第9話「魔の手」前編
[原地 洋助]
「罰ゲームじゃないです」
[朝蔵 大空]
「!!」
罰ゲームじゃなかったら何?
[朝蔵 大空]
「……」
とりあえず私は彼の話を聞こうと言う姿勢にする。
[原地 洋助]
「って言うか」
[朝蔵 大空]
「……?」
原地くんが少し口元をニヤつかせたと思ったら……。
[原地 洋助]
「罰ゲームだなんて酷いです……ボク、勇気出して先輩に告白したのに……」
あぁ!
原地くんを泣かせてしまった。
手で顔を覆って、
[朝蔵 大空]
「……!!だよね!ご、ごめん!無神経な事言っちゃって……だから泣かないで?」
[原地 洋助]
「……先輩?」
私は卯月くんと付き合ってるんだから、私が好きなのは卯月くんだけだし。
考えろ、考えろー、私。
この子が出来るだけ傷付かず、私に諦めてくれる方法!
私に対して失望するような事を……。
[朝蔵 大空]
「で、で、でも、私なんか全然ダサいよ?友達とか少ないし、勉強は並だし、運動は超大苦手だし、原地くんみたいな明るくてスポーツ出来そうな男の子とは不釣り合いだと思うなー、てへへ……」
喰らえ!ネガティブ発言〜。
これでちょっとは引いてくれたんじゃない?
[原地 洋助]
「……」
反応無し、まだ足りないか!
[朝蔵 大空]
「わ、私!鼻毛出てても気にしないでそのままにするタイプで……」
今、自分の顔がとても熱い事になっている。
恥ずかしくても、こう言うしか無い!
[原地 洋助]
「そうですか」
[朝蔵 大空]
「それで……それで」
私は干上がる勢いで頭をフル回転しようとしていた。
[原地 洋助]
「分かりました!」
彼は顔を覆っていた手を退かして、輝くような笑顔を見せる。
[朝蔵 大空]
「えっ?」
[原地 洋助]
「もう良いです、聞きたくないです。嘘だって分かりますから!」
最後に言った事以外は本当だけどね。
てか、全然……。
[朝蔵 大空]
「全然泣いてないじゃん!そっちが嘘じゃん!」
さっき泣いてたのは演技だったのね!
一生懸命慰めようとしたのが馬鹿みたい!
[原地 洋助]
「あぁ……あはは!」
呑気に笑ってる……。
[朝蔵 大空]
「なんなの君?」
私は反動で凄く怒れてきたので、そうやって彼の笑顔に対し冷めた反応で返す。
[原地 洋助]
「え?」
[朝蔵 大空]
「……」
もう、付き合ってる人が居ますからって言いたい。
だけど、それは卯月くんが嫌がるみたいだから言えないのがもどかしい。
[朝蔵 大空]
「もう良い?ごめんね」
私はそれだけ言い残して彼の前から強引に去った。
里沙ちゃん達の所に戻ろう、私の居場所はあそこだ。
私の…………居場所?
……。
[原地 洋助]
「……」
[不尾丸 論]
「おーい、大丈夫か?」
その場にひとり取り残された原地の側に、不尾丸が笑みを浮かべながら近付いて来る。
[原地 洋助]
「……見てたの?」
[不尾丸 論]
「まぁ……偶然だよ」
[原地 洋助]
「あぁ、そう」
[不尾丸 論]
「お前さ、その性格でなんで今までアタックしてなかったの?一応、知り合いなんだろう?」
不尾丸がそう尋ねると、原地は深い溜め息を吐いた。
[原地 洋助]
「あの人、おれの事覚えてないかも」
[不尾丸 論]
「えっ、覚えてない?」
[原地 洋助]
「うん、入学式の時だって話し掛けたよ。でも、先輩……」
──数ヶ月前。
[原地 洋助]
『先輩!』
[朝蔵 大空]
『へ?』
[原地 洋助]
『お久し振りです!洋助です!』
[朝蔵 大空]
『えと……』
[永瀬 里沙]
『大空大空大空!やばいやばい!イケメン!イケメン1年生いたー!早く早く!来て見てよー!!』
[朝蔵 大空]
『里沙ちゃん……あ、ごめんね』
[原地 洋助]
『あ……先輩っ……!』
──回想終わり。
[不尾丸 論]
「相手にされてない……」
[原地 洋助]
「ふん」
[不尾丸 論]
「まあまあ、ドンマイ!恋愛より友情、エンジョイしていこーぜ」
不尾丸はそう言って原地に擦り付く。
[原地 洋助]
「暑いのでくっつかないで下さーい」
[不尾丸 論]
「えー、だって足疲れたんだもーん」
[原地 洋助]
「自分の力で歩いて下さーい、ボクは貴方の保護者じゃないので」
[不尾丸 論]
「えーん、ケチ〜」
……。
私は里沙ちゃんを探して元の場所の近くまで戻って来た。
[永瀬 里沙]
「おぉ、大空戻って来た……」
[朝蔵 大空]
「里沙ちゃん!あの子やばいよ!」
[永瀬 里沙]
「原地くん?どうなったの?」
[朝蔵 大空]
「普通に断りました」
だって私は卯月くんと付き合ってるんだもん、ラブラブなんだもん。
早く公認カップルになりたいなー。
[永瀬 里沙]
「ホッ……なんか安心。あの子も人気あるからさぁー」
[朝蔵 大空]
「あの子怖いよ!なんで人気あるのー?」
ああ言うグイグイ攻めて来る感じの子苦手!
