第12話「ヨコドリデイト」前編

 ピピピッ!ピピピッ!






[朝蔵 大空]

 「う、うーん……」




 朝の部屋にアラーム音が鳴り響く。



 その音で私は目を覚ましたんだ。




[朝蔵 大空]

 「うんっ……うーん」




 私はベッドから体を起こして、ベッドの上に座ったまま、うんと腕を伸ばして背伸びをする形になる。




[朝蔵 大空]

 「ふんっ、よーし……」




 昨日の晩はお風呂で髪にトリートメントをして、いつもより早めに寝て、目覚ましは9時に仕掛けた。



 だって今日は、朝蔵大空の人生初めてのデートの日なのだから!






 ブォォォォォォ……!!






[朝蔵 葵]

 「あら大空、早いわね。今日は土曜よ?」




 私が水分補給をしにリビングまでやって来ると、床に掃除機をかけて掃除をしているお母さんが居た。



 お母さんは、私が学校の日と間違えて早くに起きて来てしまったのだと、勘違いをしているみたいだ。




[朝蔵 大空]

 「べ、別に?たまたま早起きしちゃっただけ!」




 お母さんには今日デートがある事を教えてはいない。



 だから私は慌ててなんでも無いと誤魔化す。



 だって、家族の人に言うのは恥ずかしいじゃん!?




[朝蔵 葵]

 「そうなの?まあ、健康的で良いわね」




 私は急いで、出掛ける準備に取り掛かった。



 服は……昨日の内に決めといたから用意は出来てるけど。




[朝蔵 大空]

 「うーん……」




 私は自分の下ろしっぱのミディアムヘアに手を掛ける。



 常日頃から髪には気を使ってサラサラに仕上げてはいるが、これではいつもと変わり映えの無い私になってしまう。




[朝蔵 大空]

 「なんか……なんかしたいな?」




 私はお母さんを探しに、リビングに戻る。



 するとお母さんはソファでテレビを見ていた。




[朝蔵 葵]

 「あら〜この塩顔の子も、涼しさの中に愛らしさがあってとっても良いじゃない♡」




 やっている番組は、イケメン特集……。



 相変わらずだなぁと私は思う。




[朝蔵 大空]

 「あの……お母さん?お願いがあるんだけど……」




 私は悪いと思いながらテレビに夢中になっているお母さんに声を掛けてみる。




[朝蔵 葵]

 「ん?」




 するとお母さんがこちらに振り向く。




[朝蔵 大空]

 「私の髪、可愛くして?」



[朝蔵 葵]

 「あら……」




 私はお母さんの横に座り、丁寧に髪をかしてもらう。




[朝蔵 葵]

 「大空?貴女、好きな男の子出来たでしょ?」






 ドキッ……。






[朝蔵 大空]

 「えっ!?」




 す、好きな男の子!?




[朝蔵 葵]

 「ふふっ、ママにはなんでもお見通しよ」



[朝蔵 大空]

 「えーっと……」




 ふ、普通にしてたつもりなのになんでバレたんだろ?




[朝蔵 葵]

 「今度話、聞かせてね」



[朝蔵 大空]

 「う、うん」




 私がそう答えると、お母さんはそれ以上は何も聞いてこなかった。




[朝蔵 葵]

 「はい、どうかしら?」




 私は手鏡で自分の髪を見る、綺麗にハーフアップで整えられている。




[朝蔵 大空]

 「可愛い!」




 ハーフアップって簡単な髪型だけど、これだけでも大分だいぶ印象違うなぁ。




[朝蔵 葵]

 「あ、そうだ。ちょっと待っててね」




 そう言ってお母さんはソファから立ち上がってリビングから出て行ってしまった。



 それからしばらく待つと……。




[朝蔵 葵]

 「ちょっとジッとしててね……はい、出来たわよ」



[朝蔵 大空]

 「な、何したの?」




 私はもう一度手鏡で髪を確認する。



 すると、私の左側のサイドの髪に白いリボンが結ばれていた。




[朝蔵 大空]

 「おー!」




 白いリボンは、私の黒い髪によく映えているように見える。



 目立ちすぎないつつましやかな白リボン。




[朝蔵 葵]

 「どうかしら?」




 私は感動して目を輝かせ、頬を赤く染める。




[朝蔵 大空]

 「ありがとう!めっちゃ良い感じっ」



[朝蔵 葵]

 「ふふっ」




 その時、私はリビングの壁掛け時計に目が行く。



 時計の短い方の針が10時の数字にかなり近くなっていた。




[朝蔵 大空]

 「あっ!ありがとうお母さん!」




 そろそろ出ないと!



 と思い、私は荷物をまとめる。




[朝蔵 葵]

 「いってらっしゃい」




 私は急いで家を出て、学校まで向かう。



 ちょっと勇気を出して履いてみたミニスカートに気を配りながら……。




[朝蔵 大空]

 「ん……?」




 途中で信号待ちをしている時だった。



 な、なんか人に見られてる気がする……。



 さすがに私の自意識過剰だよね?



