D-5

 朝食をとる彼を、じっと見つめる。

「私のこと、何も聞かないんですね。追い出しもしないし。だから――」

 私みたいなのにつけ込まれちゃうんですよ。

「――…もう。いいです。私、カナンっていいます。今年の三月で高校卒業なんですけど、卒業前にどうしても叶えたいことがあって。」

 話していると、呆れたような、困ったような表情で、うろたえているようにも見える。あの日見た彼、今まで聞いてきた噂とは、少し……だいぶ違う。

「続きは帰ってきてから」

 切り上げられてしまった。残念。仕事の邪魔をしたいわけじゃないから、大人しく従った。

 出かける彼のあとを追いかけ、声をかける。

「いってらっしゃい。気をつけてくださいね」

 久しぶりに言った、そしてはじめて言った、義務ではない言葉。

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