第13話「エバースプリング」後編

 今は放課後の人気の無い通り。



 そこを私と卯月君ふたりで歩いている。




[卯月 神]

 「どうなっているんですか」




 そ、そう言えば付き合ってる事内緒にしようって事になってるんだった。



 私なんて舞い上がって平気で顔赤くしちゃってたよ!!




[朝蔵 大空]

 「ごめん、なんか……皆雰囲気で気付いちゃったみたいだね?私達がその……付き合ってる事」




 全員ではないが、里沙ちゃんとか、木之本君とか、文島君とかに確実に勘づかれている。



 皆よく見てる。




[卯月 神]

 「ふん、認めなければ良いんです。引き続き、黙ってて下さいね?」




 そう言って卯月君は私に念を押してくる。




[朝蔵 大空]

 「う、うん」




 もーう、里沙ちゃんが変に茶化すからー!



 で、でも卯月君も皆が見てる前で私にあの態度はどうかと思う!



 あんな見るからに特別扱い!!




[朝蔵 大空]

 「きょ、教室ではとりあえず他人……と言う事で」




 せっかくカレカノになったが、こればっかりは仕方無い。



 卯月君、バレたくないんでしょ?




[卯月 神]

 「……そうですね、その方が良いかもしれません」




 そこで卯月君まで寂しそうな顔しないでよ……。



 でも、出来ない事は無いよね?



 他人行儀。



 そう考えると急に胸が苦しくなった。



 うん、出来るよね?きっと出来る。




[卯月 神]

 「じゃあ僕はバイト行って来ます」




 卯月君が道の角で立ち止まる。




[朝蔵 大空]

 「あーそうなんだ……え?」




 今卯月君、バイトって言った?




[朝蔵 大空]

 「ば、バイト?」



[卯月 神]

 「はい」



[朝蔵 大空]

 「えー!?天使なのにバイトするの!?」




 私はびっくりして大きな声が出てしまう。




[卯月 神]

 「声が大きいです」




 私ったら思いっきり『天使』とか言っちゃった……。




[朝蔵 大空]

 「あっ、ごめん……卯月君もバイトとかするんだね」




 バイト。



生まれてこの方、私した事無い。




[卯月 神]

 「まあ……お金も、無いと困るので。そりゃバイトぐらいしますよ」



[朝蔵 大空]

 「それはそうだね……」




 天使でさえバイトしてる!!



 私はいまだにお母さんのスネかじってるよ!




[卯月 神]

 「じゃ」




 卯月君はそう言って道の角を曲がって行ってしまった。



 卯月君、どこでなんのバイトしてるんだろ?



 そう考えてる内に私は卯月君を見失ってしまった。



 ……。



[狂沢&巣桜]

 「「大空さん!」」



[朝蔵 大空]

 「わわっ……ど、どうしたの?ふたりして」




 朝のホームルームの前の時間、ふたりが急に私に話し掛けて来た。




[狂沢 蛯斗]

 「せーっの……」



[狂沢&巣桜]

 「「連絡先、交換して下さーい!!」」




 息を合わせるふたり。




[朝蔵 大空]

 「わ、私の?」



[狂沢 蛯斗]

 「貴女以外誰がいるんですか」



[朝蔵 大空]

 「うん……いいよ」




 そう言って私はポケットからケータイを取り出してみせる。




[巣桜 司]

 「お、お願いします」



[朝蔵 大空]

 「オッケー」




 私はまず司君と連絡先を交換する。




[狂沢 蛯斗]

 「大空さん、ボクのも」



[朝蔵 大空]

 「あ、うん……」




 狂沢君まで……狂沢君にはあんまり教えたくないなぁ。



 かと言って司君には教えたのに狂沢君だけ教えないってのはまずいしな。




[狂沢 蛯斗]

 「はい大空さん」



[朝蔵 大空]

 「はーい」




 私は流されて狂沢君とも連絡先を交換してしまった。




[朝蔵 大空]

 「でもふたりとも、いきなり連絡先とか……どうしたの?」




 私は気になったので聞いてみた。




[巣桜 司]

 「あっ、えっとー……その、特には……」



[狂沢 蛯斗]

 「ボクは大空さんの事、もっとよく知りたかったので!」



[巣桜 司]

 「あっ……うん!ぼくも!」



[朝蔵 大空]

 「あははっ、そっかそっか。なんかありがとね」




 思ってたより可愛い理由だなと。




[狂沢 蛯斗]

 「ちょっと巣桜君、真似しないで下さい」




 狂沢君が司君の方をジッと見る。




[巣桜 司]

 「そそ、そ、そんなつもりは……」




 あれっ?




