6B-7☆『同題 -flare bless-』
──そして、ジュリアスが現れた。
「……ジュリアスか」
「応よ」
ジュリアスは答える。そして、続ける。
「まぁなんだ、一息つく間もなかったな。だが、ギリギリ間に合ったらしいな。
なんで、お前は下がっていろ。出番はこの後だ……そうだろ?」
「俺の炎と火竜じゃ分が悪い……とでもいう話か?」
「まさか。そんな程度の低い話をするつもりはないさ。でもよ、あれが本物の
火竜ならともかく、偽物如きに安売りをするな。いいから、俺に任せろよ」
ジュリアスは前に進み、ドーガと肩を並べる。
彼を横目で見ると、軽く肩を押して下がらせた。自分が一歩前へ進みながら。
「よう。待たせて悪かったな」
見上げるジュリアスと見下ろす火竜。
その口元からは相変わらず炎が洩れているが──
「……ジュリアス!」
火竜がゆっくりと翼を広げ、翼膜を一杯に伸ばした。それが何を意味するのか、
ドーガは知っていた。
竜の翼は鳥などと違い、飛翔する為にあるのではない。あれはいわば魔石と同じ、
天然物の魔力増幅器である。
竜としての力を最大限に高める
火竜ならば炎熱の。
全開して最大顕現する火竜の炎熱は一帯を焦土と化すだろう──
「いいか、あれは"五冠"のflare blessだ、その火力はお前が想像するよりもずっと
恐ろしい! 強大だ! 身を守るにはヤツの火力を上回り、食い尽くして焼き尽くす
しかない!」
「その正攻法はお前の"絶対昇華"の対処法だろうが。いいから見てろ、集中を乱す」
「ジュリアス……!」
暗に「邪魔だ」と言われてはドーガも引き下がらざるを得ない。
(集中と言ったな……それだけ強い魔法を使うって事か……?)
実際、この神聖魔法の使用には緊張や心理的な
しかし、死後を経た現在なら向き合ってもよい気がしていた。この前に使用した
神聖魔法などがその前向きな気持ちの表れと言えよう。
このような機会を与えて下さった神様に感謝を捧げ、ジュリアスは宣言する。
「──主の名に於いて命ずる!」
肉声で叫んだ、間髪入れずに呪文を詠唱する……!
「偉大なる三柱 勝利を司りし、エスト・グレイ=スよ! 我がめ……」
だが、これだけで襲い来る恐怖に歯の根が合わず、舌がもつれそうになる。
潔く発声での詠唱は諦めた。
『我が女神は盾を持たず 右手に
運命を切り開く黒曜の
脳裏に幻影が浮かぶ。女神の
悪寒が走る。恐怖に
『我が手に
大きく広げた火竜の翼膜が熱を帯びて純白に染まる。
火竜が今一度天に向かって吼えた。威嚇ではなく自らの威容を誇示するような
絶叫が轟く。
呼気が燃えて吐き出され、火の玉となって留まっている。
上向いた火竜の眼前に。炎が。
燃え盛る火の玉はまるで小さな太陽のようで、周辺を眩しく照らす。その明るさは
最早、直視出来ないほどの光量だ。
そしてその光量に比例して熱量も相応の──ともすれば、こうして溜めている
だけで周囲が
だが、火竜はその熱を完全に支配下に置いていて一切漏れ出ないようにしている。
解放時に余す事無く発揮する為に。
しかしこれが火竜──"五冠"のflare blessの火力、能力の全てだと思ったなら
それは大変な思い違いである。
flare blessの火力の顕現とは、この程度ではない。その炎熱は赤鱗の如く
赤く迸ったりはしないのだ。
flare bless本来の炎熱とは、純白なる翼膜が示す通り世界を白く塗り潰す。
肉体も魂も完全な"白"に同化する。
flare blessの真の火力とは浄化であり、世界への祝福なのだ。
そして、"白"から再び色が戻ったその時には
或いは海しか残らないという──
頭上の小さな太陽は今や地上から色を消してしまいそうなほど、強烈な閃光を
放っていた。……臨界が近いのだ。
ドーガは炎を纏った右手をひさしにして顔を
その顔色を見た。
(あれは……?)
その時には既にジュリアスの左手には"ある剣"が握られていた。
太陽が──太陽が
……呪文は完成した。願いは成就した。
その手に渡された鉱石の刃を持つ剣は
しかし、この剣の本質は刃物としての切れ味ではない。ありとあらゆる危難を
奇跡で払うところにある。
闇で払い、闇を晴らす。
ジュリアスは声にならぬ声で叫び、力の限り振り切った……!
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