 にしても久し振りにオシャレしたから、ちょっと落ち着かないな。




[朝蔵 大空]

 「しっかりしろ、私……」




 私は周りに聞こえないような声でそう吐き捨て、両頬を軽く叩く。



 そして目的の学校はもう目の前。




[卯月 神]

 「はぁ……」




 あっ!あれ、卯月君だよね!?



 もう先に待ってる!



 校門の前で卯月君らしき人が立っているのが見えて、私は走って駆け寄る。




[朝蔵 大空]

 「卯月くーん!」




 私は大声で卯月君に呼び掛ける。




[卯月 神]

 「えっ……」




 そうすると卯月君はこちらに振り向いて驚いた顔を見せた。




[朝蔵 大空]

 「卯月君!」



[卯月 神]

 「あ、朝蔵さんですか?」



[朝蔵 大空]

 「え?そうだけど?えっと……そこのバス停からバスに乗ろ!」




 私達は近くのバス停まで移動してくる。






 ブロロロロロ……。






 しばらくして待っていたバスが来たので私達はそれにふたりで乗り込む。




[卯月 神]

 「これは?」




 卯月君が私に整理券を見せてくる。




[朝蔵 大空]

 「うん、それ降りるまで持ってて」




 卯月君、バスに乗るのは初めてそう?



 最近そう言う人多いよね。



 バス内はそんなに混んでなかったので、私達は前後に席に座る。



 私が前の席で、卯月君がその後ろ。




[アナウンス]

 「ピポーン♪海美溜うみたまり、海美溜」




 バスが目的地に停車をしようとしている。



 『海美溜海水浴場』。




[朝蔵 大空]

 「そこにお金入れてみて」



[卯月 神]

 「?……はい」




 卯月君が投入口に代金を落とす。






 ジャラララ……ポーン♪






[バスの運転手]

 「ありがとうございましたー」




 降りる人が居なくなると、バスはどこかへ道沿いに走り去って行く。




[卯月 神]

 「バス……?ああやって乗るんですね」



[朝蔵 大空]

 「うん!私もそんな乗らないんだけどね」




 なんせ外出する事がそんなに無いから。




[卯月 神]

 「……?」




 卯月君が辺りを気にし始めた。




[朝蔵 大空]

 「どうしたの?」



[卯月 神]

 「いえ、なんでもないです」




 ??




[朝蔵 大空]

 「えっと、ちょっと待っててね……」



[卯月 神]

 「はい」




 私は昨日学校で里沙ちゃんに貰った海美溜周辺について詳しく書かれているパンフレットを開いた。



 あっそうだ……せっかくなら。




[朝蔵 大空]

 「ねぇねぇ!どこが気になる?」




 私は卯月君にもパンフレットを見せる。



 せっかくなら一緒に見て決めたいもんね!






 ズキンっ……。






[朝蔵 大空]

 「いっ……」






 ──『一緒に読もっ!』






 また……私。



 一瞬頭に強い衝撃が走った。



 頭の痛みはあっさり引いた。



 だが私の中に残る胸のざわめき。



 この、記憶みたいなのは何?




[卯月 神]

 「……いっぱいありますね」



[朝蔵 大空]

 「……」



[卯月 神]

 「?……朝蔵さん?」




 卯月君に呼ばれて私はハッと意識を取り戻す。




[朝蔵 大空]

 「あ、ごめん…………なんだっけ?」



[卯月 神]

 「えっと、ここってなんですか?」




 卯月君はパンフレットのある箇所を指さす、私はそれを追って見る。



 『海美たまり水族館』。




[朝蔵 大空]

 「あっ、そこは水族館だね。良いね!私もそこに行きたい」




 他にも楽しそうな所はあるけど水族館か!



 私も最初に行くならそこって思ってたんだよね、卯月君とは気が合うかも!




[卯月 神]

 「スイゾクカン??」




 卯月君、水族館も分からないのかな?




[朝蔵 大空]

 「うん、とりあえず行ってみよっか」



[卯月 神]

 「そうですね」




 『海美たまり水族館』までは徒歩で行ける距離だったのでふたりで歩いて行く。




[朝蔵 大空]

 「わー……」




 大きな水槽に多種多様な魚達。



 皆があちらこちらに自由に泳ぐ。



 これを見るのが水族館の醍醐味だいごみだ。




[卯月 神]

 「……」




 はしゃぐ私に対して後ろの方で突っ立っている卯月君。




[朝蔵 大空]

 「ほらほら!卯月君もこっち来なよー」




 私は振り向いて卯月君に手招きする。




[朝蔵 大空]

 「きゃークマノミ可愛い♡」




 イソギンチャクから出てきた1匹のクマノミに私は夢中になる。




[卯月 神]

 「……これがサカナ。ふーん」




 卯月君は大してときめいていないように見えた。




[朝蔵 大空]

 「もー卯月君反応薄いよっ!」



[卯月 神]

