第30話

いいものを書かなければと、焦(あせ)りだけが先に走り、焦(あせ)れば焦(あせ)るほど何も書けなくなりました。以前なら、止めるのが難しいほどの勢いで、すらすらと書き進めていたのに、今は夜通し起きていても、全く一行も書けないということもありました。


やっとある程度まとまったものが書けても、どうしても作品の出来に満足できずに破り捨てていました。それで今は、昔書いたものに手を加えて、少しでもいいものにしようとしていました。


こちらのほうが、一から作品を作るより、まだ満足のいく仕事ができました。


作家は、娘をしばしば仲間の集いに誘ったり、時々は娘と共に外出したりしました。それは娘にとっては大変な喜びでしたが、かと言って、創作のほうは、やっぱり、なかなか進みませんでした。


ある日、一緒に公園に出かけた時のことです。空は遠く広がり、青く美しく日に輝いていました。樹々の青葉は、ちらちらと震(ふる)え、砂場は乾いて白っぽく見えていました。

「どうです?昨日は 作品は書けましたか?」

作家は娘が書けないでいることを知っていましたので、優しくそう尋(たず)ねました。。


「いいえ、それがあんまりよく書けないんです。いいものを書かなくては、と思うんですけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る