[朝蔵 大空]

 「無い?……無い…………」




 五木君の連絡先が、消えてる……?



 バグ?それとも私、間違えて消しちゃった?






 ガララっ……。





 

[二階堂先生]

 「よしお前ら席着け〜ホームルームを始めるぞー」




 教室に二階堂先生が入って来た。



 恒例の起立礼きりつれい




[二階堂先生]

 「文化祭の準備は各自順調みたいだ、俺らもそろそろ本気出さないとな」




 来た来た!文化祭の劇。



 どうなるか分からないけど、こんな私がようやく貰えた主役!



 これから私なりに頑張ってみよう。




[二階堂先生]

 「演目は『白雪姫』、主役の姫と王子は朝蔵と卯月、だったよな?」




 だったよな?とか言ってるけど決めたの先生でしょ。



 と思いつつも私は黙って小さく首を縦に振った。




[二階堂先生]

 「じゃあ、そのほかの役も決めていきたいんだが……」




 その時、誰かが手を挙げたのが見えた。




[木之本 夏樹]

 「はい」




 木之本君?挙手するなんて珍しい……。



 しかもこのタイミングで?




[二階堂先生]

 「おーなんだ木之本?」



[文島 秋]

 「どうした?」




 文島君が不思議そうに木之本に呼び掛ける。




[木之本 夏樹]

 「俺が王子やります」



[朝蔵&卯月]

 「「えっ」」




 私は耳を疑った。



 私と卯月君はふたりして『えっ』と言う声が出る。



 周りもザワザワとしている。




[二階堂先生]

 「なんだ木之本、やりたかったのか?」



[木之本 夏樹]

 「はい」




 木之本君が私の方を見る。




[朝蔵 大空]

 「うん?」




 木之本君って、役とかやりたがる人だったんだ?



 なんか意外だったな。



 でも、王子役は前から卯月君に決まってたのに……。




[永瀬 里沙]

 「ちょっと!ちょっと!何言ってんのよ木之本ー!」



[木之本 夏樹]

 「なんだよ」



[永瀬 里沙]

 「あんたさ、空気読みなさいよ。あんたが王子なんて、なれる訳無いでしょ?」



[文島 秋]

 「そうだよ木之本、役やりたいんだったら他にもあるし」



[木之本 夏樹]

 「は?俺は王子がやりたいんだよ!」




 木之本君、どうしても王子の役がやりたいようだ。




[永瀬 里沙]

 「あんたみたいな乱暴な王子いないわよ!だったら地味な卯月君の方が良いわ!」



[卯月 神]

 「……」




 サラッとディスらないであげて……。



 それにしても木之本君、なんでそんなに王子役にこだわるんだろ?




[文島 秋]

 「だってさ、諦めろよ木之本」



[木之本 夏樹]

 「だったら別に王子をふたりにすれば良いだろ」




 へ!?



 王子が、ふたり……?




[永瀬 里沙]

 「あはは!もっと有り得ないって!王子がふたりとか、お話変わっちゃうし〜」




 里沙ちゃんは木之本君の発言が面白かったようで声を出して笑う。




[木之本 夏樹]

 「な、なんだよ!普通にやったら面白くないだろ!」




 "面白い"か……。




[文島 秋]

 「木之本、それはさすがに無理が……」



[二階堂先生]

 「おっ!良いな木之本。それアリだな」



[文島 秋]

 「えっ」




 静まり返る教室。



 二階堂先生、何故か木之本君の意見に肯定的だ。




[二階堂先生]

 「実はな、一昨年おととしも白雪姫だったんだよ。木之本の言う通り、普通にやっちゃあ"つまらない"。他にも木之本の案に賛成な奴はいるか?」




 二階堂先生の掛け声に教室内でひとり、またひとりと手を上げていく。




[永瀬 里沙]

 「あー、なんか良いじゃん。面白そうだし、私も賛成〜」




 そう言って手を上げる里沙ちゃん。



 里沙ちゃんまで……。



 こんなのってアリ!?




