第1話「何かが始まる日」後編

 私がひとりで通学路を歩いていたその時。




[朝蔵 大空]

 「私……何か、忘れているような……」






 パンっ……!






 急に後ろから誰かに背中を叩かれた。




永瀬ながせ 里沙りさ

 「おはよっ」




 横に顔を向けると、そこには中学からの親友の永瀬里沙ちゃんがいた。




[朝蔵 大空]

 「びっくりした……里沙ちゃんかぁ」




 さっき私の背中を叩いたのは、里沙ちゃんだったみたい。




[永瀬 里沙]

 「今年も同じクラス!」



[朝蔵 大空]

 「うん!私、里沙ちゃんしか友達いないから……ほんとに良かった…………」



「永瀬 里沙」

 「今年は出来るってー」




 こうやって明るくポジティブな里沙ちゃんに私は今まで色々助けられてきた。



 里沙ちゃんは美人でオーラもある、そして私はフツウ。




[朝蔵 大空]

 「そうだと良いんだけどね……」




 私は人見知りでコミュニケーション能力も人より欠如けつじょしている。



 私には積極性が無く友達作りも言うまでもなく下手だ。




[永瀬 里沙]

 「てか朝のニュース見た?」




 里沙ちゃんの表情は真剣だった。




[朝蔵 大空]

 「えっ?朝はニュース見てない……お母さんが録画見てて。何かあったの?」



「永瀬 里沙」

 「殺人があったんだって。しかも結構近い所で、怖くなーい!?」



[朝蔵 大空]

 「えっ、怖いね」






 ドンッ!






[女子A]

 「あー、ごめんなさーい」




 後ろから走ってきた女子生徒に肩をぶつけられた。



 謝罪をする時もこちらの方を見ずに言ってきたので私は少し傷付いた。




[永瀬 里沙]

 「大丈夫?」




 里沙ちゃんは心配そうに私の肩を撫でてくれた。




[朝蔵 大空]

 「うん、全然大丈夫」




 私は無理に笑顔を作った。




[女子A]

 「嫉束しったば君おはよー♡」



[嫉束と言う男]

 「おはよう」




 媚びた挨拶をした女子に相手の男は微笑んで返事をした。




[女子B]

 「今日もカッコ良い〜」



[女子C]

 「カッコ良いって言うか美人だよねー……」




 周りの女子達は目をハートにしてその男に夢中になっている。




[永瀬 里沙]

 「出た。嫉束界魔かいまだ、ファンの民度が悪いって言う……」




 嫉束界魔。



 隣のクラスのモテ王子。



 『SFCエスエフシー』と言う嫉束界魔の為のファンクラブもあるとか、色々黒い噂も聞いている。



 嫉束君は皆の王子様だから、抜け駆けしようもんなら酷い罰を与えられるとか、全校生徒からハブられるとか。




[朝蔵 大空]

 「凄い人気……」




 彼の顔は本当に綺麗、白い肌に白い髪、キラキラな金の瞳。



 私もつい見とれてしまう……。




[SFC会員A]

 「ギロッ……」




 私と里沙ちゃんふたりで嫉束君を見ていたら、ファンクラブであろう女の子がこっちをきつく睨んできた。




[大空&里沙]

 「「あ…………」」



[永瀬 里沙]

 「い、いやーでも私のタイプはもっとクール系だからさー」



[朝蔵 大空]

 「私も……!ヒーローよりヴィランが好きだし!」



[永瀬 里沙]

 「大空、それ分かる」




 私達はビビって嫉束界魔には興味無い事をアピールする。




[SFC会員A]

 「なーんだ野良か」



[SFC会員B]

 「嫉束君の魅力が分からないなんて!どうかしてるわ!あの子達っ!」




 普段『にわかがカッコ良いなんて言うな!』とか言って怒ってるくせに……。




[SFC会員C]

 「まっ、余計なライバルが増えなくて良いんだけどっ!」




 ファンクラブの子達がこっちに聞こえるように悪口を言っている、本当に民度が悪いようだ。



 なんでそこまで言われないといけないの?



