三番目に仲がいい友達と偽カップルになったらめちゃくちゃグイグイきます

犬甘あんず(ぽめぞーん)

第1話

 一番は莉果りかで、二番は雪凪せつな。三番目に来るのが、国光くにみつ

 友達に順位をつけるのってあんまり良くないと思うけれど、あえて言うならこの順番になる。


 一番と二番にはそこまで差がないが、二番と三番にはかなりの差がある。

 国光のことを名前じゃなくて苗字で呼んでいるのも、心理的な距離が結構離れているからで。


 でも三番目とはいえそれなりに仲がいいのだから、国光のことは嫌いじゃない。むしろ好きな部類だ。


 莉果にも雪凪にも言えないけれど、三番目の国光には言えることだってある。

 例えば——


「国光、彼氏の作り方教えて!」


 こういう感じの、情けないこととか。

 放課後のファストフード店で、私は国光に頭を下げていた。


「いきなり奢るとか言うから、変だと思った。どうしたの、急に」


 国光はポテトをつまみながら言う。

 彼女の爪にはキラキラしたネイルが塗られていて、視線が少しそっちに吸い込まれる。


 頭を上げると、目が合った。

 髪と同じ栗色の瞳が、私をじっと見つめている。黒目がちな大きな目には目力があるけれど、くりくりしていて可愛らしくもある。

 文句なしの美人さんだ。


「莉果と雪凪にね、彼氏がいるって言っちゃって」

「なんでそんなこと言ったの? どっからどう見ても、小日向って彼氏いる感じじゃないじゃん」

「うっ……」


 失敬な。確かに彼氏はいないけれど、どっからどう見てもいない感じではないと思う。


 こう、大人の魅力的なオーラが出ていたっておかしくはない。

 そのせいで皆遠慮してしまって、声をかけてこないだけかもしれないではないか。私だって本気を出せば彼氏の一人や二人や三人くらい余裕で作れる。

 作れると思う、けど。


「だってだって! 二人があんまりにも彼氏がどうだのこうだの言うから! それで心望ここみはどう? なんて振られて私は彼氏いないから、とか言える!?」

「私なら言うけど」

「むむ」

「意地っ張り。見栄っ張り。お子ちゃま」

「むむむむむ……!」


 ひどい言われようだ。

 自分でもわかってる。わかってるからこうして恥を忍んで、国光に打ち明けたんじゃないか。


「言っとくけど私も彼氏できたことないから、わかんないよ?」

「え? いっつも告白されてるのに?」

「男子と付き合うとか別に、興味ないしね」

「わー、さっすがモテ女だぁ」

「帰っていい?」

「ごめんなさい」


 国光は美人だ。

 それにいつも堂々としてるし、明るいし、楽しそうだし。彼女に相談すれば彼氏くらい簡単に作れると思ったのだが。

 当てが外れたかも。


「そもそも彼氏なんか作んなくても、適当にいるって体で話合わせりゃいいじゃん」

「それができないから作り方教えてって言ってるの!」

「料理のレシピじゃないんだから、作り方とかないと思うけど」

「うぐぐ……」


 打つ手なし。

 このままじゃ彼氏の話についていけず、また莉果たちに子供だって舐められてしまう。


 私は子供ではないしむしろ皆より誕生日が早い分お姉さんだ。

 だというのに皆私のことを舐め腐っている。

 許さん。


「……うーん」


 国光は何かを考え込むように顎に手を当てた。


「お願い、国光。お礼ならいくらでもするから、私のことを救って!」

「友達と簡単に話を合わせる方法、ないことはないよ」

「ほんと!?」

「ほんとほんと。すっごい簡単だし、今すぐできる方法だよ。小日向さえうんって言ってくれればね。……していい?」

「うん! いいよいいよ! なんでもして!」


 なんか引っかかる言い方だけど、莉果たちと話を合わせられるならなんでもいい。


「じゃ、目瞑って」

「うん」

「それで、ちょっと顎上げて」

「んー」

「いただきます」


 いただきます?

 さっきハンバーガー食べる前に言ってなかったっけ。


「……!?」


 唇に、何かが触れた。

 あったかくて、柔らかくて、でも適度に硬くて濡れたもの。


「っ!? んん!?」


 目を開けようとしても、開けられない。

 国光の手が、私の瞼を押さえている。


 何が起こっているのかわかるまで、数十秒はかかった。その間に国光は私の口内を蹂躙して、離れていく。


 キスされた。

 突然、いきなり、わけもわからず。


 国光の手が離れたのを感じて、目を開ける。

 彼女は口直しと言わんばかりにポテトを摘んでいた。

 私の唇はポテト未満かこの。


「な、ななな……国光!」

「なあに、小日向」

「何してんの!」

「ちょっと、ボリューム落として。皆見てるよ?」

「……うぅ」


 周りの視線を感じて、声を落とす。


「いきなり何してんの」

「これでキスの話、友達とできるでしょ?」


 いや、それはそうかもだけど。

 確かにキスの感触とか色々これで話せるようにはなったかもだけど、でも。


「私、ファーストキスだったんだけど」

「私もだよ。お互い様じゃない?」

「あ、そうなんだ。それはそれは……じゃなくて!」

「恋人になってあげるよ。もちろん、偽のだけど」


 当然のように、国光は言う。

 じっと彼女の顔を見れば、微笑まれる。美人はどんな顔してても美人だけど、笑ったらもっと美人だから困る。

 私が間違ってるような気がしてくるし。


「友達と話合わせたいなら、私と恋人っぽいことすればいいじゃん。そうすれば、ちゃんとしたこと言えるようになるでしょ?」

「それは、そうかも」

「でしょ。私も恋人とすることって興味あるし、どっちも損しないね」

「……」


 そう、だろうか。

 ていうか、男子と付き合うのには興味ないのに恋人とすることには興味あるんだ。


 いや、それはいいんだけど。

 よくよく考えると、他に莉果たちと話を合わせる方法なんてない気がする。彼氏だって一日二日で作れるものではないだろうし、その間に彼氏と何したとか話を振られたらアウトだ。


 国光と偽カップルになれば。

 私に本当は彼氏がいないってことが皆にバレることはない。


「国光は、いいの?」

「よくなかったらしてないし。キスも、恋人っぽいこととかも、友達同士ならノーカンでしょ?」

「……確かに」


 確かに、そうだ。

 友達とならいくらキスしてもノーカウントだろう。小さい頃に友達やら家族やらとキスすることくらい、誰にだってあるだろうし。私だってある。


 偽カップル作戦、天才かもしれない。国光も恋人がするようなことに興味があるなら、ウィンウィンな関係とも言えるし。


 私は莉果たちと話を合わせられる。国光にも得がある。

 やっぱり国光に相談して正解だった。


「じゃあ、これからよろしくね、国光!」

「……ふふ、うん。よろしく、小日向」


 私はぎゅっと拳を握った。

 待ってろ莉果、雪凪。じっくりねっとり恋人同士の話をして、私が大人の女だってことを思い知らせてやる。

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