第5話
これは生まれた時からそうでした。そのために娘は、随分(ずいぶん)苦しんできました。ちゃんと歩くことが出来ないために、子供の頃はよくいじめられました。
娘の歩く後ろを、剽軽(ひょうきん)で心ない少年が、ひょこひょことカエルが飛び跳(は)ねるような格好(かっこう)で真似て歩き、皆をどっと笑わせました。これにはもっとも心の優しい子供でさえ、ついこらえきれずに、ぷっと噴(ふ)き出しまいました。
ああ、娘はこういうことのためにどれほど心を傷つけられ、苦しんできたことでしょう!けれども、誰も、誰一人も、娘のそこまでの苦しみを分かってくれませんでした。なぜなら、そこには誰も足の悪い者がいなかったからです。
娘は、どうして足がまっすぐではないのだろうと悲しみ、天を恨(うら)みもしました。
「ああ、神様!どうして私の足はまっすぐではないのです? どうして、あなたは私を苦しめるのですか?」
娘の日日は、つらく苦しみの多いものでした。楽しく安らかな日より、じっと痛みに耐(た)えるような苦しみの日が、ずっと多かったのです。
悲しくて、つらくて、本当に生まれて来なければ良かったと、何度思ったことでしょう!十四歳の時に娘は母親を亡くしましたが、その母の最期を見た時に、娘はこの世というものを理解しました。
母親は、あまり裕福な家の出ではありませんでした。小さい頃から家のお手伝いをして働かねばなりませんでした。でも、母親は挫(くじ)けませんでした。母親の心には、希望があったからです。
「いつか、いつか、いい日がやって来る」 そう信じて母親は、ただひたすらじっと我慢しました。そう信じていなければ、生きていけませんでした。やがて、母親は実業家の父と巡(めぐ)り合い、激しい、焼けつくような、心のすべてを、命を、生涯をかけた恋をして結婚しました。
幸福でした。まるでシンデレラになったような心持ちでした。というのも父は美男で優しく、大変な財産家でもあったからです。けれど、悲しいことに父は仕事仕事仕事で、ほとんど家にいませんでした。
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