【急募】ログアウト不能のデスゲームと化したこの世界で、クランマスターに《鉄屑》を全財産で買い取らされた商人はどう生きていけば良いと思いますか?〜フルリンク型VRMMO【アナザーワールド】〜
カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画
第1話 プロローグ
【アナザーワールド】
2187年9月29日に発売されたこのVRMMOは、瞬く間にゲーマー達の心を奪った。
最新のテクノロジーを駆使し、現実の物以上に美しい木々や水の動植物が再現された世界。それこそ、匂いや質感、鮮度までもがリアルと同じなのだ。
そして、そこに暮らすNPCはAIにより本当に生きているかのような錯覚を覚えるほどで、NPCと想いが通じ結ばれるプレイヤーも少なくない。そのため理想の恋人を求めゲームを始める人も多い。
(恋人...私は別にいらないけどね〜)
そして、このVRMMOが他のゲームと一線を画すのは、フルリンク型であるという点だ。フルリンク型とは、ゲームでの視覚や聴覚などの五感をゲーム内アバターと完全共有するシステムであり、より高次元なゲーム体験を求めて創られた。
しかし感覚の完全共有が危険だというのは間違いなく。モンスターに殴られれば痛いし、炎魔法をあてられれば熱い。ある一定のラインで痛覚は遮断されるようにはなっているが、それでもフルリンク型によるショック死というのはあった。
そんな危険なシステムが使われていて、いまだ平然と運営されているのは驚きだし謎だけども...それでも多くの人がその危険を顧みずプレイするのは、感覚を共有することにより、この異世界ファンタジーな世界を現実と遜色なくまるで本物のように感じられること。
そう、そして...辛い現実から目を逸らし、異世界に転生したかのような、新たな人生を生きられること。それらが理由のひとつだと私は思っている。
――キーボードだけが存在する、白い部屋。ここはゲームスタート時に訪れる場所。電脳世界の入口。
「プレイヤーネームは...アカリ、と」
『ベータ版データを使用しますか?』▷Yes No
「Yes、っと...勿論つかいますよーっと。こつこつがんばって育てたんだからね〜」
プレイヤーネーム、アカリ。ジョブ、商人。
このゲームでは開始してチュートリアルをクリアすると、ジョブを授かる儀式が行われる。そこで決まったジョブは変えることができず、ジョブチェンジを行えない。
「天啓システム...。天から与えられた職は変えられない、か」
このシステムは良くも悪くも、だね。私も最初、バトルジョブを狙って始めてがっかりしたけど、今ではこの商人ジョブで良かったと思える。楽しい。
それに、私好みの可愛い専用装備が商人装備には多いしね。さーて、行きますか!
「――ダイブ、オン!」
視界が闇に包まれる。そしてあたりに小さな光が現れ始めた。星々が生まれ、宇宙空間が広がる。
その星の一つ、まるで地球のように見える星へと迫り、景色が変わっていく。
――ズズズ...フォン
世界が一変した。
「ふう。久しぶり...【アナザーワールド】」
始まりの街、【アルウィール】の入口。ここがゲームをスタートしたばかりのプレイヤーが訪れる四十七の街村の一つ。
周囲は深い森に囲まれていて、街の建物の殆んどが煉瓦と木で作られている、自然を愛し共存する街。
β版終了から約半年。暫く振りの街を眺め確認した私は、次に自身の姿を確認した。
「ふふっ。やっぱり可愛いなあ、この商人専用装備」
やっとの思いで手に入れた焦茶色キャスケット帽子。それに、必死に交渉して買った耳つきのフードが可愛い黒猫の外套と、かなり高かったダークグレーのミニスカート。
私のお気に入り杏子色の髪と相性抜群のコーデ!ちなみに髪型は毛先が軽くパーマのかかったボブ。ふっふっふ、やっぱり私のキャラ可愛いーっ!!
(三日かけてキャラクリした甲斐があったってもんよね!ふひひひっ)
っと、いつまでもこうしてられない。
「...クラン探さなきゃ。えっと、募集してる場所は〜」
おっきなクランがいいなあ。入ってくる物資も多いだろうし。売るものが沢山あれば売り買いとかで経験値を稼いで、ジョブレベルも一気に上がるからね。さてさて。
「ねえ、君...もしかしてジョブ、商人?」
「え?」
募集を探しに歩き出そうとした、その時。後ろから若い男の声がした。振り向くと、黒い鎧を着込んだ男。髪はブロンドの短髪。ロングソードを背負っているところを見ても、彼は戦士...バトルジョブのプレイヤーだろう。
「わ、私ですか...?えっと、はい...」
「初めまして。俺はクランのマスターをやってるミノルって者なんだけど、今丁度商人ジョブのプレイヤーを捜していてね。俺のクランに入らないか?その装備からしてレベルは高いんだろ」
「...ま、まあ、そこそこ」
「よし、じゃあ決まりだな。しっかり働いてくれよ」
なんだか凄く強引だなあ。まあ、とりあえず様子見で加入するか。合わなかったら抜ければ良いしね。
「は、はい。よろしくお願いします」
ミノルさんが宙に指を引くと、四角のウィンドが開く。そこに表記されているのは、クラン名と承諾するかどうかの『Yes/No』コマンド。
...クラン名は、【メテオ】か。
私は『Yes』のコマンドに指で触れた。
それを見届けたミノルさんが手を差し伸べた。
「ようこそ、俺のクラン...【メテオ】へ!」
「...よろしくお願いします」
こうして私は彼の手を取り、クラン【メテオ】の商人となった。
それから約二年後。
私達は突如、このゲームからログアウト不能となった。
そして、ほぼ無法と化したこの世界で、力のあるクランだった【メテオ】はミノルの指示の下、強奪、暴力、悪行の限りを働くようになった。
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