[卯月 神]

 「ふーん」




 隣に居る卯月君、少し何か言いたげな様子。




[朝蔵 大空]

 「な、なんか予想にもしない事が起きちゃったね?」



[卯月 神]

 「あの男、木之本君。何がしたいんでしょうね」



[朝蔵 大空]

 「さ、さぁ……?」




 木之本君、ほんとに急にどうしちゃったんだろ?




[永瀬 里沙]

 「あ!せんせーい!私も良い事思い付きましたー!」




 何か企んでいる様子の里沙ちゃん。




[二階堂先生]

 「お、どうした?どうした、言ってみろ」



[永瀬 里沙]

 「思い切って!『白雪姫と7人の王子様』とか!どど、どうですか?」




 興奮した様子で堂々と言い放つ里沙ちゃん。




[木之本 夏樹]

 「は!?」




 木之本君はびっくりして里沙ちゃんの方へ振り返る。



 里沙ちゃんそれはちょっと思いっ切りすぎでしょ〜!!



 7人の王子様って……。



 少女漫画の設定か何かですか??




[二階堂先生]

 「おー!7人の小人じゃなくて7人の王子様か!いいねいいねー!それで行こうじゃないか!」




 ちょっ……皆が私ら主役を差し置いて色々と話を進めてってる!?



 7人の王子様か……でも、私も一体どんなお話なるのかちょっぴり気になる。




[二階堂先生]

 「でも7人かぁ……あと5人、どうする?」




 木之本君と卯月君でふたり、7人にはあと5人王子役が必要。



 ひ、姫は私ひとりだけで良いのかな?




[二階堂先生]

 「よーし、やりたい野郎は手を上げろ!」




 先生の掛け声と同時に教室の全男子がふざけて手を上げまくる。




[木之本 夏樹]

 「お、おいお前ら!挙げるな!」




 そう言って木之本君が男子達を睨みつける。



 お、お、多すぎ〜!!




[二階堂先生]

 「おいおいお前ら全員上げてどうすんだよー!欲しいのは5人までだって!」




 ほんとだよ!!



 これじゃ何人の王子様になるのよ……。




[文島 秋]

 「あはは……」




 乾いた笑いをする文島君。




[巣桜 司]

 「ひぇ……すぎょい」




 ビビり散らかす司君。



 あ、文島君と司君だけ上げてない。



 確かにふたりはそんなに前に出るような性格じゃないもんね。



 良かった、ふたりはまともみたい。




[二階堂先生]

 「よし!3日後、王子役オーディションを開催する!参加者は野郎全員!で、良いな?」




 だから文島君と司君だけは手を上げてないんだってば。



 でも、良いや……皆やる気になってるし。



 私がなんか言える空気じゃないよね。




[木之本 夏樹]

 「な、なんでこうなるんだよ……」




 貴女がとんでもない事言い出すからでしょ。



 里沙ちゃんも完全にふざけてるなぁ。



 劇……どうなるんだろ。



 不安だ。



 ……。



 その日の夜……。




[加藤 右宏]

 「ウーン……」



[朝蔵 大空]

 「なぁに?調子悪いの?」




 ベッドの上、隣で丸くなって小さくうなるミギヒロ。



 私は心配になってミギヒロの様子を確かめる。



 熱は無いみたいだけど……。




[加藤 右宏]

 「だ、ダイジョブ……先に寝てくれ」



[朝蔵 大空]

 「うん……」




 心配ながらも明日も学校なので私は目を閉じて眠りに入る。



 ……。




[加藤 右宏]

 「はぁ、はぁ……つれぇ」




 この夜、ミギヒロの体に何かしらの変化が訪れた。






 「エバースプリング」おわり……。



 第1傷「真紅」 〜完〜



 以上、13話(26部分)をちまして『悲恋の大空』の1章を終了させて頂きます。



 最後に、ここまで読んで下さった優しい読者様にお願いがあります。



 この小説に作品フォロー、評価☆☆☆、応援♡、コメントなどをしてもらえると作者は大変喜び、今後の執筆の励みにもなります。



 頑張りますのでどうかこれからも、『悲恋の大空』をよろしくお願い致します!


 

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