第5話 フレンチトーストには生クリームを足すのがいい
宿泊施設……。
その名の通り、宿泊する場所を意味する。
ベッドがあれば最高だが、寝袋でも構わない。
今の運転席で寝る生活に比べれば。
『宿泊施設』を押す。
モニターには一つの項目だけだった。
『宿泊部屋を作成しますか?』
……これって……。
俺はさっきに冷蔵庫を思い出していた。
このフードトラックはどこか可怪しい。
だが、俺は迷いなく押した。
決済画面には『100万円』と書かれていた。
「結構、高いぞ」
だが、僕の中では金銭感覚が少しおかしくなっていた。
ドラゴンさんから貰った3億円分の金貨のせいだろう。
本来だったら、絶対に押さないボタンを一瞬の迷いだけで押してしまった。
今度は厨房の方からドン!! と音がした。
……。
厨房エリアを覗き込むが、特に変化はない。
「宿泊部屋があるんだよな? きっと……」
だが、どこを探しても、それらしいものは見当たらない。
困ったな……。
もう一度、運転席に戻って、モニターの確認だ。
『宿泊設備』と……。
『宿泊部屋』という項目が増えていた。
それを押すと……。
広さや高さ、調度品を扱えそうな項目が並んでいた。
その中で気になったのが……
『出入り口の調整』というものだ。
これを押すとフードトラックの絵が映し出され、小さな扉が点滅していた。
ここは……。
再び、厨房エリア。
床下にある整備用の小さな扉の前に立っていた。
「ここが光っていた場所だよな?」
至って、普通の整備用扉。
こんなところに出入り口が?
信じられない思いで、扉をゆっくりと開けた。
「マジかよ」
そこには、天井の低い3畳ほどの部屋があった。
「屋根裏部屋だな……まるで」
気になって、外に出てみると外観は何も変わっていない。
「さっきの部屋はどこに行ったんだ?」
全く分からない……。
だけど……。
「これで横になって寝られるな」
自分でも、適応力の早さに驚いてしまうが、それほど横になって寝られることに飢えていたのだ。
「せっかくだから、寝具も用意しよう」
『商品注文』と……
検索バーに『寝具 セット 安い』と入力。
『検索条件に該当する商品は一点です』
悪くないな。
すぐに注文をして、到着を待つ。
……。
布団が届いた最初の夜。
天井の低さに何度も頭をぶつけたが、寝てみれば落ち着く場所だ。
窓もなく、真っ暗闇というのがちょっと怖い。
タブレットPCの光がなかったら、扉を見つけることさえ怪しいな。
「明日は照明を手に入れてみるか……」
俺は知らずに眠りについていた。
翌朝、ちょっとパニックになって頭をぶつけた。
運転席でないことに動揺してしまったんだ。
「やっぱり、横になって寝ると気分がいいな!!」
朝の森林浴を楽しみながら、コーヒーを飲んで、寛いでいた。
「どれ、何か作るか」
あるのはパンか……。
トーストっていうのも味気ないよな。
俺はボールに卵と牛乳、それに砂糖を混ぜていく。
「たしか……あった、あった」
生クリームを入れるとコクが出るんだよな。
出来た液にたっぷりとパンを浸す。
これだけでも十分に美味い。
だが……。
フライパンにバターを多めに入れる。
溶けていくときに出てくる香りがなんとも食欲をそそるんだよな。
その中に一気に浸々のパンを入れる。
ジューッという音と一緒に香ってくる卵とミルクの香り。
焦げ目が出来るだけで十分だろう……。
「よし、出来たな。ペバーミントを添えて、フレンチトーストの完成だ」
ペパーミントを指で擦って、香りを鼻につける。
それから齧ると、爽やかな香りと甘さが一気に口の中に広がる。
「ああ、うめぇな」
……。
「なんだか、ここの生活に慣れちまったなぁ」
……。
周りには木が狂ったように生い茂り、視界を否応なく遮る。
鶏の鳴き声も虫の音色も何も聞こえない森の静けさにゾッとした。
「さてと、そろそろドラゴンさんが来る頃だ。仕込みをしておこうかな」
……。
ひたすらキャベツの千切りをしていると、ドスンっと地面が揺れた。
「来たな……」
……。
「よお。ドランゴさん」
「ふむ。いつ者を頼む」
これがいつもの掛け声だ。
とりあえず、三枚を同時に焼く。
これが鉄板のサイズからいって、限界の枚数だ。
それを三回は最低でもやらないといけない。
「今日も美味かった。じゃあ、また来る」
「ああ」
また、早く帰りやがった。
ここからの時間が退屈なんだよな……。
俺は暇つぶしをするために運転席に戻り、画面を立ち上げた。
『商品注文』と
検索バーに『ゲーム オススメ』と。
『検索条件に合致した商品は1件です』
前から思っていたが、ここの商品って……数少ないよな?
