(3)『他人の顔を自然にデカくするアプリ』、これでわたしの勝ちだ

 深い恨みは、強いモチベーションを生むらしい。

 指導してくれることになった人とメールのやりとりを根気よく続け、ついにアプリは完成した。

 名付けて――


『顔デカメラ』


 これは、カメラアプリだった。

 撮った瞬間に人間の顔をすべて大きくできるもので、もちろん『登録済みの自分の顔以外』という指定が可能だ。加工されたとはすぐに気づかないような、自然なサイズアップ。素晴らしいアプリとなった。


 初めてそのアプリで彼女と写真を撮ったときはさすがに緊張したが、無事に彼女を大顔にすることに成功した。

 そしてその場で彼女に写真を送った。あとで送っては別途画像アプリでの加工を疑われかねない。


 それ以来、菜々子の一歩下がり癖は影を潜めるようになった。

 だがそれで彼女の罪が消えたわけではない。ふだん遊ぶときや学校行事のときはこちらから積極的に声をかけ、彼女と一緒に写真を撮り、その場で彼女に送り続けた。


「いつも撮ってくれてありがとー! 助かるわー」


 そう言ってくる彼女だが、写真はことごとく顔デカになっている。

 ざまあ、と内心ほくそ笑んだ。




 そんな中、菜々子が芸能事務所に所属することになった。

 どうやら、雑誌モデルとしてのデビューを目指すらしい。菜々子本人から報告を受けて知った。

 もともと彼女はスタイルがよく服装もおしゃれであり、意外というほどではなかった。


 それよりも、わたしとしてはチャンスだと思った。

 彼女がデビューしたら、たまっている彼女との写真をSNSにアップしていくのはどうか?


 もちろん『顔デカメラ』で撮ったものだけ。

 そうすれば、雑誌などに載る彼女の写真には“小顔加工”疑惑が出るだろう。

 面白い展開になりそうだ。

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