 と言うか、本当に危ない。



 下手に刺激して目を付けられたらたまったもんじゃない。




[嫉束 界魔]

 「……」




 聞いた話によると彼は今まで誰とも付き合った事が無いんだとか、まああくまで噂だが。



 恋人を作る事を周りが許さないのか、本人が恋愛に興味が無いのかそこまでは知らない。



 私の予想だと多分前者だと思う。



 いつもどんな気持ちで過ごしてるんだろ?



 知らぬ間に彼女達に縛られる生活はさぞ生き辛い事だろう。



 まず彼はこの境遇に何も不満を抱かないのか?



 気になる。




[嫉束 界魔]

 「……」



[朝蔵 大空]

 「あっ」




嫉束君の顔を見っぱなしで彼の横を通り過ぎようとすると、彼がこっちに気が付いて目が合ってしまった。




[朝蔵 大空]

 「あ……すみません。あっ……!」




 安易に話しかけてはいけないのに、思わず謝罪の声をかけてしまった。



 私は急いで顔をらす。




[永瀬 里沙]

 「も、もう行こう!」



[朝蔵 大空]

 「あ……うん!」




 先を急ぐ里沙ちゃんを私は追いかけた。



 それから私は一度も振り返らなかった。




[朝蔵 大空]

 「えーっと私の席は、ここか」



 私は教室の真ん中の列の後ろから2番目の左側の席に座る。




[永瀬 里沙]

 「やったー、私あんたの前だった」




 里沙ちゃんは嬉しそうに私の所へ寄ってきた。




[朝蔵 大空]

 「!!……ほんとー!?」




 唯一の友達と席が近くて私も喜ぶ。




[声の大きい男]

 「おい!!」




 何者かが大声で私達の元に駆け寄ってきた。




[朝蔵 大空]

 「きゃっ!?」




 驚いて私の肩が跳ね上がる。




[永瀬 里沙]

 「『おい!!』じゃないわよ。大空が怖がってるよ、普通におはようぐらい言えない訳?」



[声の大きい男]

 「お、おはよう……」




 この乱暴そうな男の子は去年も同じクラスだった木之本きのもと夏樹なつき君。



 声が大きくて、私の苦手な人間の部類に入る。



 悪い人ではないんだろうけどね。




[眼鏡の男]

 「おはよう。去年に引き続き今年もよろしくね」




 木之本君の横に付いている知的そうな男の子は文島ふみじまあき君。



 優等生で礼儀正しく、頭が良くて勉強も教えてくれる優しい子だ。




[文島 秋]

 「ごめんね朝蔵ちゃん、木之本がうるさくて」



[朝蔵 大空]

 「う、ううん!大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから……」




 そう、他人がやった事を代わりに謝るようなとても優しい子なのだが……。




[木之本 夏樹]

 「いや、俺は何もしてなくないか?」



[文島 秋]

 「したから言ってるんだよ。お前と違って朝蔵ちゃんは繊細な子なんだから。その馬鹿デカい声であまり余計な事を喋るな」




 このように親しい相手には割と毒舌が出るらしく。



 別にそこまで言わなくて良いのに……。




[木之本 夏樹]

 「……んだよ」




 イライラしだした木之本君は逃げるように自分の席に戻って行った。



 文島君もそれに着いて行くように戻って行った。




[永瀬 里沙]

 「そう言えば大空の隣の子、まだ来ないね?」



[朝蔵 大空]

 「あっ、確かここは空席……」



[永瀬 里沙]

 「ん?」






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






 私が言い終わる前にホームルーム開始のチャイムが教室に鳴ってしまった。






 ガラッ……。






二階堂にかいどう先生]

 「よーしお前ら〜席着けー」






 ざわざわ……ざわざわ…………。






 教室には去年も担任だった二階堂先生が入ってきた。



 その瞬間クラスじゅうがざわついた。



 理由は二階堂先生の後ろからもうひとり誰も知らない男の子が教室に入ってきたからだ。




[二階堂先生]

 「えーと……二階堂です。分かるよな、今年もよろしく。俺の事はもういい。そして、俺の隣にいるのは転校生の卯月うづきしん君だ」




 転校生……?




