第15話 母の期日に茫然自失。


 急遽訪れた妹達に塩パンを作って提供した私は自分の席に座り直して残りの朝食を食べた。

 その際に果菜カナを筆頭とする、外世界の長女から三女が朝食をいただきながら物申す。


「こちらに、召喚されたって、聞いて」

「慌てて準備して上の問題を解決させたのに」

「戻って来ないから見に来たのだけど、まさかのほほんとしているとはね?」

「無駄に焦って、損したよ」

「「ホントにそうね」」

「それはともかく、果菜カナ? 食べながら話すのはやめない? パン屑ボロボロと溢してるよ」


 物申しながらもぐもぐするから、呆れた私は果菜カナを叱った。

 あちらでは長女でもこちらでは七女だもの。


「ごめんなさい、実依マイ姉さん」


 叱りおえた私は食後の紅茶を飲みながら、三人へと改めて問いかける。


「それで、問題を解決させたって?」


 答えたのはこの場に居なかったもう一人の妹だった。


「こちらの神素不足を完全に解消したのよ」

「ああ、やっぱり不足していたんだ」

「解消したなら少しは落ち着くかな?」

「多分、落ち着くと思う。使い方次第だけど」


 一人だけ仕事部屋に向かっていたのは知っていたけどね。芽依メイは自分の席に座りながら自身にあてがわれた朝食を食べ始める。


「後は母さんから伝言も預かってきているわ」


 私は芽依メイの発した一言できょとんとし、姉さん達と顔を見合わせる。


「「「伝言?」」」


 芽依メイは私達のオウム返しに、


「ええ。美味しいわね、これ。やっぱり実依マイには敵わないわ。就職するなら是非」


 答えようとして思いっきり脱線した。

 私達や若結モユ達は椅子から転げ落ちた。

 真面目な空気が霧散してしまえばね。


「そういう事ではなくて!?」

「うちに就職しないの?」

「いや、就職先は、お願いするけど」


 おっと、脱線してツッコミを入れたのに自分から脱線事故を起こしてしまった。

 私は咳き込みつつ居住まいを正す。


「伝言の事、何を言われたの?」


 その間に姉さん達も椅子に座り直す。


「ああ、そうそう。美味しすぎて忘れそうになったわ」

「一応、褒め言葉として受け取っておくけど、今聞きたいのはそれではないよ?」


 芽依メイって、天然が入っているのか時々突拍子もないことをやってのけるのよね。

 まぁ天然に関しては私達姉妹全員が持ちうる素質なのだけど、ここであえて言わないよ?

 芽依メイは食べていた塩パンを置き、


「八月二十二日、その期日までに全ての妹達を回収する事っていう伝言よ。今日は三日ね?」


 大変意味不明な伝言を語った。

 姉さんはきょとんとしながら問いかける。


「妹達? それってどういう意味よ?」


 答えたのは真面目な顔の結凪ユナだった。


「どういう意味も何も妹達が居るのよ。この世界に隠れた七人の妹達。姉さんだけは記憶の封印があるから、解除していいって言われたわ」


 これには吹有フウ果菜カナも頷いている。

 芽依メイは塩パンを笑顔で咀嚼中だ。


「はい?」×5


 姉さんを除く私達五人だけが目を丸くする。


(七人の妹達? この世界に居る?)


 それだけ答えられても理解は追いつかない。


(姉さんだけが記憶を封印中?)


 ちなみに、私達の中で姉さん単体で呼ばれるのは一人だけだ。長女である実菜ミナだけは私達から名前で呼ばれることはない。

 互いに名前呼びしても姉さんだけは除外だ。

 姉さんはきょとんとしたまま記憶封印を解除する鍵言を意識下で唱える。


「封印? 何かあったっけ? えっと」


 その直後、


「あー!? はいはい、そういうことねぇ」


 叫んだと思ったら珈琲を啜り納得していた。

 姉さんの思考を読む限り確かに居るらしい。

 七人の妹達。それぞれのレベルはまちまちだが当時の年齢でいう八百才の妹達が居たのだ。

 だが、その中で、とんでもない内容も読み取れた。


(というか、既に稼働中って何!?)


 それはおよそ二千年前。

 姉さんだけが母さんに呼び出され、こことは異なる世界の創造に関わっていたのだ。その際に私達の複製神核で創り出された身代わりと共に、あれこれ段取りをしていたというのだ。

 それは当然、隠れて過ごす妹達も含む。


(これは姉さんのお尻を盛大に揉まないと!)