まぁ、ないよりはマシだな。
どれどれ……。
ってリバーシーかよ!!
一人で出来ねぇじゃねぇか。
と言いながら、注文する。
まぁ、手持ち無沙汰くらいはしないで済みそうだな。
……。
「ああ、負けちまった!!」
俺対俺の戦いは意外と面白かった。
互いに条件を付けて、戦えばそれなりに面白い。
今は枚数が少ないほうが常に先手というルール。
これがなかなか面白い。
といっても、数時間もすれば飽きがやって来るし、もう二度とやりたくなくなる。
もう一度、検索だ!
次はもっと違う検索で……。
『暇つぶし オススメ』と。
『検索した条件に合致した商品は2件です』
おっ?
初めての複数ヒット!!
期待できそうだな。
『ペットを飼ってみませんか?』
『ペットを飼ってみませんか?』
どっちも同じタイトルだな。
バグか?
上を押してみると……。
なるほど……ペット動物の玩具だな。
へぇ……結構、しっかりとした作りなんだな。
なになに、大砲付き?
バカにしてんのか!?
どこの世界に玩具に大砲を乗っけるんだよ。
値段は……1000万!?
完全にぼったくりだな、これは。
次だ。
これは……本物のペットのようだな。
なになに……かわいい外見で買い主さんにぞっこん?
飼育して、かわいい相棒に育ててみませんか?
……俺は想像していた。
この静かでコミュ障のドラゴンさんとずっと顔を合わせることを。
その中で可愛いペットがいれば……。
俺は迷わなかった。
値段は……10円!?
また、随分とふざけた値段だな。
まぁいいか。
色々と種類が選べるのか?
違うな、色か……。
そうだな……青なんてあるのか。
変わった色だし、面白そうだな。
注文確定、と。
さて……とりあえず、ドッグフードでも……。
あれ? ペットって言ったら、犬か猫だよな?
どっちなんだろう?
商品履歴を見ても、色だけしか書いていない。
青いペット?
まぁいいか。
一応、ドッグフードとキャットフードを買っておこう。
初日から餌無しは可愛そうだもんな。
……。
翌日、ウキウキしながら、いつもの配達物が置かれいるところに向かった。
おっ!
結構、大きな箱だな。
開いてみると……餌だった。
「あれ? ペットがいないぞ?」
辺りを見回しても、箱はどこにも見当たらない。
「もしかして、遅延でもしているのかな?」
まぁ、どこから来ているか知らないけど、こんな森までよく翌日に運べたものだよな。
遅延くらいは仕方がないだろう。
「さて、朝飯を食べたら、仕込みをしないとな」
んんんっと背伸びをして、深い深呼吸をした。
いい気持ちだ……。
その時、袖を引っ張られた。
ドラゴンさん?
「今日は随分と早い……あれ? いない」
視界の下の方でぴょこぴょこと動くものがあった。
すっと、視線を下にやると……。
かわいらしい女の子が立っていた。
小学生くらいの背格好……まっすぐと伸びた青い髪。
そして、立派な角が生えていた。
うん……きっと、そうだろうな。
「子供はペットじゃなぁぁぁい!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます