第19話 味への追及



「……この料理。工夫次第で、さらなる美味になるのではないか?」



 と、長老おじいちゃんが言った言葉に……私は背筋の寒気がぱりんと砕けたように感じた。



「焼いたこともだが、味が塩だけでは単調やもしれん。我々アヤカシとて、肉などは基本的に生とすることが多い。じゃが……儂は若い頃里を出て、他所のヒトらの街などに出たこともある。あれらには……塩以外の味があったのじゃ」


「『タレ』や『ソース』ですね!!」



 その可能性を先に言われるとは思わなかったが。


 中途半端な意見を言われるよりずっと良い!!


 むしろ、自分の料理への評価を正確に言ってもらえる方がありがたかった!



「……それって、ヒロが言っとったもっと美味くなる味なん?」


「そうなんだよ、クレハ!」



 バーベキュー串の本領発揮と言えば……日本だとタレやソースだ。


 塩味はどちらかと言えば焼き鳥に多い。塩コショウ味は下味に使うけど、味の決め手には少し欠ける。


 今回のは、岩塩だから風味付けには最適でも……だ。



「そうじゃ。その味わい……儂も口にしたのははるか昔。じゃが、覚えておる。肉と野菜をさらに美味に引き立てておったわ」


「ご助言、ありがとうございます」



 序盤は岩塩でもいいかもしれないが……リピートを考えるといささか弱い。


 しかし……材料次第では、ソースとタレにした方が良いとは思う。


 まさか、売り出し前の試作段階でもう言われるとは。けど、宙ぶらりんの……店出し以前に、調理見習いの私で出せる料理だなんて、本当にまかない程度。


 あの美女神様に言われたように……簡単かもしれないが、単純だけでは済まない結果がここにひとつ見出されているのだ。



「その材料などは……おそらく、この集落では手に入らぬじゃろうて」


「なんやて?」



 長老おじいちゃんが言う通り。


 調味料の露店は特になかったから……人間達の街とかに行くしか調達方法がないかもだが。


 そもそも、この世界に米以上に醤油とかみりんとかなかったら!?


 洋食だなんて、家庭料理かまかないくらいしか作れない私には……絶望的だ!?



「長老様、お聞きしたいことが」


「申してみよ」



 これは……旅をしたことがある長老おじいちゃんに、聞くしかない!



「口にされたことがあるその味……人間達の露店か何かで、今手に入るでしょうか?」


「……わからん」


「にゃぁ!?」


「……ですよね」



 長老おじいちゃんの若い時って言ってたんだもん。


 こっちの現代ではどうなのか……事情が変わっているかわからなくて当然。


 クレハは、面白いくらいにひっくり返ったけど。



「おじぃ!? ヒロの質問にちゃんと答えてや!」


「じゃかて、儂が里を出たのはお主くらいの年頃ぞ?」


「……うん千年前かい」


「そうじゃ」



 モンスターって、とっても長生きですねーと、思わずにいられない。


 けど、そんな昔に既にタレとかソースが実在しているのであれば。



「可能性を捨てたくはありません! 私……無理でも、人里に行ってみたいです!」


「……ほんまか、ヒロ?」


「半端なお店にしたくないでしょ? クレハも言ってくれたじゃない?」


「……せやなあ」



 私が決意を言うと、クレハは何故か……私にハグをしてくれました?



「クレハ?」


「そんなら、あちきもついていくわ〜。支援者として当然や」


「良いの?」


「むしろ、連れていきなさい。ヒロひとりでは、人里とて右も左もわからんじゃろ?」


「……おっしゃる通りで」



 と言うことで、調味料などの仕入れも兼ねて……人間のいる街に行くことになった。


 ただ、今日はもう遅いので……クレハの家に泊まらせていただくことに。ベッドはひとつしかないから……クレハは猫又ちゃんの姿に戻って、一緒に寝ることになったわ。

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