 今になって示され羨ましいという気持ちと怒りが湧いてきた私はビクつく姉さんを睨んだ。

 結依ユイは姉さんに憐れみの視線を向けるだけだ。怒りはあれど裁くのは私だから。

 同じく姉さんの思考を読んだ妹達は、


「あー、それで・・・」

「今になって世界名が判明したわね」

「名称未確定は知るまでは認識が出来ないと」

「母さんの意味深な、言葉の、意味はそれと」

「だから私達と神核統合するために?」

「妹達を探し出して完全に引き渡すと」

「それであっても時間が取れないわよ?」

「ほぼ留守になっても構わないって事でしょ」


 何か思い当たる事があるのか、果菜カナから順に困惑顔のまま珈琲を飲んでいた。

 唯一、理解不能を示すのは芽依メイ達の娘だけ。


「「「一体なんの話なの?」」」


 この子達は直接関与しない者達だから。

 母さんも年齢イコールな新神達に世界を預ける真似はしないもの。私達や隠れて過ごす妹達の年齢は近しいから与えたようなものだけど。

 すると怯えた姉さんが何かに気づく。


「え? ま、待って? 期日っていつ?」


 そして芽依メイに対して再度問う。

 芽依メイは呆れ顔で同じ言葉を口にする。


『八月二十二日、その期日までに全ての妹達を回収する事っていう伝言よ。今日は三日ね?』


 違った。口パクしながら過去に発言した言葉を記録水晶越しに自動再生させただけだった。

 私は呆れながら芽依メイを詰る。


「面倒だからって魔道具を使わなくても?」

「二度も言いたくないだけよ」

「大事な事なのに?」

「大事な事だからよ」


 一方の姉さんは日数を暗算していた。


「今日は八月三日、期日は八月二十二日。こちらは七月二十三日の午前八時過ぎ・・・」


 暗算して顔色が徐々に真っ青に変化する。


「あ、明日の午後十時までに全て終わらせないといけないのぉ!?」

「「明日の午後十時!?」」


 私も結依ユイも姉さんの叫びを聞いてとんでもない強行軍になりそうな悪寒がした。

 それを聞いてきょとんと反応するのは伝言を伝えに来た四人だけだった。


「え?」「は?」「何?」「どゆこと?」


 この反応、遅延中って事に気づいていない?

 気づいているが日数までは把握していない?

 時間的に猶予のある私達ならともかく、


結凪ユナは休暇を取ってきてるって言っていた気がする。今のこちらに滞在するって事は結凪ユナの私生活が詰むよね?)


 社会人として生活している者達にとっては死活問題だった。最悪、更迭されてしまうよね。

 経営者が追われて医療法人を掻っ攫われる。

 一応、四人の目的は思考を読んだからおおよその行動方針は理解出来る。

 真顔になった私は結依ユイと目配せし、


「二時間で一日が経過するから、結凪ユナはさっさと対を見つけて一度、戻って!」

「戻ってから、大陸核に降りる時だけ来たらいいから!」

「え、ちょ、ま、待って、どういう事なのよ」


 大慌てで結凪ユナを立たせて二人で玄関に引っ張った。時間遡行が出来るといってもあまり使えないんだよね、あれ。

 微々たる変化で大問題が起きてしまうから。

 私と結依ユイは玄関先で結凪ユナの問いに応じた。


「「ここに駄弁っているだけで外世界の半日が過ぎちゃうの!?」」

「はぁ!? じゃ、じゃあ、何? 上で十二日が過ぎていたのは?」

「「中層の大陸核が同期していないの!!」」

「そ、それは不味いわ。ちょっと行ってくる」


 結凪ユナは事の重大性に気づいたのか大慌てで、自身の受け持つ国家へと転移した。

 私達は玄関先で結凪ユナを見送ったまま、


「アイネ・ア・ロ・ラーナ第二王女だっけ?」

結凪ユナの思考を読む限りは、ね?」


 家には戻らず外の神殿へと二人で向かう。

 出た瞬間に風精霊が教えてくれたんだよね。

 神殿外に誰か来ているって。


「他の三人も対を探していると」

「おおよその場所は把握済み、みたいだけど」

「それで私達の対は?」

「何故か外に居る、と」


 どういうわけか、私達の対は記憶を呼び覚まして、封印解除を行っていたらしい。

 それこそいつの間にって感じだね。

 そして神殿外から入口を覗き込むと、


「あれ? このおっぱい?」

「あの顔つき、何処かで?」


 ハイエロフがスヤスヤと眠っていた。

 それも二人で階段へと横になって。

 人が来たら踏んづける事になるが、ここに人が訪れる事はない。精々、私達の同類だけだ。

 ここはそういう類いの大神殿だからね。

 仮に訪れるとすれば、森を守護するエルフ族くらいだろう。たまにお供え物があがるし。


「とりあえず、中に連れていこうか」

「そうだね。おっぱい揉んでいい?」

「それをすると起きると思うよ? 実依マイ

「起こすつもりで揉むんだよ。結依ユイ

「ああ、重いもんね」

「重いからね、胸が」


 憑依体に宿っているとはいえ眠る者の身体は重い。それならば揉んで起こすに限るもの。


「弾力が凄い。モチモチどころではないね」

「これは靱帯が強靱なのかな? 先も含めて」

実依マイ、中身が居ない時に解体していい?」

「本人に確認してからね。結依ユイ


 そうして二人で揉んで揉んで揉みまくると、


「「あっ!」」


 感じながら目が覚めたようだ。

 私と結依ユイの対である女神達が。


「おはよう、二人共」

「目覚めたなら自分の足で歩いてね」

「「ふぇ?」」




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