第2話


 状況が理解できないまま日々を送っていたが、だんだんと慣れてくるというもので、俺は上手いことこの世界で生きてきた。

 とは言っても、生かされてきたにほぼ近い。この世界はまるでゲームや漫画の様で、剣と魔法があり、王様がいて貴族がいる。そう、俺は貴族の家に生まれたのだ。しかも第一子。これって後継ってやつだから、将来的に安泰じゃん。なんて思っていたんだけれど、なんだか様子がおかしい。


「セレスティンはシャロンに似て美人さんだから、学園に通い始めたら婚約の申し込みが殺到しそうだなぁ」

「そうだな。うちは伯爵家だから、格上の侯爵家から申し込まれたら断れないよなぁ」

「殺到してくれれば、ゆっくり考えさせてください。って言えるんだけど……はぁ」

「なに?アランはセレスティンを嫁にやりたくないってことかな?」

「そうだよ。そう、家格が上の相手に入り婿してください。なんて……言えないよなぁ」

「確かに第一子なので、って言うのは難しいよな。俺たち夫夫だからなぁ」


 なんて会話をしているのが聴こえてきたからだ。

 なんだ、この、俺が『嫁』確定みたいな話し方は?いやいやいやいや、メイドさんたち女の人だよ?この世界、男しかいないわけじゃないよな?しかも夫夫だから断りにくいって?どう言うことだ?これは、早急に確認せねば。


「父上、母上、俺にはお嫁さんがこないのですか?」


 めんどくさいのでストレートに聞いてみた。貴族特有な会話なんてする必要はないだろう。なにせ家族だし、ハッキリさせたいし。


「え?セレスティン急だねぇ。って、俺たちの会話を聞いていたのか」


 母であるシャロンが少し慌てたような口調になった。眉尻まで下げて、困り顔だ。


「そうだなぁ、セレスティンはシャロンに似ているだろう?」


 そう言って父であるアランが俺を抱き上げた。安定の膝の上である。


「ほら、セレスティン、お前は見た目もシャロンに似ているし、体つきも細っそりしている。だから一般論としてね、セレスティンはお嫁さん体質なんだよな」


 言葉を探りながらアランが言ってきた。六歳の俺にわかりやすい言葉で、かつストレート過ぎない言葉を選んできるようだ。

 

「お嫁さん体質……」


 そのワードを聞いて、俺は自分の体をまじまじと見つめた。確かに、俺のからだは細い、いわゆる華奢な体だ。だが、俺はまだ六歳だから、これから学園に通って色々体を動かしたりしていけばそれなりに体が出来上がると思うのだが?


「それに、ほら、俺が言うのもなんだけど、セレスティンは俺にそっくりじゃん」


 シャロンが遠慮がちに口を開いた。うん、似ていることは自覚している。何しろアランの溺愛っぷりが激しいからな。愛する妻に瓜二つの俺が愛おしくて仕方がない。ってのがひしひしと伝わってくるんだよな、毎日。うん、今もな。


「だからな、セレスティン。残念ながらセレスティンのお嫁さんになりたいって言う女の子は現れないと思うんだ。誰だって、自分より綺麗な顔した男の嫁になんかなりたくはないんだよ」


 うう、シャロンが全くオブラートに包まない回答をしてくれた。まあ、確かにそう言った明確なこたえが欲しかった訳ではあるが。

 まさか、本当にそんな答えが返ってくるとは思わなかった俺は、落ち込んだ。だって、一縷の望みもないだなんて思わなかったのだ。


「お、俺は、お嫁さんなんかになりたくない」


 自分できいておきながら、勝手にショックを受けた俺は、アランの膝から降りて自分の部屋に引きこもった。メイドのマリがついてきたけれど、部屋から追い出した。だって理不尽だ、マリは女だ。見たことはないが、シャロンの友だちが女の子を産んだと言って、お祝いの品を持って出かけたことだってある。

 そう、数が少ないだけで女はいる。


「確かに綺麗な顔だけどさ」


 俺は鏡を見てため息をついた。

 シャロンに似て綺麗な金髪に、宝石のようにキラキラとした青い瞳。子ども特有のくせ毛がなくなり、六歳でありながらものすごい美人になっていた。黙っていれば性別はおろか、年齢もわからないぐらいの美しさだ。

 確かに、こんな顔した男の嫁になりたい女はいないだろう。だが、俺は嫁になりたくはないのだ。嫁になると言うことはつまり、シャロンのようになると言うことで、幼き日(今も幼いが)に聞かされたあの喘ぎ声を俺が出す立場になるわけで……つまり子どもを産むのは俺……俺が子どもを?


「そ、それだけは嫌だ」


 俺は絶望して目を閉じた。

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