[二階堂先生]

 「卯月、自己紹介出来るか?」



[卯月 神]

 「はい。初めまして、卯月神と申します。よろしくお願い致します」






 パチパチパチっ!!






 彼は話終わると深めに頭を下げた。



 その瞬間クラス全員で一斉に拍手。



 私もそれに遅れて加わる。



 転校生の卯月君は笑顔が無く、無愛想な子だった。



 だけど私は一目見た瞬間何か運命を感じたんだ。




[永瀬 里沙]

 「なんか普通?の子だね」




 里沙ちゃんがこっちを見て私に聞かせるようにボソッと呟いた。




[朝蔵 大空]

 「えっ、う、うんそうだね」



[二階堂先生]

 「ありがとう卯月。じゃあお前の席は……そこ、空いてるとこ」




 二階堂先生が私の隣の席の方を指さす。






 ドキッ。






[卯月 神]

 「はい」




 私が『あっ』と思った時にはもう卯月君がこちらに来て私の隣の席に座ってしまった。



 どうしよう、何か挨拶した方が良いのかな?




[朝蔵 大空]

 「よ……よろしくー」




 コミュ障な私にはこのひと言が精一杯だ。




[卯月 神]

 「はい、よろしくお願いします。朝蔵さん」




 あぁ良かった、ちゃんと返事を貰えた……。



 シカトされなくて良かった。



 私は人見知りだから、無視されなかっただけでも嬉しい。




[永瀬 里沙]

 「頑張ったじゃん」




 すかさず里沙ちゃんがこちらに振り返って言ってきたかと思ったら、すぐに前を見直した。




[朝蔵 大空]

 「う、うるさい……」



[卯月 神]

 「あの、朝蔵さん。色々教えてほしいです」



[朝蔵 大空]

 「あっ、うん、いいよ!」






 キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪






 卯月君と話していたらいつの間にかホームルームが終わっていた。




[永瀬 里沙]

 「……そうだ大空!学校案内してあげたら?多分まだあんまり分からないでしょ」



[朝蔵 大空]

 「あー確かに……」




 里沙ちゃんは私達に気を利かせたようだった。




[卯月 神]

 「お願いします」




 あーもう断れない雰囲気に……嫌ではないけど緊張するし、そもそも私に務まるかな!?




[朝蔵 大空]

 「じゃ、じゃあ昼休みで良いかな?」



[卯月 神]

 「大丈夫ですよ」




 そして時が立って昼休み。




[朝蔵 大空]

 「じゃあ……行こっか」



[卯月 神]

 「お願いします」




 案内するって言っても、どこからすれば良いかな?



 とりあえず1階から行こうか。




[朝蔵 大空]

 「えっと、2年の昇降口はここです。で、事務室に続いて職員室、校長室……で、会議室かな」



[卯月 神]

 「ここには何があるんですか?」



[朝蔵 大空]

 「え?会議室って言ってもなにも無いよ、空き教室みたいな感じ」




 私は会議室のドアを開いて卯月君に中の様子を見せる。




[朝蔵 大空]

 「ほら、鍵はいつも開いてるの。でも!入り浸るのはダメだと思う……」



[卯月 神]

 「その様ですね…………ちょっと良いですか?」



[朝蔵 大空]

 「えっ」



[卯月 神]

 「中で」




 卯月君が部屋の中に入って行ったので私もそれに釣られて会議室に入ってしまった。






 ガシャンっ……。






 すぐさま卯月君が部屋のドアを閉める。




[朝蔵 大空]

 「あ……何?」



[卯月 神]

 「ずっと……ずっと貴女に……」




 卯月君は早足で私の元まで歩いてくる。



 何か言いながら。




[朝蔵 大空]

 「え?」



[卯月 神]

 「会いたかった!」




 そして思いっ切り私に抱き着いてきた。




[朝蔵 大空]

 「え……えっ!!?」






 「何かが始まる日」おわり……。

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