[永瀬 里沙]
「えー?凄く良い子じゃない?好青年って感じの……」
もー!皆んな絶対騙されてるよ!
[嫉束 界魔]
「大空ちゃーん!」
[朝蔵 大空]
「!!」
[永瀬 里沙]
「わぁ!何よあんた達!」
気付けば男子達がこちらに続々と集まって来ていた。
里沙ちゃんは横側に逃げ込む。
[刹那 五木]
「告白の返事は?」
[木之本 夏樹]
「ど、どうなったんだよ!?」
[狂沢 蛯斗]
「まさか、OKしてませんよね??」
[巣桜 司]
「大空さーん……」
皆んな興味津々、じゃじゃ馬か。
[永瀬 里沙]
「くーっ、完全にハーレムじゃない。羨ましいわよー、大空〜。目の保養だけど……」
側で指を
何やってんの里沙ちゃん?
[朝蔵 大空]
「いやいや全然知らない子だし断ったよ、多分罰ゲームかなんかの嘘コク、だと思う……」
あーもうほんとになんだったんだろあの原地くんって子。
掴み所の無い子だった。
何度も言うけど私の苦手な部類の子、無駄に賢いような子。
[笹妬 吉鬼]
「なんだ、くだらない」
[嫉束 界魔]
「良かったぁ……」
なんで皆んながそんな安心したみたいな反応をするの……?
[卯月 神]
「……」
そして少し離れた所から見ている卯月くん、今日も冷静だぁ。
私は卯月くんのそんなクールな所が好き!
[文島 秋]
「誰を見ているのかなー?朝蔵ちゃん」
[朝蔵 大空]
「え?あ、えーっと……」
私ったら知らぬ間に卯月くんを見てハート目でも浮かべていたのだろうか。
[卯月 神]
(……はぁ、もう完全にバレてますね、これ。どうしましょうか、何より朝蔵さんが……)
卯月くん!♡(大空の心の声)
[卯月 神]
(僕に夢中すぎる……朝蔵さんにはもっと沢山の人間と恋愛してもらわないといけないのに……)
来年の文化祭までには公認カップルになって、もっと堂々と一緒に文化祭を楽しもうね!卯月くん!