 「ご、ごめんなさい?」




 私が怒ると卯月君が謝ってくる。



 まあ感性は人それぞれだからね。



 数十分後……。




[朝蔵 大空]

 「クマノミー……」



[卯月 神]

 「そ、そろそろ他に行きましょうよ」



[朝蔵 大空]

 「あ!ごめん!行こうか」



[卯月 神]

 「はい……」




 お次は深海魚コーナー。



 こちらはかなり部屋が暗い。



 お互いの様子を見ながら歩かないとすぐにはぐれてしまいそうだ。




[朝蔵 大空]

 「おー……」



[卯月 神]

 「うわぁ……」




 深海魚は個性的な見た目の生き物が多い。



 なんとも神秘的だ……。




[朝蔵 大空]

 「あ!カニだ!」




 私は足の長ーいカニに目が止まる。




[卯月 神]

 「カニ?」



[朝蔵 大空]

 「うん……」




 美味しそう……。






 ぐーぎゅるるるるる……。






[朝蔵 大空]

 「あっ……!?誰?卯月君??」




 その時、お腹が鳴るような音が聞こえた。




[卯月 神]

 「貴女ですよ……」



[朝蔵 大空]

 「私か!」




 どうやら腹の虫を鳴らしてしまったのは私らしい。



 そう言えば、お昼を食べるにはもう良い時間。




[卯月 神]

 「どうしますか?」



[朝蔵 大空]

 「うーんそうだね……あっ」




 そう言えば館内でちょっと食べ物が買えるような場所があるって書いてあったな。




[朝蔵 大空]

 「うみたまりカニバーガーと言うやつにしてみましたー!」



[卯月 神]

 「じゃあ僕もそれで」



[店員]

 「はい!かしこまりましたー」




 私達ふたりとも、カニバーガーを頼んだ。




[卯月 神]

 「カニって、さっきの?」



[朝蔵 大空]

 「あ!そうかも!深海魚食べれるなんて、貴重な体験だね!」



[店員]

 「あ、そちらは普通の毛ガニですねー」



[朝蔵 大空]

 「あっ……そうですか」




 なーんだ、深海のカニじゃないのかー。



 まあでも実際、毛ガニの方が美味しいよね。




[店員]

 「お待たせしましたー、うみたまりカニバーガーでーす」



[朝蔵 大空]

 「あ!卯月君の分も来たよ!受け取って」



[卯月 神]

 「ありがとうございます」




 商品を受け取ると、私達は座れる場所を探す。




[朝蔵 大空]

 「あ、そこにイスがあるよ!」



[卯月 神]

 「はい」




 いざ実食。




[朝蔵 大空]

 「うん!美味しー!」



[卯月 神]

 「へぇ……」




 卯月君も『美味しい!』って言えば良いのに。



 まあそう言う性格じゃないのは分かるけど。



 って言うか、私が聞けば良いのか!




[朝蔵 大空]

 「お味はどう?」



[卯月 神]

 「どうって……美味しいと思います」




 100点満点の『美味しい』ではないけど卯月君の口に合ったみたいで良かった。




[朝蔵 大空]

 「一緒の物食べるって、なんか良いね!」




 私は嬉しくて笑顔になってしまう。




[卯月 神]

 「……ははっ、そうですね」




 と言って卯月君は控えめに笑う。



 あ!嘘でしょ!?




[朝蔵 大空]

 「えっーー!!?」




 私は思わず大きな声が出てしまう。




[卯月 神]

 「な、なんですかいきなり」



 

 だって!だって!




[朝蔵 大空]

 「卯月君の笑った顔!初めて見た!」



[卯月 神]

 「?……僕の?」



[朝蔵 大空]

 「だって!だって!卯月君と言ったら、無愛想で、笑顔が無くて!」



[卯月 神]

 「えっ」



[朝蔵 大空]

 「感情が無くて、いっつも無表情で、いっつもつまんなそうなのが卯月君じゃん!」



[卯月 神]

 「ふーん」



[朝蔵 大空]

 「はっ……!?」




 し、しまった。



 私ったら、勢いで色んな事言っちゃった!




[朝蔵 大空]

 「って言う……クールな所が卯月君の良い所だよね!」




 私は急いで自分の失言にフォローを入れる。




[卯月 神]

 「……そうですね。貴女も、そうやってすぐに焦って、落ち着きが無くて、感情が顔に出やすくて、情緒不安定なそう言う"バカ正直"な所が良い所なのではないでしょか?」



[朝蔵 大空]

 「うっ……バカ正直?」




 は、初めて言われた……って言うか、完全にカウンターかまされた〜。



 と言うか、そんな私の短所が今みたいにスラスラ出てくるって言う事は……。




[朝蔵 大空]

 「卯月君さ?私の事、実はよく見てくれてるんだね?」



[卯月 神]

 「……調子に乗らないで下さい」




 うわっ!お、怒らせちゃった?



 な、なんでー!?



 とりあえず謝らないと!




[朝蔵 大空]

 「ご……ごめんなさい〜!!」






 つづく……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る