリネアは嗚咽を漏らして号泣していた。


 安心したのか。それとも…、不安だったのか。


「お嬢様だって事で、誰からも誘われなかったし…色々奪われた」


と呟くメリネア…。心が壊れたのか、それは分からないが。

(胸の鼓動からするに相当苦しかったんだろうな)


「…なんでなんでなんで…みんななったの」

「……」


 無言を貫くブラスト、それだけで共感しているんだなと実感をする。

こいつもまた、色々事情が…いや今はいいか。

(さすがにここは…彼女の嘆きを受け入れる時だな)

と俺自身は静かにメリネアの頭を撫でる。


 アルシュ王国…確かあそこの世界樹は、厄災前の例の小世界樹へ派遣される前に報告で、攻略完了したと聞いた所だったよな。これを聞く限り…街は壊滅状態なんだろう…。あそこに派遣してた彼らから伝令が来ないと、ミズガルズでは騒がれてたしな。ああ、1つ訂正しておくが俺自身との繋がりはない。王国との名前が似てる。それだけの話だ。


 号泣し泣きついてるメリネアの頭を撫でていると、ブラストが男前の一言。


「お前がどういう境遇でここに来たのかは知らねえけど。俺らは、この世界樹を調査する。そして、に来たんだ。メリネアが、パーティに入るならいい。お前の境遇と俺らの境遇が。それにと思うならその。そういうものだろ」

「……」


 奪われたってのは、俺もそうだしブラストもそうだろう。

というか、俺らだけじゃなくてここに住むすべての住民が全員経験してるような気もするが…。まあいいか。メリネアは無言で泣いていた。さて撫でるか。


「命あってこそと出会えた。苦しみをこらえたって意味はない。そんな苦しみ吐き出しちゃって忘れればいいんだ」

「……忘れる事なんてできないよ。脳裏に深く刻まれてるんだもの……」

「って事は、乗り越えてほしい。いわゆるそれ以上のって事だな。任された。それくらいならお安い御用さ」

「本当? 」


と聞くので、俺は大きく頷きつつ


「お前の事を頼りにしてるんだぞ。よろしくな」


 涙を流しつつも少し顔が照っているのメリネアは、大きくなずいた。


「うん」


 暫く、抱きしめっていると。

色々と見計らっていたのか、大量の素材を鞄に詰め込んでヴァレッサが帰ってきた。


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