……。
あの文化祭の時から、彼……里沙ちゃんの後輩、原地くんは何かと私と絡んで来るようになった。
[原地 洋助]
「里沙先輩!……大空先輩、おはようございます」
[朝蔵 大空]
「ひっ!」
[永瀬 里沙]
「おはよっ!」
朝だって毎日のようにこうやって挨拶しに来るし。
まあ挨拶自体はとても良い事だけど。
[朝蔵 大空]
「……きゃっ!ごめんなさい」
校舎を歩いていて、私が曲がり角とかを曲がる時も……。
[原地 洋助]
「こちらこそすみません!お怪我は……あっ!大空先輩じゃないですか!偶然ですね!」
彼が居る。
絶対、絶対絶対待ち伏せしてた……。
[不尾丸 論]
「どーも」
たまーに、おまけみたいに隣に付いてくる子も居る。
[朝蔵 大空]
「あ、不尾丸くん?そこ友達だったんだ?」
[不尾丸 論]
「まあ……同じ施設
次の瞬間には原地くんが不尾丸くんに次の言葉を喋らさないように手で口を押えた。
[原地 洋助]
「それは言うな」
原地が大空には聞こえないくらいの声で不尾丸と話す。
[不尾丸 論]
「なんで?」
[原地 洋助]
「……なんかちょっとカッコ悪いから」
[不尾丸 論]
「ひでー……」
[原地 洋助]
「ごめんなさい先輩!こいつの事はどうか気にしないで、ボクとお話しましょ」
[不尾丸 論]
「ひでー……」
[朝蔵 大空]
「ごめん!私もう行くね!」
私は隙をついて逃げる。
[不尾丸 論]
「あら、逃げられたよ?」
[原地 洋助]
「……諦めないよ、先輩」
……。
[原地 洋助]
「〜♪」
[2年女子A]
「あ、見て。原地じゃない?」
[2年女子B]
「ほんとだー原地くんだ」
[2年女子A]
「最近よくこっち来るよね」
[2年女子B]
「里沙に会いに来てるんじゃないの?」
[2年女子A]
「それが違うみたい……」
原地が大空達の教室に顔を出そうとする。
[原地 洋助]
「こんにちはー、大空先輩居ますかー?」
[狂沢 蛯斗]
「ちょっと待ちなさい」
そんな原地に狂沢が声を掛ける。
[原地 洋助]
「……?なんですか?」
[狂沢 蛯斗]
「貴方、原地くんですよね?」
[原地 洋助]
「はい、そうですけど。同じクラスの方ですか?大空先輩居ます?」
[巣桜 司]
(け、喧嘩にならないと良いけど……)
狂沢の横には巣桜が付いている。
[狂沢 蛯斗]
「大空さん達は今御手洗です。用が無いなら帰りなさい」
[原地 洋助]
「え?用ならあるんですけど。おれ……ボク、大空先輩に会いに来たんで!」
原地は悪びれる様子も無く。
[狂沢 蛯斗]
「教室まで来るだなんて……さすがに迷惑だって分からないですか?」
[巣桜 司]
「狂沢くんやめとこーよー……」
耐えきれなくなった巣桜が狂沢を止めに入る。
[狂沢 蛯斗]
「貴方は黙ってて下さい!」
[巣桜 司]
「えーん……」
[原地 洋助]
「迷惑?あはは!先輩、誰だか知らないですけど面白い事言いますねー!大空先輩は、恥ずかしいだけですよ」
[狂沢 蛯斗]
「なかなかおめでたい頭をしていらっしゃるようですが……無いです」
[原地 洋助]
「えー?何故そう言い切れるんですかー?」
[狂沢 蛯斗]
(いちいち人を煽るような喋り方をする人ですね……)
[狂沢 蛯斗]
「大空さんには既に交際相手がいらっしゃるようなので……」
[原地 洋助]
「……彼氏って事?」
[狂沢 蛯斗]
「そう言う事ですね」
[原地 洋助]
「それって誰ですか?」
原地が狂沢に一歩近付いてそう聞く。
[巣桜 司]
「えとー……それは」
[狂沢 蛯斗]
「……多分、彼」
狂沢は顎を使って、原地の視線を別の誰かに向けようとする。
[卯月 神]
「……ぎくっ」
それはこの男、卯月神である。
[原地 洋助]
「……」
[卯月 神]
「……!」
卯月と原地の目が合う。
原地が卯月を若干睨んだ後、卯月の姿を下から上へと品評するかのように見る。
[卯月 神]
(まずい……)
卯月は急いで視線を逸らして窓の方を見る。
[原地 洋助]
「ははっ」
[卯月 神]
(笑われた……)
[狂沢 蛯斗]
「さぁ、もう満足したでしょう?」
[原地 洋助]
「有益な情報をどうもありがとうございます」
そう言い捨てて原地は大空達の教室から離れて去って行った。
[巣桜 司]
「あっさり帰っちゃいましたね……」
[狂沢 蛯斗]
「刹那くん以上に食えない人そうですね」
[巣桜 司]
「狂沢くーん……ああ言う人種に喧嘩を売るのはなかなかリスキー……」
[狂沢 蛯斗]
「ふふん、たかが1年生でしょう?リスクがなんですか、大空さんを原地の魔の手から守りますよ。セコムです」
狂沢の背に大きな炎が燃え上がる。
[巣桜 司]
「ふえぇ……」
つづく……。
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