第6.5話 彼との出会い
その日は天気が良く絶好の散歩日和だった。部屋の窓を開ければ爽やかな風が肌を
久しぶりの外出は心地よく足が軽い事に気付いた。先週まで期末テストで机に
せっかくなので父の職場―橘総合病院に行こうと思い足を早めた。
病院までは歩いて15分くらいの距離ではあるがこの通りは車が多いので気をつけながら進んだ。
家を出て5分くらい経った所で1つの交差点に着き、信号を待っていた。
そこで靴紐が解けているのに気付き、横断歩道の端に移動し靴紐を結んだ。
靴紐をキツく結び体を起こすと、
車道に1人のおじいさんが歩いていた。
一瞬何を見ているか理解できず幻覚を疑った。しかしどう見ても1人の人間であり、赤信号なのにゆっくり歩いている。
危ないと思った瞬間横からトラックが猛スピードで走ってきている。
―間に合わない―
そう思った時、すぐ真横を何かが通った。
それは……
一人の少年だった。
同じくらいの歳だろうか?無地のパーカーに黒のスキニーズボンとシンプルだが、何故か少し大人っぽく見える。
彼は私の横を
おじいちゃんを引っ張った反動で車道に出た彼はバランスを崩し、倒れ込みながら―
横から来たトラックに撥ねられた。
彼の体は風に飛ばされたプリントの様に数メートル吹き飛んだ。
一瞬、タイムラグの様な無音が訪れるが、歩道にいた誰かが叫んだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「おい!救急車呼べ!」
スーツを着たOL風の女性は叫び、横にいたサラリーマン風の男性は誰かに指示を出していた。
そんな中私はトラックに撥ねられた彼の…彼の表情を…あの笑った顔を忘れずにいた。
なぜ笑っていたのだろう…?
数秒間彼の表情が脳裏から離れず、吹き飛ばされた彼を見ると、膝立ちの状態で立ち上がろうとしていた。だが、彼は電池が切れた
崩れ落ちた彼を視界に捉えた瞬間―
考えるよりも先に彼の元へ走っていた。たった数メートル。たった数メートルなのに100メートル走っているかのような感覚に襲われるも彼の元へ辿り着いた。
「大―」
大丈夫ですか!そう言葉を掛けようと口を開いたが、彼の顔を見たら口から言葉が発せられなくなった。
「…ははっ……帰りたくねぇな…」
彼は先程と同様笑っていた。だけど苦しそうに笑っていた。
なぜ笑っているのか。あなたはトラックに跳ねられたんですよ?血が出ているんですよ?死にかけているんですよ?死ぬのが怖くないんですか?そんな言葉が脳裏を過ぎった。しかし、気づいたら口から言葉が出ていた。
「そんなに帰りたくないのなら、私の家に来ませんか?」
なぜこんな事を言ったのだろう?でも驚く程に自分は冷静でいられた。
彼は目を閉じていた。死んでしまったのだろうか?わからない。でもなんでもいい。
私は彼の頭を抱えると、自分の膝の上に寝かせた。まだ暖かい。微かだが息をしている。
口と鼻から血が出ていたので持っていたハンカチを取り出し、優しく拭き取った。
「大丈夫?」
彼の頬に触れながら声をかける。
閉じていた瞼を開け、彼の綺麗な真っ黒の瞳は焦点があっていなかった。
微かに口が動いたと思うと、
「……誰…?」
と小さく呟いた。
「私は―」
私は
意識を失った彼の顔をじっとただ静かに…救急車が来るまで見つめていた。
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