おっさん農家のフードトラックにようこそ〜竜王の棲家に異世界転移〜お客様はドラゴンばかりなんですが?
秋 田之介
第1話 フードトラックと共に異世界に行きます
いつものようにメールをチェックしていた。
「なんだ、これ?」
俺は仕事を転々として、脱サラ農家としてほそぼそと田舎で暮らしている。
だけど、俺はそれで終わりたいとは思わなかった。
今までの経験を使って、新しい商売をしたかった。
それが週末限定のフードトラックだ。
農家という利点を活かした、いい商売だと思った。
提供する料理は野菜たっぷりのサンドイッチだ。
各地のイベント会場を転々と移動して、そこで売る。
これが当たりだった。
若い女性を中心に飛ぶように売れた。
儲けも本業の農家以上だ。
それもこれも格安で出会えたフードトラックのおかげだな。
明日のイベント会場へ出発するまで少し時間があるな……。
次の週末に向かうイベント会場の詳細を見るためにメールを見ることにした。
題名には各地の地名が書かれている。
なるべく近くがいい。
移動のために夜中出発は正直、40歳の体にはキツイ……。
いつまでも若いつもりだが……体は正直なものだ。
そんな題名を見ている時に変わったタイトルを目にした。
『世界規模の会場に招待します』
俺は胡散臭いと思いながらも、クリックした。
会場名:アースリウス
人口:50,000,000人
……随分と大きな会場なんだな。
五千万人て……流石に何かの間違いだろう?
どんなに大きなイベントだって10万人もいれば凄い方だ。
一体、何倍あるんだ?
場所は……。
所在地:■■■■■
なんだよ、文字化けかよ。
あっ……クリックできそうだな。
ウイルスとかだったら嫌だなぁ……。
『今夜0時にお迎えに参ります。フードトラックにご乗車の上、お待ち下さい』
そんなメッセージがモニターに書かれていた……。
なんだよ、これ。
めちゃくちゃ怖いんだけど。
俺はすぐにモニターを消して、落ち着こうとした。
0時に迎えに来る?
今夜?
時計を見れば、すでに11時を回っている。
さすがに冗談だよな?
いや、そもそも、あんなメッセージを信じるなんて馬鹿げている。
無視だ……。
俺はその後も違うメッセージを探した。
そして、23時50分。
「これで準備いいな」
明日の会場は、今から出発しないと間に合わない場所だ。
エンジンを掛け、いつものBGMが流れてくる。
何気なく、時計を見ると23時55分。
「あんなのは何かのイタズラだよな?」
誰に言うでもなく、独り言をつぶやき、アクセルを踏んだ。
ぶーん!!
動かない!!?
まさか……と思ったら、ギアをパーキングにしたままだった。
「ちょっと、動揺しすぎだろ」
俺は昔からホラーは苦手だ。
あんな画面が映し出されて、怖くないわけがない。
考えないようにしよう……。
動き始めて、最初の信号に差し掛かる。
ここは大通りに出る信号だから、やたらと長く待たされる。
……23時59分。
いやだなぁ……。
信号が青に変わり……動き出した瞬間だった……。
目の前にあった大きな通りのある景色が一転して……
森に変わっていた。
最後に見た時計の時刻は0時だった。
「どうなってんだ?」
辺りは薄暗いが、さっきみたいに真っ暗ではない。
かろうじて光が差し込み、辺りを見ることが出来た。
真正面には大きな木。
俺は窓を開け、車両の後ろを見た。
大きな木がある。
ちょうど、気に囲まれた場所にフードトラックが挟まっている状態だ。
「動け……ないのか?」
不安に押しつぶされそうになりながらも、恐る恐るドアを開けた。
ドアの開放と同時になる開閉を知らせるブザーがより恐怖感が増す。
……ドアを開けると……。
深緑の匂いが鼻につく。
「森だな……一体、どうなっている?」
訳が分からない。
一歩、外を出ると、ずんと沈む土の感触に足を取られそうになる。
周りはすべて……木、木、木、木……。
木しかない。
目の前に少し開けた場所があるが……。
それがなんだと言うんだ。
新たな発見に対しても、何の感動も起きない。
「とにかく、帰らないと……」
再び、トラックに戻り、ナビを起動させる。
ここは一体、どこなんだ?
ナビは無事に起動し、何もない場所に一点だけ表示されるだけ。
街中を走っていたのに……何もないなんて可怪しい。
地図の縮尺を変えるために、拡大をひたすら押し続けた。
徐々にその全貌が現れる……。
「どこだよ、ここ」
知らない大陸の中心に俺がいた。
周りには知らない地名が並び、『✖』がプロットされていた。
もし、ナビが壊れていないとすると……。
俺は地球とは別の世界に来てしまった……。
そして、ふと思い出した。
そうだ!!
あのメッセージを。
急いで、タブレットPCを開いた。
「メール、メール。あった……」
再び、メールを開くと同じ文面が並ぶ。
会場名:アースリウス
人口:50,000,000人
これを信じるなら、ここは地球ではなく、アースリウスという世界だ。
そして、5千万にというのはこの世界に住む人たち……。
さっきまで、文字化けしていた部分が読めるようになっていた。
所在地:竜王の棲家
「なんだよ、竜王の棲家って……」
その瞬間だった。
大きな地響きが聞こえ、さっきまで少しの明るさがあった視界が一気に暗くなった。
タブレットPCを仕舞い、トラックのドアを開けた。
壁……?
さっきまで、なかった壁が出現していた。
まるで鱗のような柄が描かれ、どこまでも上に……。
上に……。
何かと目が合った。
それは……とても巨大な……トカゲだった。
いや、なんとなく分かる。
これはドラゴンと言われるもの。
そして、壁だと思っていたのはドラゴンの足だった。
「神の息吹を感じて、警戒してみれば……たかが、人ひとりとはな」
しゃべった……。
ドラゴンが口を開いたかと思ったら、声を発した。
それだけでも驚くべきことだが、何よりも口が臭かった。
「くっさ!!」
「ぬ!?」
しまった……聞こえたか?
この目の前の巨大な足にちょっと触られるだけで死んでしまうだろう。
……それもいいか?
どうせ、こんな訳のわからない世界で、どうやっても抜け出せない森だ。
生きていたって結果は一緒だろう。
だったら、ドラゴンに踏まれて死にました……なんて、死に方としては世界でたった一人の経験者になるだろう。
さあ、踏め!
……。
いつまでも襲い掛かってこないことにじれったさを覚える。
覚悟を決めたんだ!!
一思いにやってほしい。
「覚悟が鈍るだろうが!! 早く、踏めよ!!」
「何を言っている? 神の使徒を殺せるわけがないだろうに」
使徒? 何を言っているんだ?
……。
この状況は何だ?
なぜ、ドラゴンはずっと黙っているんだ?
俺にどうしろと?
「用がないなら、帰ってくれないか? 近くにいられると怖くて堪らないんだ」
「ん? うむ。ならば……」
小さくなったドラゴンは、まるで人のような姿になってしまった。
ちょっとうざったい程、美形な男だな……。
「……あんた、さっきのドラゴンか?」
「うむ……」
だから、なんで無言になるんだよ。
「……何か、食っていくか?」
「うむ……」
よく分からないやつだな。
とにかく場繋ぎで言ってしまったものの……これが続くのか?
それがドラゴンとの初めての出会いだった。
こいつは長く人と話せなかったコミュ障だったことが後で判明した。
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